25:驚いた。
「僕はフレデリック・アーネスト・リントンと申します。現在、弟と共に遊学中の身で、今回、クリスタルシティに所有する金山の視察へ向かうため、乗船しました」
リントンって……!
今、私がお邪魔している国、それはリントン王国! そしてこの船のゴールであるクリスタルシティは、リントン王国の配下にある。つまりリントンは、王族のファミリーネーム。目の前にいる彼は王族であり、しかもフレデリックって……王太子ではないですか!
驚いた。
まさかこんなところ……いや、ここは豪華客船の一等客室専用デッキ。ここだからこそ出会えたのだろう、この国の王族に!
それにしても。
リントン王国については妃教育で学んでいるし、ニュースペーパーでも度々記事を見かけるが、そこで見る写真にフレデリックの姿はあっただろうか? 記憶を探る。
リントン王国の国王や王妃の顔が浮かぶ。
でも王太子……王子たちは、もっと見るからに“ザ・王子様”という人物だった気がするのだ。
「あ、もしやニュースペーパーで僕の名前、見たことありますか?」
「え、ええ、そうですわね。……お写真も拝見したことがあります、フレデリック王太子殿下」
するとフレデリックは困り顔で、こんなことを言った。
「僕はニュースペーパーのカメラマンに対し、写真はNGにさせているのです。代わりに僕の弟が写真を沢山撮られています。おかげでニュースペーパーには、僕の姿は掲載されず、弟の写真が載るんですよ」
「あ、なるほど、そうでしたか」
なぜ写真をNGにしているのかしら? さらになぜ弟が……。
そう思っている私の目の前で、フレデリックはメイが用意した紅茶に、当たり前のように砂糖を……スプーン一杯、二杯、三杯、よ、四杯、え五杯!?
五杯もの砂糖をいれ、ぐるぐるとティーカップをかき混ぜている。
こ、こんなことをしていたら、ぽっちゃりにもなるはずだ。
というか、今はまだ、ぽっちゃりレベルだが、この砂糖五杯のような食習慣を続けたら、健康問題に発展するのではないかしら。
「あ、あの、フレデリック王太子殿下」
「はい、何でしょうか、ヴィクトリア公爵令嬢」
既に私の名前は伝えていた。フレデリックは少し頬を上気させ、私の顔を遠慮がちに見た。
「紅茶にお砂糖を五杯もいれると、甘くはありませんか?」
「甘いです……」
「……甘い物がお好きなのですか?」
するとフレデリックはふるふると首を振る。
「砂糖は高級品です。その高級な砂糖を惜しみなく摂取できること。さらにはその砂糖により、僕が豊満な体になることで、富を諸外国に示すことができると、弟が教えてくれたのです。僕の母親は……とても痩せており、おかげで出産が触り、亡くなったと聞いています。弟は、その教訓を忘れてはいけないと言ってくれました。そして痩せていた僕に、もっと食べ、ふくよかな体になるよう、すすめてくれたのです」
そこで思い出す。フレデリックの母親だったネリー王妃が出産で亡くなり、現国王は後妻を迎えていたことを。そしてフレデリックの弟にあたる第二王子のセンディングは、後妻である現王妃の子供だったはずだ。
母親が痩せ過ぎで亡くなっているとしても。砂糖を五杯も紅茶にいれていては、フレデリックはふくよかになり過ぎ、病気になりそうだった。しかも本人も甘すぎると思いながら、その紅茶を飲んでいる。確か年齢は十九歳。まだ十代だからなんとかなっているのかもしれないが、このまま“もっとふくよか”を求めたら、病気になるに違いないと思えた。
「フレデリック王太子殿下、おっしゃることは分かるのですが、何事も過ぎたるは猶及ばざるが如しと言います。痩せ過ぎても、ふくよかになり過ぎても、それは体に毒です。砂糖を五杯も入れることは、おやめに」
「兄上!」
声にフレデリックが嬉しそうに後ろを振り返る。
そこに現れたのは、シルバーブロンドにブロンズ色の瞳、マリンブルーのセットアップを着て、ブルーラベンダー色のマントをはためかせている。その姿は、まさにザ・王子様――って、私がこの船に乗るきっかけにもなった美男子では!?
しかもフレデリックのことを「兄上」と呼んだということは、彼は本当に王子様だ。
そう、センディング・テュード・リントン、リントン王国の第二王子だ!
お読みいただき、ありがとうございます!
今日は『悪役令嬢は徹底して悪女を演じる~おーほっほっ!は卒業したい!~』も更新しています~
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