24:あ、あの……
豪華客船には、何でもあった。
一等客室専用の施設として、ジムやプール、スカッシュコートもあれば、サウナのような乾燥浴ができるスペースもある。プライベートプロムナードデッキでは、軽食やドリンクを楽しみながら、大海原を見ることができるという。
基本的にオールインクルーシブなので、船内のレストラン、ラウンジ、カフェや娯楽施設は無料で利用できる。ならば少し早いが、プライベートプロムナードデッキで、少し小腹を満たすのはどうだろう。その後、昼食をレストランでいただく流れだ。
ここでお着替えタイム!
身軽に動けるようにとワンピースばかり着ていたが、ちゃんとドレスに着替えることにした。
濃紺のツーピース・ドレスは、シルクのモスリン生地で仕立てたもの。ふんわり膨らんだジゴ袖が特徴的だ。身頃の胸元とスカートの裾には、白い生地で縁飾りが施されている。身頃には美しいシルクのレース飾り。ウエストには白のリボンベルト。マリンっぽいドレスで、とても素敵だ。
着替えを終え、メイと共に廊下に出ると、呼びに行くまでもなく、レイが廊下に出てくる。時々、レイとメイの双子は、テレパシーで通じ合っているのでは?と思ってしまう。
ともかく三人揃い、プライベートプロムナードデッキに向け、移動を開始する。
揺れもなく、船内の装備は地上のホテル並み。
自分がどこにいるか忘れそうになるが……。
デッキに着くと、窓から青い海が見えている。
用意されているラタン製の椅子には、既に何人かの貴族が腰を下ろしているが、そこに見つけてしまった! 何度となく見かけることになった、あの高身長ぽっちゃり令息!
プライベートプロムナードデッキにいるということは、彼もまた一等客室の利用者ということ。ここにもしっかり護衛の騎士が数名ついているし、やはり高貴な身分の方なのだろう。
改めて見て見ると、シルバーブロンドに碧眼で、鼻は高い。眉もきりっとして睫毛も長く、唇の形だって整っている。ただ、頬がたこ焼きを頬張っているかのようにぷっくり。体全体はぽっちゃり。デッキで寛ぐよりも、ジムやプール、スカッシュコートで体を動かすか、乾燥浴で汗を流せばいいのに。その方がこの先、健康的に長生きできるのにと思ってしまう。
しかもその姿で白のセットアップを着ているので、もう見ていると美味しそうな大福にしか見えなくなってくる。しっかりあんこも詰まっていそうだ。
何を隠そう、前世の私は、ぽっちゃり女子だった。この身体では早々に病気になる……と自分でも自覚していた。ただ、病気になる前に、転生してしまったが。
思わずそんな気持ちでガン見してしまうと、高身長ぽっちゃり令息が私に気づいたようで、視線をこちらへ向けた。
視線が交差したのは一瞬のこと。
慌てて彼は私から視線を逸らし、頬を赤くしている。
女性慣れ、全くできていないようね。
とはいえ、ガン見してしまったのは申し訳ない。
レイとメイに声をかけ、リクライニングチェアに腰を下ろした。メイは飲み物を取りに行き、レイはニュースペーパーを取りに行ってくれる。
チェアに腰かけ、脚を伸ばし、背もたれに全身を預け、目を閉じた。
乙女ゲームの世界に転生して、こんなに自由に旅をするなんて。
終活を思いつかなければ、旅なんてしなかっただろう。
思い切って、勇気をもって動くことにして、大正解だったわね。
「あ、あの……」
消え入りそうな声だったが、思いがけず、軽やかで高音だった。
おかげでパッと目を開けることになる。
碧眼の瞳を震わせた、あの高身長ぽっちゃり令息が、少し離れた場所に立っている。美しい装飾があしらわれた小箱を、こちらへと差し出していた。
「き、急に、こ、声をかけてすみません。その、何度かレ、レディのお姿をお見かけして……。こ、これはまだあまり知られていない砂糖菓子です。柔らかい独特の食感で、色により味が異なります。このピンクは、ローズの味付けがされています。この明るいグリーンは、ミント味です。こちらには、砕いたクルミが入っています」
清らかで透明感のある声ね。聞いていて心地いい!
それに前半はタジタジだったのに、お菓子の説明になると、なんて饒舌なのかしら。
「今、開封したばかりで、手をつけていません! 必要があれば毒見もさせますが、よかったら、いかがでしょうか?」
「まあ、ありがとうございます。確かに初めて見る砂糖菓子ですわ。でも開封したばかりということは、あなたも召し上がろうとしたところなのでは? せっかくですから一緒にいただきませんか?」
そこまで奇抜な提案をしたつもりはないのだけど、目の前の令息は一気に顔を赤くし、小箱を持つ手も震えている。
なんて初心な反応なのかしら!
そこに丁度、レイとメイが戻って来た。
レイには令息がそばに座れるように、ラタン製の椅子を、私のリクライニングチェアのそばに置いてもらうように頼んだ。メイには彼の分の紅茶を用意するよう、お願いした。
こうして改めて隣同士に座り、令息が差し出した砂糖菓子を食べ、会話が始まる。
まずはお互いの自己紹介をして、そこで「うん……?」と一瞬固まり、すぐに驚愕することになった。


























































