18:独特の……
「独特の婚姻制度……?」
レイは頷き、話を続けた。
「サハリア国では、王侯貴族を含む全国民に対し、離婚が認められています。その一方で、不倫は禁止されています。その代わりで王侯貴族には、ハーレムを独特の婚姻制度として、採用しているのです。いわゆる一夫多妻制。つまり不倫するぐらいなら、結婚してしまえ、ということですね」
ハーレム……!
乙女ゲームでハーレムは有名な言葉。
でもそれは間違いなく、レイが言っているハーレムとは、かなり意味合いが違うと思う。
「サハリア国では正妻を一人、それ以外を側妻と定めており、すべての妻を基本的に平等に扱い、養うことが義務付けられています。ただし正妻については、公の行事や外交に伴うなど、別途優遇規定があるようです」
「えっと……イミル殿下は……」
「側妻が八名います。正妻はまだいらっしゃらないので、恐らく、お嬢様へのプロポーズは正妻なのではないかと。……少なくとも、お嬢様の経歴に対し、側妻の提案はありえないと思いますが……」
レイの言葉が頭に入ってこない!
正直、正妻だろうと側妻であろうと、この際、それはどうでもいいわ。
まず、重要なのは、イミルは既婚者だったということよ……!
「ちなみにお子様は、既に五人いらっしゃいます。女児二名、男児三名です」
ご、五人の子供っ!?
まさか妻子持ちだったの……!
でもなんだかいろいろ理解できた。既に八名の側妻がいて、彼女達を平等に扱うとなると、それは女性の顔色を窺うのも、うまくなるというもの。細やかな気配りができないと、妻たちはすぐに不機嫌になるはずだ。
そうか。
そうなのね。
ハーレム。
たった一人の男性を複数の女性でシェア?
前世のカーシェアではないのだから。一台の車をみんなで乗り回しましょう~というこの感覚で、男性もシェアするの……?
む、無理だわ。
どう考えたって他のイミルの妻たちと、ギスギスすることになりそうだ。
前世記憶を紐解いても、大奥なんて、ドロドロとした女の足の引っ張り合い。それと同じことでしょう、ハーレムって! とてもではないが、無理だと思う。
断罪を回避したいなら、ハーレムぐらい受け入れるべし――という考え方もあるだろう。
え、本当に、それしかない?
しばし考え、思い至る。
砂漠に放逐されたら、助けてください――でもいいのではないかしら?
別に結婚しないなら助けない……なんて意地悪は言わないわよね、イミルは?
そんな出来事を経て、昨晩は眠りについたわけだ。
その結果見た夢がアレだ。
ハーレムの話を聞き、イミルは無理だわ、と言いながらも。
夢ではイミルとなんだかいい雰囲気になっていた。
お年頃の十八歳。女子と言えど、欲求不満なのかしら、私。
考え事をしていたので、ほとんど情報が頭に入らないまま、広げていたニュースペーパーを閉じる。
するとそこに「おはようございます」と、レイが入って来た。
朝から白シャツに黒のベストにズボンと、キリッとした装いのレイは、完璧だ。
その姿を見ると、不埒な夢のことも吹き飛ぶ。
気を引き締め、再度レイを見ると、その手にカードを持っている。
「今、サハリア様からの使いの者がきて、こちらを受けとりました」
わたしの所へ歩み寄ったレイが、カードを渡してくれる。
そこに書かれていたのは、イミルからの朝食後の散歩のお誘いだった。
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