15:まさか!
ネイサンとミミクリーのことで悩んでいると打ち明けたところ、イミルは黒水晶のような切れ長の瞳で私を見て「解決策がある」と言った。
講じた断罪回避策は、ことごとくうまくいかない。
シナリオの強制力には勝てないと思っていたのに、まさか解決策があるの!?
これはたまらず、彼の顔をガン見してしまう。
ガン見されたイミルが、あの妖艶さたっぷりの微笑みを浮かべるので、撃沈されそうになり、慌てて視線を逸らす。
だがそんな私の顔を、イミルは人差し指で、いとも簡単に自分の方へと向けてしまう。
そうなると私は、借りてきた猫のように、完全にフリーズしている。
ただし心臓は、爆発寸前。
「そんな王族となど、結婚する必要はない。このままヴィクトリア公爵令嬢は、わたしと結婚してしまえばいい」
「え!?」
「隣国の王妃や王女を攫い、嫁とすれば、相手の王族はメンツもあり、戦争も起きよう。だがヴィクトリア公爵令嬢は、まだ王族ではない。それにその第二王子は他に好いている女がいる。ならば深追いすることもないだろう。なに。金塊でも贈りつければ、軽い文句を言うだけで終わらせるさ」
そこで快活に笑いながら、私の顔から手をはなし、イミルは魚のスープを口に運ぶ。
一方の私は、イミルの言葉を脳内でいろいろ反芻することになる。
そんな乱暴な断罪回避策ってありますか!?と思う。
でも……確かにイミルが言う通りに思えた。
金塊と交換で、婚約破棄したい私を、ネイサンからすれば“処分”できるのだ。ミミクリーからしても、邪魔者がいなくなるのだから、文句はないだろう。しかも私が向かう先は、サハリア国。それは奇しくもネイサンが私を断罪したら、追放する砂漠の国なのだ。
なんとかゲームのシナリオの流れとも合致する。
え、本当に!
まさかの断罪回避成立!?
しかも突然の求婚であるが、提案しているのは、サハリア国の次期代表となる超大富豪。これ、前世でいう玉の輿という奴では!?
心臓が、別の意味でバクバクしている。
断罪回避を諦めた悪役令嬢は、終活をした結果、運命の相手に出会えました――!
なんだかキャッチコピーまで浮かんでしまう。
いいのではないでしょうか!
この素晴らしき提案を受け入れても。
心の中、九十八%まで、「イエス」と言いかけていた。
ただ、うまい話には裏がある……ということは、前世同様、ここでも同じ気がする。
つまりここで即答するのは、危険に思えた。
「即答する必要はない。ヴィクトリア公爵令嬢は、真面目だ。それはそなたの言動から見て取れている。バカンスシーズンは始まったばかり。無理をする必要はない」
会って間もない私にいきなり結婚なんて言い出すので、顔と体で私を選んだのだと思っていた。かくいう私も仲良くなれば、いざネイサンから断罪され、砂漠へ放逐された時。救ってもらえるかも……と思っていた。
求婚の言葉を聞いた時も、断罪回避につながる、しかも玉の輿……なんて思ってしまった。
私は断罪回避ありきでイミルを見てしまったが、彼の方は……わずかな時間であるものの、私の言動をちゃんと見てくれていたようだ。
ワイルドでセクシー満点な上に、大富豪なイミルは、女性を選びたい放題・遊びたい放題だろう。それなのに、意外と言っては失礼だが、誠実だった。


























































