20:絶対に落差があるはず
イミルと会話緒している最中。
ふと目をやると、そこには昨日、ナンパ男達を撃退するレイを見て、ビビっていた高身長ぽっちゃり令息が見えた。
老婆と並んで歩いている。
自身の祖母と朝のお散歩でもしているのかしら?
散歩なら、遊歩道の方が歩きやすいだろうに。老婆はヨロヨロとし、高身長ぽっちゃり令息の腕をつかみ、なんだか二人でのんびり歩いている。その二人の後ろを、護衛と思わしき騎士が続いていた。
もしかすると、一人散歩する老婆を支えてあげている?
老婆の装いは平民に思えた。
仮に歩くのを手伝っているなら……とても親切な方ね。
そしてそんな散歩ができるなんて、牧歌的だわ。
「……と思う」
しまった!
つい、牧歌的景色に見入ってしまい、イミルの話を聞いていなかった!
「申し訳ありません、イミル殿下。つい、ぼーっとして、お話を聞いていませんでした」
全く、頭に入っていなかったので、ここは素直に謝罪する。
「気にするな、大丈夫だ。ヴィクトリア公爵令嬢とわたしとでは、生まれ育った国も違えば、環境も違う。文化や価値観も違い、そこにギャップを感じて当然だと思う」
どうやら私がハーレムを受け入れられないことについて、イミルなりの理解を示してくれているようだ。
「現状、ヴィクトリア公爵令嬢が言うように、側妻は八名いるが、正妻は迎えていない。正妻はわたしと同じ屋敷に住み、寝室も同じで、夜伽も最優先。月のものがある時とか、懐妊中などに、側妻が住む離れに足を運ぶことになるが、基本は正妻と過ごす。妻の扱いは平等に、とはいうものの、正妻は公式行事にも足を運ぶから、別格だ。側妻と正妻が比較されるようなことはない。側妻が正妻に盾つくなんて話、聞いたこともないぞ。それが実体だ。よって正妻である限り、肩身が狭い思いはしないと思う」
やはりレイの予想通り、結婚するなら正妻と考えてくれているようだけど……。
「私は今、婚約者が別の女性と恋愛中でいることに悩んでいます。正妻が例え別格だとしても、側妻がいれば、同じように悩むことになると思うのです。イミル殿下は、正妻も愛しているけれど、側妻も愛している……ということですよね? それではダメなのです。私は、一対一じゃないと、気持ちが落ち着かないのです」
「一番はヴィクトリア公爵令嬢であっても、ダメなのだろうか?」
「ダメなのです」
するとイミルは「そうなのか」と考え込んでしまう。
「正妻のみを希望する――それ以外でハーレムについて気になることは?」
「それはやはり、イミル殿下の寵愛を競うことが怖いです。表向きは正妻に側妻が食ってかかることがなくても、裏ではどうか分かりません。とてもドロドロしているような気がします……」
「今いる八人の側妻は皆、『正妻であることは望んでいません。側妻でいいので、おそばにおいてください』という者ばかりだ。夜伽の回数が少なくても、不満はない。側妻同士で楽しく着飾り、観劇したり、美食を楽しんだりして、のんびり過ごしているように思える。正妻に何かするより、今の生活を維持する――側妻たちはそう考えているはずだ。もしも正妻に何かすれば、側妻たちとは離婚できるからな。今の生活を失いたくなければ、側妻は正妻に何もしないだろう」
大富豪の側妻なのだ。衣食住は事足りているのだろう。安定した生活のため、正妻には逆らわない……。一見、それが正しく思える。だが本当にそうだろうか。陰湿な嫌がらせは、絶対にある気がした。
表向きの顔と、裏の顔に、絶対に落差があるはずだ。


























































