3:心強い仲間
双子の兄妹の、レイ&メイ。
一卵性双生児の二人は、顔つきや髪色がそっくり。
だが瞳の色は違う。
レイはキリッとした銀眼。
メイは凛とした金眼。
五歳の私と出会った時、二人とも十歳だったが、まさに美少年・美少女だった。
ただし、着ている服は汚れ、ボロボロ。
陶器のような肌も、その時は薄汚れていた。
今は綺麗に切りそろえられた短髪のレイの髪も、その時は女子のように長く、散髪の概念などない状態。メイもその美しい銀髪を、無造作に頭頂部で一本に結わいているだけだった。
そう。私が二人と出会ったのは、貧民街。
スーパーサラブレッド公爵令嬢であるヴィクトリアの外出には、いつも護衛の騎士が五人ついていた。五歳の時は侍女に加え、乳母まで外出に同行している。
五歳の私の外出には、本来両親のどちらかが必須だった。だが当時の私は、このがちがち過保護体制に、若干辟易していた。前世で私はパンピー(一般人)だった。こんな常時周囲に誰かがいる状況に、慣れていない。中身がただの五歳ならまだしも、実態はアラサーということもある。ウザい、一人にしてほしい、放っておいてくれー!という心境になっていた。
その結果。
ほんのいたずら心だった。なんとか両親を説得し、護衛の騎士と侍女や乳母だけで、街へ外出した。さらに私を取り巻く彼らを巻いて、メイン通りをはずれた路地裏に隠れてみたのだ。今思えば、なんて馬鹿なことをしたと思う。路地裏にどんな危険があるのか。上質な生地でオーダーメイドされた紫のドレスを着ていれば、一目で貴族であると分かる。しかも女児。人攫いからしたら、まさに“鴨が葱を背負って来る”だっただろう。
つまりはあっさり、攫われそうになったのだ。
護衛の騎士と侍女や乳母が、必死に探し回っているのを、人攫いは気づいている。だから私を攫うと、その人攫いは貧民街に一旦逃げ込んだ。まだ日中で明るい。日が暮れたら人身売買組織へ売りに行くつもりだったようだ。
このままどこかへ売り飛ばされたら、断罪回避はできるかもしれない。だがこの国では禁じられているはずの、奴隷にされてしまう可能性が高かった。青ざめ、絶望的になる私の前に現れたのが、レイとメイだ。
貧民街で両親を失い、十歳まで生き残るというのは、並大抵のことではない。しかも二人とも汚れているが、無傷。つまり、身を守る術を心得ているということだ。
騎士のように剣を持つわけではない。武器は割れたガラスに布を巻きつけただけ。でもそれを使いレイとメイは、屈強な体躯の二人の大人の男を、あっという間に倒した。命までは奪わない。でも復讐されないため、二人の男の視力を奪い、言葉を話せない状態にした。
すべてを終えた二人は、私の前で、まるで騎士のように跪く。
「オジョウサ、マ、ニ、オツカエ、シマ、ス」
言葉をまともに習っていないのだろう。
話し方もぎこちなく、片言だった。
だが私は感動していた。
この二人は乙女ゲーム「君がヒロイン~みんな君に夢中~」ではモブだ。こんなキャラクター、文字情報でも背景にも描かれていない。でもこの二人の圧倒的な強さに、私は心底感動していた。
何より初対面なのに、跪いた二人は、私に忠誠を誓ってくれたのだ。
貧民街で生きるより、貴族と思わしき女児に媚び、生き残りをかけたのか。その理由は分からなかった。理由はどうであれ、見た目から双子と分かるこの最強の二人を、自分のそばに置きたいと思った。
こうして双子を連れ、私を探す護衛の騎士や侍女と乳母のところへ戻り、すぐさま屋敷へ戻った。メイドに命じ、双子を入浴させ、着替えさせた。
名前さえない二人にレイとメイという名を与え、レイには白シャツに黒のセットアップを、メイには黒ワンピースに白のエプロンと、この国で定番の従者と侍女の服を着せると……。
とても貧民街から連れてきたとは思えないぐらいの、美少年従者と美少女侍女に変身できた。
あとは両親を納得させる必要がある。
我が家はこの国で五つしかない筆頭公爵家の一つだ。使用人の雇用基準もとても厳しい。貧民街で拾った子供を雇うことは、簡単には許してもらえないだろうと予想はしていた。だから両親にはこう提案した。
お読みいただき、ありがとうございます!
週末のお楽しみ。
『悪役令嬢は徹底して悪女を演じる
~おーほっほっ!は卒業したい!~』
こちらにSSを追加します。
とある人物のエピソード0という感じです。
ちょっとでも気になっていただけたら
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