12:サプライズ
「サハリア様からディナーの招待状と、プレゼントが届けられています」
そう告げたレイは、上衣の胸ポケットから、白い封筒を取り出した。
「プレゼント? 何かしら?」
封筒を受け取りながら、首を傾げる。
知り合ったばかりの女性に花束を贈るというのは、この乙女ゲームの慣習でもあった。でもイルミはヒロインの攻略対象でもないわけで、かつ住んでいる国もリケッツ国ではない。どちらかというと、文化も慣習もまったく違う国の人間だ。何が贈られてきたのか、気になるが、まずは招待状を見よう。
「よろしければ、開封いたします」
レイは手にペーパーナイフを持っている。
ホテルに備え付けられていたという。
「お願い」
開封してもらった封筒から、カードを取り出す。
『Dear ヴィクトリア
今日のディナーはサンセットを見ながら
楽しみましょう。
招待をするのはわたしなので
ドレスコードを指定します。
贈った衣装で来てください
From イミル』
「レイ、どうやらそのプレゼントは、ディナーで着用するドレスのようだわ。サンセットディナーに招待してくださるそうよ」
「なるほど。サンセットとなりますと……二十時ですから、スタートは十九時でしょうね。そろそろご準備いただいて、いいかもしれません」
「そうね」と答えた私がロッキングチェアから立ち上がると、レイが手を差し出す。そうやって手を差し出すレイには、頭にちょこんと王冠をのせたくなる。まさに王子様みたいだ。
白の手袋を着用したレイにエスコートされ、室内にはいると、甘い香りが漂っている。金木犀のような甘い香りで、メイが水色の花瓶いっぱいに白い花をいけ、バスルームから出てきた。
ハワイのレイで使われる、プルメリアみたいな可愛らしい花だ。
「メイ、どうしたの、その花は?」
「サハリア様からプレゼントと一緒に届けられました」
「まあ、そうなのね!」
レイは私のエスコートを終えると、バルコニーのドリンクなどを片付け、部屋から出て行く。これから着替えをする私への配慮だ。
一方のメイと私は、甘い香りを楽しみながら、届けられたプレゼントの箱を開けることにした。
カフタンと呼ばれる衣装をアレンジしたワンピースだった。長袖だが生地は薄く、袖口が広いので、風通しが良さそうだ。着丈は長いがスリットがあり、歩きやすくなっている。胸元は大きくV字で開いており、生地はアイスグリーン。銀糸と白糸で美しい刺繍があしらわれている。模造宝石も飾られ、キラキラとしていた。
ウエストでフリンジのついた紐を結わくことで、全体のシルエットが綺麗に引き締まるようになっている。
さらに届けられた甘い香りのする花を模した髪飾りには、ワンピースと同色の薄手のベールも同封されていた。さらに銀細工の腕輪、ネックレスまである。ヒールのないペタンコのキャメル色の革サンダルも用意されており、頭の天辺から足の先まで、見事にコーデネイトされていた。
「お嬢様、これはリントン王国の衣装というより、サハリア国の民族衣装のようですね」
「そうね。初めて見たわ。サハリア国は隣国だけど、国境付近は砂漠ということもあり、あまり交流がないわよね。交易品はゴールドがもっぱらで、こういった民族衣装は輸入されていないから」
「リケッツ国の衣装とは全く異なりますからね。でも改めて見てみると、素敵です。着替えますか?」
こうして早速、着替えを行うことにした。
ワンピースなので、スムーズに着替えることができる。髪は編み込みにして、贈られた花を編み込んだ髪にいくつも飾ってもらった。その瞬間から甘い香りに全身が包まれる。
「お嬢様、大変よくお似合いです!」
メイに言われ、姿見に映る自分を見ると、実にオリエンタルな雰囲気だ。
ベールをつけることで、エキゾチックさも増している気がした。
「お嬢様、サハリア様の遣いの方がいらっしゃいました」
レイの声に、パンプスからサンダルに履き替え、私は部屋を出ることにした。
部屋の出入口は、玄関というより、ちょっとしたホールになっている。
そこに使いと共に控えていたレイは私を見て、ハッとした表情になった。
「レイ、どうかしら? いつもと違う装いでしょう」
「驚きました。お嬢様が異国の方に思えます。大変、お似合いですよ」
美しいレイから褒められると、嬉しくなるし、自信がもてる。
ご機嫌で使いの男性の後に続き、一度ロビーまで降りて行き、そしてテラスに出るため、外へ出ると……。
「!」
日中より、さらにエロさが増したイミルが、こちらを見て微笑んでいる……!