26:流し目
ひょんなことで知り合うことになった令息は、まさかのこの国の王太子だった。加えてそこに突然現れたのは、彼の弟の第二王子。そしてこの二人と私は今、豪華客船のレストランで、一緒に昼食をとることになった。
旅を始めた私は、大物を引き寄せる運気にでも恵まれたのだろうか?
砂漠の国の大富豪と出会うわ、今度は王太子と第二王子。
しかも……。
「お部屋はエンパレス……ということは、わたし達の隣の部屋ですね」
センディング第二王子が、白い歯を見せ、キラリンと王子様スマイルになる。
続き部屋を解放し、この豪華客船に乗る機会を作ってくれた恩人が、この王族兄弟であることが判明した。
「! お部屋を譲ってくださったのは、センディング第二王子殿下とフレデリック王太子殿下だったのですね。その節はありがとうございます。おかげで無事、この船に乗ることができました」
「あ、お部屋を必要としていたのは、ヴィクトリア公爵令嬢だったのですね。まさか」「ええ、そうですよ。急遽部屋を必要としているご令嬢がいると、係員から相談を受けたのです。困っている方を助けるのは、当然のこと。王族の一員としても、困っている方は見過ごすことができません。当然のことをしたまでですよ。そうですよね、兄上」
フレデリックの言葉に被せるようにセンディングは話すと、さらにこんなことを言う。
「この後、シアタールームで演劇の上演があります。ポート戦争をテーマにした、歴史ロマンスペクタクルと聞いています。一緒にいかがでしょうか」
ポート戦争は、前世でいうところのトロイア戦争のような有名な戦いで、アキレウスのみたいな英雄も登場する。この世界の演劇では、お決まりの演目だった。
「それは面白そうですね。ぜひ観劇したいと思います」
「では時間が近づきましたら、お迎えにあがりますよ」
センディングはここでも完璧な王子様スマイルを見せつつ、フレデリックに対しては……。
「兄上、このバターは最高級品です。こちらの岩塩をふりかけ、そしてこうやってパンに塗ると、絶品になります。どうぞ、お召し上がりください」
手ずからでバターをたっぷり塗り、さらに岩塩をふりかけた白パンを、フレデリックに渡す。
「ありがとう、センディング」と、フレデリックはニコニコと受け取っている。
センディングの気づかいは、これだけではない。フレデリックの皿からパンがなくなると、すぐにアイコンタクトで、パンを持ってこさせる。勿論、バターのおかわりも。さらに食後のデザートが出る前に、給仕の男性と耳打ちをしたと思ったら……。
フレデリックのデザートだけ、二人前の盛り付けで登場する。これを見たフレデリックは喜び、センディングに対し「やっぱりセンディングは気が利くね」と笑顔だ。
食後の紅茶が登場すると「兄上、北部の国では、紅茶にジャムをいれるそうですよ」と言い、砂糖五杯を既にいれた紅茶に、スプーン二杯分のジャムをいれ、フレデリックにすすめた。フレデリックは「ストロベリージャムのプチプチした食感が紅茶にあうよ、ありがとう、センディング」と満面の笑みになっている。
こうして昼食が終わり、私はセンディングにエスコートされ、一旦部屋に戻ることになった。
「ヴィクトリア公爵令嬢。あなたに隣室を提供できてよかったです。ただ、残念なのはあなたが婚約していること。わたしも同じ第二王子なのに。あなたの婚約者が羨ましいです」
センディングはサラリと私をヨイショするような言葉を口にする。
婚約者がいる――という点においては、彼も同じなのに。
「センディング第二王子殿下には、大変素敵な婚約者がいるとお聞きしていますよ。幼馴染みで私と同じ、公爵家のご令嬢ですよね」
「ええ、でもまだどうなるか分かりません。父君は、領土の拡大や交易のための航路拡張のために、王族の婚姻を利用しますからね。兄上なんて、もう五回も婚約と解消を繰り返しています」
リントン王国は海に面した国であり、巨大な港をいくつも有しているし、新大陸発見や、新航路発見に余念がない。海洋交易を巡り、王族の婚姻を利用しているのは有名な話。そのため、子作りにも励み、王子は五人、王女は三人もいた。
「わたしとしては、政略結婚ではなく、自分が好きになった女性と添い遂げたい気持ちでいっぱいなのですよ」
センディングが特級の甘い流し目を送って来る。
それはこうすると令嬢が腰砕けになると心得た流し目だ。
普通だったら、効果てきめんなのだろうけど……。
なんとなく私は、このモテ美男子センディングを、客観的に見てしまうのだ。


























































