27:では一時間後
「では一時間後に、再びお会いしましょう」
センディングはまたも白い歯をキラーンとさせる。その後ろにいるフレデリックは、センディングを見つつも、私を見て、柔和な笑顔を浮かべている。この様子を見ていると、王太子がセンディングで、フレデリックが第二王子のように見えてしまう。
二人を見送り、扉を閉じる。
ソファに腰をおろし、レイとメイと顔を合わせた。
二人とも、私と同じ気持ちだとすぐに分かった。
「王太子殿下は、なぜあんなにニコニコできるのでしょうか」とメイ。
「弟を信じているのでしょう。それだけ王太子殿下は、お優しい方ということです」とレイ。
それを受けて私も物申す。
「どう考えてもあの第二王子は、フレデリック王太子殿下を、ふくよかどころか病気になる肥満まで、追い込もうとしていると思わない?」
メイとレイは同意を示す。勢いづいた私はセンディングについて、ムカッとしたことをぶちまける。
「第二王子は、パンなんて半分しか食べていないのよ。バターは使っていない。デザートに至っては『甘い物は得意ではないので』なんて言って、手をつけないの。あれはまるで……」
そこで私は思い出す。前世の妹みたいだわ――と。
前世で父親は、いわゆる中小企業の社長だった。父親の計画では婿養子を迎え、私の結婚相手に会社を継がせたい……と考えていた。それをよく思っていなかったのが、私の義理の妹だ。再婚した継母の連れ子だった。
私より一歳年下の妹は、可愛がられていた私を妬み、「お姉さま、私、お腹いっぱいだから食べて」「お姉さまのために作りました」「お姉さま、ちゃんと食べないと胸、小さいままですよ」などと言って、私になんでもかんでも食べさせたのだ。
あの頃の私は、人の悪意には疎く、妹の善意を信じて疑わず、言われるままに食べ続けた。
しかも私が、少し太ったと思い、食べる量を減らそうとすると「そんなことはないですよ!」と妹は全力阻止。運動をしようものなら「お姉さま、怪我をしたら困ります!」とこれまた邪魔をされた。
さらに「痩せたらその胸、ぺちゃんこですよ。貧乳はモテませんよ、お姉さま!」なんて洗脳までしてきて……。
その結果。
私はぽっちゃりになってしまった。……というか前世の最期、交通事故で亡くなったと思うけれど、あれ、体が重くて思うように動かなかったからでは……。
今さら気づいても、もう遅い。
それよりも今は、フレデリックだ。
「指摘した方がいいわよね。フレデリック王太子殿下に。このまま第二王子が言うままに食べると病気になるって」
「そうですね。指摘された方が、フレデリック王太子殿下のためになると思います。お嬢様が目につき、離れた場所で控えていた僕とメイでさえ、第二王子の悪意に気づいたぐらいです。フレデリック王太子殿下の家臣が、気づかないはずはないと思います。間違いなく、第二王子の目を気にして、家臣は何も言えないのでしょう」
レイがそう言えば、メイも同意を示す。
「フレデリック王太子殿下は、身分的には次期国王ですが、後ろ盾になる王妃とそのご実家もない状態。恐らく王宮では、現王妃とその息子である第二王子が、幅を利かせているのだと思います」
これを聞くと、俄然なんとかしなければという気持ちになってくる。
私はそういう気持ちになるのだが、事はそう上手く運ばない。
観劇のためのエスコートは、フレデリックがしてくれたらいいのに。
そう思っていたが……。
「ヴィクトリア公爵令嬢、お迎えにあがりました!」
ヒマワリの花のような明るい笑顔で私に手を差し出すのは、センディングだ。チラッと彼の後ろに立つフレデリックを見ると、ニコニコとこちらを見ているだけだった。


























































