29:問題なのは……。
上演された劇は、有名な戦いを描いたもの。加えて、豪華客船での上演という非日常性というスパイスも功を成し、拍手喝采で幕を下ろすことになった。
劇は問題ない。
問題なのは……。
まず、観劇中の席順!
フレデリック、私、センディングで着席できれば、少しはフレデリックと会話できると思った。だがしかし……。
フレデリック、センディング、私という席順になったのだ。
「ヴィクトリア公爵令嬢、その席はまさに前後左右、どこから見ても中央の席です。間違いなく特等席ですから、どうぞ、お座りください。あなたのために、この席を押さえました」
なんてセンディングに言われてしまうと「いえ、私は中央ではなくても結構です」とは言えない!
渋々着席し、劇が始まると……。
上演作品は、戦いを描いている。主役級の人物が、ドラマチックに散っていく。つまり泣けるシーンや感動シーンも沢山ある。するとセンディングは、絶妙なタイミングでハンカチを取り出し、私に渡す。その際、実にさりげなく、私の手を握るのだ!
ここはもう、恋愛の達人。策士。
婚約者いますよね、センディング?と思ってしまう。
もしもセンディングの裏の顔に、気が付いていなかったから、あやうく彼の策略に落ちるところだった。裏の顔……腹違いの兄を貶め、見下していることだ。
裏の顔を知っているものの。見た目王子様のセンディングから優しくされれば、それはそれでドキドキしてしまう。これって、男子がつい綺麗なお姉さんを見ると、目で追ってしまうのと同じかしら?
さらにセンディングが、何かと私の世話を焼いている様子にフレデリックが気づき、まるで捨てられた子犬のように、悲しそうな瞳でこちらを見るのだ! そんな目で見るぐらいなら、このセンディングを止めてください――と思うが、何もしない。
でもそれも仕方ないのかもしれない。私がセンディングに対し、あからさまに「やめてください!」と言えば、フレデリックも動いてくれたかもしれない。でも私自身が声をあげなかったのだから、フレデリックに文句は言えないだろう。
そもそもとしてセンディングがあざといのだ。いろいろとタイミングも絶妙だし、手を握る時間もほんの一瞬で、注意しにくいのだから!
これは相当女性の扱いに長けている気がする。というかフレデリックに婚約者はいないが、センディングには婚約者がいる。なぜ同行していないのだろうか? 豪華客船の旅なら、喜んで同行しそうなのに。
これは上演の合間の休憩時間の際、思わず聞いてしまった。
対するセンディングの答えは……。
「ああ、わたしの婚約者ですか。彼女は乗り物が苦手なんですよ。船もそうですが、汽車もダメです。馬車でも酔うんですよ。よって王都で留守番をしています」
そうなのか。それならば仕方ない。でもこの世界で馬車も苦手なんて、その婚約者は可哀そうに。王侯貴族が乗るような馬車は、スプリングのしっかりした座席が備えられ、よほどの悪路を行かない限り、不快にならないよう設計されているはずだった。
「!」
フレデリックが、何か言いたげにこちらをじっと見ている。何かしら……? これは何とかして彼と話す場を設けないと。そして甘い物と高カロリーな過剰摂取をやめ、服のコーディネートは自分でするように勧めないと!
幸い、旅は始まったばかり。チャンスは……あるはず。
そう思ったのだけど……。
お読みいただき、ありがとうございます!
2月22日の12時半頃に新作を公開します。
なんと描き下ろしの見事な表紙絵ありです!
https://ncode.syosetu.com/n3408ij/
↑
まだクリックできません。明日、ロゴバナーも設置します。


























































