1:プロローグ
「婚約破棄だ、ヴィクトリア・サラ・スピアーズ!」
この国の第二王子であり、私の婚約者であるネイサン・バド・リケッツ。卒業式という栄えある場で、卒業生総代として舞台に立ったネイサンは、ゲームのシナリオ通り、私との婚約破棄を宣言した。
この後続くのは「クラスメイトであるヒロインへの嫌がらせ」をネタにした断罪だ。婚約破棄からの断罪からのバッドエンディングは、転生した乙女ゲーム「君がヒロイン~みんな君に夢中~」で定められた結末。もはや逃れようはない。
でも仕方ない。
こうなることは分かっていた。
「君がヒロイン~みんな君に夢中~」の世界に転生していると知ったのは、八歳の時。しかも転生していたのは、スーパーサラブレッド令嬢、その名はヴィクトリア・サラ・スピアーズ! 公爵令嬢であり、容姿端麗、そして頭脳明晰。サラブレッドと言うだけあり、家族もすごい。まず父親はこの国の宰相、母親は社交界に君臨するカリスマと呼ばれ、兄は王立騎士団の団長だ。
鏡に映る私、ヴィクトリアは、ピンクブロンドの髪に、桜の花びらのようなシャンパンガーネットの瞳。母親譲りの美白と高い鼻。豊かな胸とくびれたウエスト、長い手足。
乙女ゲームでピンクと言えば、ヒロインを思い出す人が多いだろう。
だがしかし!
ヴィクトリアは違う。この容姿にて、悪・役・令・嬢なのだ!
自分が転生していると気づいたのは、赤ん坊の時だった。乳母に抱かれ、窓ガラスに映る自分の姿を見た時、まだ自分の名前すら分からなかった。でも「ピンクブロンドの髪」「桜を思わせる色の瞳」と分かった時、「私、ヒロインだよね!?」と胸がときめいた。
ヒロインだったら推しと恋愛できる! ハッピーエンディングを迎えられる! 絶対に推しを攻略してやる~!と息巻いた。
でも、違っていた。
部屋に両親が入って来た瞬間に「ヴィクトリア!」と呼ばれ、「もしや~!」と青ざめることになった。
だって悪役令嬢なのにヴィクトリアは、ピンクブロンドの髪で、シャンパンガーネット色の瞳の持ち主だったのだ。瞬時に「君がヒロイン~みんな君に夢中~」に転生していると、理解してしまった。
しかしなぜ「君がヒロイン~みんな君に夢中~」に転生したのかしら? 一応攻略対象は全員クリア(攻略)したけれど、ドハマりしていたわけではない。
それはしばらく考え、すぐ理解する。
前世の私は、300連ガチャを回してしまう程の、廃課金アラサープレイヤーだった。これではダメだとリフレッシュ休暇制度を利用し、十連休を取得。脱スマホの断捨離山籠もり生活をしたことがあった。そこまでハマってしまった乙女ゲームのアプリは、既に削除している。多くのゲームアプリを削除し、唯一残っていた……というか、プレイしないので放置していたのが「君がヒロイン~みんな君に夢中~」だった。
つまり転生先の選択肢として、「君がヒロイン~みんな君に夢中~」しかなかった……というのが正解に思えた。ちなみに前世死亡時の最後の記憶は、目の前に迫る眩しい光。多分交通事故で命を落としたのだと思う。前世記憶を取り戻しているが、最期の部分は少しあやふやだった。
ともかく悪役令嬢に転生してしまったと分かったのだ。しかも赤ん坊の時に。そうなったらもう、断罪回避だ。こんな早い時期から動けば、断罪回避の準備も万全にできる! そう思ったのですが。そんなことはなかった。
まず、スーパーサラブレッド公爵令嬢なのだ、ヴィクトリアは。もう誕生した瞬間から、「我が息子の嫁に」という縁談話が山のように届く。何せ父親は宰相で、母親は社交界のカリスマ。五歳上の兄は既に美少年として噂になっていた。こうなると私、ヴィクトリアも素晴らしい令嬢に違いない……となったわけだ。
そして山のような縁談話を蹴散らし、ヴィクトリアの婚約者になったのは、ヒロインの攻略対象である、この国の第二王子ネイサンだった。つまり誕生して三か月後には婚約者が決定していた。だがこれが正しいゲームの流れ。回避不可能事案だ。
そこは仕方ないと諦める。代わりにヒロインの攻略対象との接点ができるのを、避けようと頑張るが……。無理だった! ことごとく失敗し、知り合ってしまう。こうなったらヒロインがどの攻略対象を選ぼうが、私は彼女の恋路を邪魔する悪役令嬢になるしかない。
なぜ、私の回避行動はことごとく失敗するのだろう?
考えた結果、辿り着く。
これがシナリオの強制力というものだ。私が悪役令嬢として立ち回らないと、ゲームが進行しない。だから回避行動はすべて無効化されている……と感じた。
それでも回避行動に明け暮れたが……。
すべての攻略対象とヒロイン、そして悪役令嬢が揃う、王立リケッツ高等学院に入学してしまう。
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