30:チャンスがない!
観劇の後の、ラウンジでのティータイム。
その後のディナー、さらには舞踏会。
フレデリックと二人きりで話せるチャンスがない!
例えばこんな感じになってしまうのだ。
ティータイムを終えた私は部屋に戻り、その後のディナーと舞踏会に備え、イブニングドレスへ着替えることになった。
選んだドレスは、スカイブルーの生地全体に、ビーズとビジューが飾られている。それはシャンデリアの明かりを受けると、キラキラと輝く。スカートのチュールは幾重にも重ねられ、見事な濃淡でグラデーションを表現していた。
これはもう、完全にフレデリックの碧眼を意識したドレスであり、彼にエスコートしてもらう気満々だったのに! センディングがまるで私と打ち合わせしたかのように、スカイブルーのテールコートで登場したのだ。
一方のフレデリックは、パステルピンクのシャツに白のテールコート! 全身白ではないが、やはり膨張色でコーディネートされてしまっている。こうなるとなんだかマシュマロみたいに見えてしまう。これなら王道の黒のテールコートを着せてあげればいいのに……。
しかもこの船旅に同行している、男爵家の行儀見習いの侍女を、フレデリックはエスコートしていた。
これにはなんだか無性に腹が立つ。
完全にセンディングの手の平で、転がされている気がしてならない。
ディナーでも私の隣はセンディングで、対面は男爵家の行儀見習いの侍女。センディングが席を立っても侍女がいるので、フレデリックと二人だけで、話すことができない。
だが、侍女は舞踏会には参加しないという。
ならばここでフレデリックと話すことができる……と思ったのだけど!
私とフレデリックが二人きりになりそうになると、センディングはここぞとばかりに人を紹介する。
この国の第二王子なのだ、センディングは。
よって少し離れた場所の貴族に声を掛けても、相手はものすごい勢いでこちらへ駆けつけてくれる。その相手を私に紹介した上で、自身はどこかへふらっといなくなるのだ。
これは完全にセンディングが、私とフレデリックが仲良くなるのを阻止しようとしているように思えた。
ただ、疑問に思う。
なぜ、と。
あれかしら。自分がモテると、センディングは自覚している。よって自分以外の男性と、私が親しく話したりするのが、許せないのかしら? 自分が一番、みたいな。
ともかくセンディングが邪魔をするので、どうしたってフレデリックと二人だけで話せない。
ならばと舞踏会の後、こっそりフレデリックの部屋を訪ねると……なんと兄弟揃って一つの部屋を利用していたのだ! そこは別々でいいのでは!? 何部屋も貸し切っているのだから! そう思ってしまうが、これについてはフレデリックがこう説明した。
「弟と僕とで部屋が別々ですと、護衛の近衛騎士達も、分散させる必要があります。彼らは任務でこの船に乗っていますが、こんな素晴らしい船です。一晩中、バーやラウンジは営業していますし、舞踏会も未明まで続きます。彼らにも少しぐらい、楽しんでいただきたいと思うのです。つまり護衛は一部屋で済むようにと、考えたのです」
フレデリックはなんて優しいのだろう!
彼を護衛する近衛騎士達は、きっとこの優しさに、感動しているはずだ。
そう私が思っていると、すぐにセンディングがこんなことを言い出す。
「兄上は時々寝言を口にするし、いびきもかくから、わたしは大変なんですよ。本当は別々の部屋の方が、安眠できるのに。護衛の近衛騎士達も任務なのですから、仕事はさせるべきと思いますがね」
センディングのこの言葉にフレデリックは「そうだったのか。寝言を口にしている自覚がなかったよ。迷惑をかけてすまないな、センディング。それにいびきは……これも気づいていなかった。申し訳ない」と、素直に謝罪している。
本当に、フレデリックは寝言を口にしたり、いびきをかいたりするのかしら?
あ、でも、フレデリックはぽっちゃり体型。私の前世経験を踏まえると、首周りの脂肪により、気道が狭まっていて、いびきをかきやすい……という可能性は、ゼロではないかもしれない。
というか、もしいびきをかくぐらいまでになっているなら、本当にフレデリックの健康が心配。センディングの指示に従ってはダメだと、早く伝えてあげたい!
いっそ手紙を書いて、フレデリックに渡してしまうことも考えた。だがそれこそ危険だ。もしそんな手紙をセンディングが見つけたら、怒りの矛先が私に向けられそうで怖い!
しばらくはセンディングの様子を観察し、フレデリックが一人になるタイミングを待つしかないわね。そういったことは、レイが得意としている。ここはレイに任せることにして、報告がくるまでは、無理にフレデリックと二人きりで話す機会を作らないようにした。
こうして。
二人と知り合って三日後。
レイが報告してくれたのだ!
センディングは、朝食の後、フレデリックに図書室やプライベートプロムナードデッキで過ごすことをすすめる一方で、自身はジムやプール、スカッシュコートへ向かい、汗を流しているというのだ!
「王太子なのだから、時間は無駄にできない。図書室には沢山の歴史書もあれば、天文学の本もある。『兄上、勉強された方がいいですよ』と言ってみたり、『たまには海でも眺め、リラックスされた方がいいですよ』と言い、デッキでのんびり過ごすことをすすめているようです」
このレイの報告を聞いた私は決意する。
「レイ、メイ。図書室とデッキで、フレデリック王太子殿下を見かけたら、声を掛けて!」
お読みいただき、ありがとうございます!
今日は2月22日、にゃん、にゃん、にゃんと猫の日なので
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