17:つ、遂に――
『イ、イルミ様、サハリア国では婚姻前に、男女がこのようになることは禁じられていないのですか!?』
『サハリア国は、その点について寛容だ。問題はない。離婚も認められている国だ。ただし、不倫については厳罰化されているがな。だがわたしは、不倫などしない』
イミルはそう言いながら、私を抱き上げ、そのままベッドへ運んでいく。
サハリア国の男女の慣習についてまでは、さすがに妃教育では学んでいない。
リケッツ国と違い、純潔は求められず、離婚も認められているなんてと驚いてしまうが。
『ヴィクトリア公爵令嬢。今はベッドの上だ。真面目もいいが、一旦、それは忘れ、わたしに集中してはくれないか』
『し、失礼しました!』
あやまる私にイミルは艶やかな笑みを浮かべ『違ったな』と囁く。
『ヴィクトリア公爵令嬢が、わたしのことしか考えられない――そうすればいいだけだ』
そう言うと、顎をくいと持ち上げられた。
あの熱い唇が、遂に私の唇に――。
「お嬢様!」
「きゃあ」
思わず悲鳴をあげ、目が覚めた。
驚く私の目の前には、メイがいる。
「おはようございます、お嬢様。……その、何とも言えない行動をされていたので、つい、起こしてしまいました」
これには血の気が引きそうになる。
直前に見ていた夢の内容は、バッチリ覚えていた。
つまり、私はキス待ち顔をしていたのでは……。
しかも私は夢の中で、イミルに抱きつこうともしていた。
そして現実で私はあの顔で、もしかすると近づいたメイに抱きつこうとしたのでは……?
……していたんだ。
猛烈に……恥ずかしい。
「メイ、ごめんなさいね」
「いえ。それよりもどうぞ、ニュースペーパーと紅茶をお持ちしました」
「……ありがとう」
メイは私にニュースペーパーと紅茶を渡すと、着替えのためのドレスの準備を始める。
ニュースペーパーを広げ、紅茶を飲みながら、昨晩のことを思い出す。
入浴の手伝いをしてくれたのは、メイとホテルのメイドだった。
準備が整い、入浴を終え、髪を乾かしていると……。
そこにレイがやってきた。
「お嬢様。念のためで僕が調べたサハリア国について、お伝えしておこうと思うのですが」
ディナーでイミルからプロポーズされた件は、既にレイもメイも知っていた。
かつネイサンのミミクリーとの浮気についても、二人とも知っている。よってもし婚約破棄されることがあれば、イルミとの結婚は……「確かに一理ある」と、二人とも言ってくれていた。とはいえ決断するのは私であるし、両親へ相談も必要。何より、相手はサハリア国の大富豪。
早まった決断は、控えた方がいいと言ってくれいていたが……。
レイが個別で調べていてくれたなんて。
驚きつつも、心配してくれることに、胸が熱くなっていた。
「レイ、聞かせて頂戴」
「かしこまりました、お嬢様。まず調査結果として、こちらを渡しておきます」
どうやらレイは、わざわざ調査結果を報告書として、まとめてくれたようだ。枚数にして三枚。ぱっと見た感じ、妃教育では習わないような情報が掲載されている。サハリア国の風俗、女性に対する考え方などだ。
「まずサハリア国に国王はおらず、貴族制度も存在していません。その代わりで、代々三つの大富豪が、四年交代で国の代表を務めています。この三家が実質の王族のような扱いであり、この三家に続く十の富豪が、貴族のような存在です。仮に彼らを王侯貴族と呼んだ場合、平民では難しい、独特の婚姻制度が機能しています」
「独特の婚姻制度……?」