23:運がいいのか、悪いのか
「お嬢様は運がいいのか、悪いのか、分かりませんね」
レイの言葉には……同意するしかない。
だって確かにそうなのだ。
クリスタルシティに向かう豪華客船。
その名も「ロイヤルハーモニー」。
巨大な客船で船室は一等から三等まであり、乗客乗員あわせて2千人以上が乗船できる船であるが、目的地となるクリスタルシティに着くまでの間に、二つの都市に寄港することになっていた。出発時は満室ではないものの、経由地で乗客を乗せ、最終的には限りなく満室に近い状態で、クリスタルシティに到着することになっていたのだ。
一等客室は、王侯貴族が利用していることから、予約販売でソールドアウトが当たり前。
三等客室には多少の余裕はあるものの、身分的にそちらの部屋は少々厳しい。防犯とかいろいろ考えると!
そうなると二等客室に空きがあれば、懐にも優しい!となる。
公爵家の令嬢であるとはいえ、両親には置手紙で報告し、旅に出ているのだ。潤沢にお金があるわけではない。アドルアルゼ滞在中は、イミルのおかげでお金をほぼ使わずに済んだ。とはいえ、豪華客船の旅はホント、売り払った宝石分のお金が飛ぶのだから、安いにこしたことはない。
というわけで、二等客室で空きがないか調べてもらった。
ところが残念!
二等客室に空きはなかった。
三等客室は空きがある。でもそこは身分的にも防犯的にも難しい。
一等客室はそもそも満室と聞いているし、料金的にも厳しいから除外して考えていた。
ということで二等客室に空きがないという時点で、諦めるしかない……そう思っていたら。
窓口の職員に親切な方がいて、交渉をしてくれた。
というのも一等客室は、スイートルームなどもあるが、続き部屋を何室も指定して利用することができた。そしてとある乗客が、複数部屋を貸し切りにしていたのだ。そこで私達三人が、一等客室を求めていると話したところ……。使う予定がない部屋があるといい、そこを解放すると言ってくれたのだ!
この結果を踏まえたレイの一言が「お嬢様は運がいいのか、悪いのか、分かりませんね」だった。
運がいい=ソールドアウトしたはずの一等客室を利用できることになった!
運が悪い=とにかく一等客室は料金が高かった……!
つまりはそういうことだ。
運がいいのか、悪いのか。
そこはホント、自分でもよく分からない。
これまではことごとく断罪回避行動を失敗していた。でも終活をして、旅に出てイミルと出会った。断罪されても救出してもらえそうなことが判明した。そして乗りたい!と思った豪華客船にも乗れたのだ。ただし、とてもお高かったけど。
何はともあれ。
一度は諦め、でも乗船できたのだから、これで良かったと思おう。
ということで乗り込んで向かった先は、一等客室。
そもそも長期の船旅は前世でも経験がなく、今生でも勿論これが初めて。
まず、一等客室に着くまでに見かけた大広間やラウンジからして、貴族の屋敷みたいだった。一等客室のあるフロアに着くと、廊下はもうホテルみたいだ。
私とメイ、レイで二室が用意されたが、どちらも地上のホテルと遜色がなく、なんなら公爵邸の客室と同じぐらい立派だった。前世で“豪華客船は、移動するラグジュアリーホテル”と言われていたが、これは本当だと思う。しかもこの豪華さは、前世でも通用するすごさだと思った。
この部屋を貸し切りにしていたのに、解放してくれたなんて!
太っ腹だと思うし、そのお相手に御礼をしたいと思った。しかーし! 相手のプライバシーを尊重するため、教えてもらうことはできない。でも冷静に考えれば、続き部屋で貸し切りにしていたのだ。ということは隣の部屋や向かいの乗客が、恩人の可能性大だった。
これから一週間の船旅なのだ。
廊下ですれ違うことができると思う。そこで普通に挨拶をして、会話を始めれば、自然と御礼を言える機会に恵まれるに違いない!
そんなことを思いながら、部屋の中でメイと二人、荷解きをしていると。
汽笛が鳴り、鐘の音も聞こえてくる。
窓から外を見て、ドキッとする。
それはそうだろう。地上から数十メートルの高さはあると思う。
港で見送りをする人々が手を振り、旗を振る様子が見えていた。
それを見て家族のことを思い出す。
「ねえ、メイ、絵葉書を家族に送りたいわ。買ってきてもらってもいいかしら?」
「かしこまりました、お嬢様」
メイは部屋を出て、しばらくするとレイが部屋に来て、荷解きを手伝ってくれる。
ほどなくしてメイも戻り、荷解きは完了。絵葉書も書けた。次の寄港地で投函しよう!
船旅のスタートは上々。
さらにこの後、思いがけない相手と出会うことになった。


























































