13:ヤバい。
日中イミルは、白のトーブと呼ばれる砂漠の民の民族衣装をアレンジした服を着ていた。
その上衣はV字に深く開いており、そこからたくましい胸筋が見え隠れしていたのだ。しかも健康的に日焼けしていることで、大変精悍かつセクシーに見えていた。
ところが!
日没が近づき、サンセットディナーに合わせ、着替えたイミルは……。
ヤバい。
エキゾチックなフェロモン全開イミルから、ワイルドでセクシー満点なイミルに変わっている!
黒のトーブにはゴールドの刺繍があしらわれ、上衣のV字はより深くなっている気がした。その引き締まった筋肉がチラチラと見えてしまい、なんだか落ち着かない。ゴールドの宝飾品に身を包み、王族に引けをとらない、ピラミッドの頂点に君臨する上位者特有のオーラも放っていた。
「ヴィクトリア公爵令嬢、よく来てくださった。贈った衣装、絶対に似合うと思ったが、完璧だ。そなたは……スタイルが恐ろしい程、よいのだな」
満足気に艶やかな笑みを浮かべるイミルは、もはや直視不可能。
もう私の受容レベルをはるかに凌駕しており、どうしていいのか分からない。
ヒロインの攻略対象に、イミルのようなタイプはいなかった。前世でも今生でも、出会ったことのないタイプに、もうたじたじだった。
「さあ、こちらへ座るといい。美しい夕日を堪能できるぞ」
リケッツ国でディナーといえば、テーブルと椅子が用意されている。椅子に着席していただくのだが……。
だが今回は、サハリア国スタイルでのディナーのようだ。
つまり、テラスに用意されているのは、ローテーブルとローソファ。
寝そべるとまではいかないが、かなり寛いだ姿勢で、食事をすることになるようだ。
しかもローテーブルには、すでに銀食器に盛り付けられた料理が、ズラリと並んでいる。
それは豚の丸焼きやボイルした山盛りの海老、丸ごと一匹の魚を煮込んだスープなど、豪快大皿料理。一応、カトラリーは用意されていた。
だがナンのようなパンに、肉やら野菜を包み、食べるスタイルのようだった。
つまり、ナイフで切り分けたりするし、スープはスプーンを使うだろうが、あとはほぼ手づかみスタイル。
これは椅子に座り、ナイフとフォークで食事をしていた公爵令嬢のヴィクトリアにとって、実に斬新。でもこれが砂漠の国のスタイルなのだろう。ここは港の街で、リントン王国である。だがこのホテルを貸し切りにしているのはイミルであり、そこに無料で泊めてもらっているのだ。こうなったら、郷に入っては郷に従え――だろう。
「ヴィクトリア公爵令嬢は、酒を飲める年齢か?」
隣で寛ぐイミルに尋ねられ、「いえ、まだ二十歳ではありませんので、お酒は飲めません」と返事をする。この答えを聞いた。イミルは驚き、まじまじと私を見る。