ギルドにて
その後もギルド内の冒険者を捕まえてはいくらか聞き込み、知識の補完がてら資料や図鑑を漁った。ギルドの資料は冒険者だけでなく一般利用者向けにも解放されているうえに、初心者向けや実践向けが多く、リクにもわかりやすい。これからときどきここに来ることになるので、しばらくはこれで知識を付けようとリクは決意した。
あとは併設のバーで昼ごはんだ。ここは酒類の提供ももちろんあるが、食事も抜かりない。レストランのような繊細な料理は無い代わりにステーキからサラダまでとにかくボリュームたっぷりで、肉体労働者も大満足のメニューが並ぶ。リクはとりあえず手軽に食べられそうなサンドイッチを注文した。
「でっか……」
このパン手のひらよりでかいんだけど。恐れ慄いて思わず声が漏れた。もちろん面積だけでなく高さもがっつりあって、間には揚げた魚と瑞々しい葉っぱ、チーズが挟まっている。朝に牧場で動いていなかったら確実に食べきれなかっただろう。ちなみにこのチーズは牧場のものだ。
「おいしい……!」
衣とみずみずしい葉っぱのざくざくとした食感に、もちっとしたパンの膨らみ。魚の下味と葉っぱのドレッシングでかなりパンチが効いていて食が進む。リクは目を輝かせてかぶりついた。
そのままモソモソと咀嚼しつつ頭の中で先ほどの話をまとめていく。薄茶色系で人の数倍はあるゴツいドラゴン……で、いいのかなあ……。聞いた話から体格と強さを想像して、リクの顔がやや嫌そうに歪む。
そこに同じく情報整理していたロビンが声をかけてきた。
〔いやぁ、出没地点てんでバラバラっすね。事前情報通りですけど〕
「奥だろうが人里の方だろうがお構いなしって感じでしたもんね」
〔人里に来たならそのまま村を襲ってもおかしくないのにつかず離れず。あり得る範囲ですけどドラゴンにしては大人しい方っすね。……困ったなあ、観測系魔術置くならもっと地点絞った方がいいんすけど〕
「どこいったんでしょうね……」
リクはげんなりしつつもサンドイッチを持ち替えて、食べているうちに反対側に飛び出てきた具材にかじりついた。
――直近の目撃は冒険者、森の中腹、日付は少し前になる。証言から察するにこのドラゴンは突進型のパワーファイター。大きな体格でそれをすれば木々が邪魔だ。特にここの森は奥に行くにつれて大木も増えていくという。薙ぎ倒すのはわけないだろうが――全員不意を打たれたにもかかわらず逃げ切れているのだ、ドラゴンが言われる通りめっぽう強いなら犠牲者が出ていてもおかしくないのに。やはりハグレというのは本当だろうか。ギルドの資料で調べたが、ハグレが能力を発揮しきれないことはよくあるようだ。
ぐるぐると考えていたリクは、ふと疑問に思う。
「ドラゴンって強いんですよね?傷なんてつけられる相手そんなにいるんですか?」
〔別に無くはないんすけど。うーん、なんとも……〕
「それも未到の領域ってやつですか」
〔そうなるっすねえ〕
未到の領域とは文字通り。踏破記録もなければ詳細な観測をすることもできない。何があるかわからないのだから、ドラゴンだけでなくそれに匹敵するほどの魔物がいてもおかしくない。
さらに言うなら、引きこもられたら厄介なことになる。こちらからは手が出せなくなるからだ。
目撃情報が絶えたというのはそういうことだろうか、と当然だが恐ろしい事実に気がついたリクはゾッとしてごくりと唾を飲み込んだ。
「それから……サンドワイバーンでしたっけ。結構情報をもらえましたね」
〔っすね。見たって言ってた彼、かなりの手練っす。なんで王都所属じゃないのかな。〕
”サンドワイバーン
茶系の小型ワイバーン、体高2.5m前後。群れで生活し、生息域は主に砂漠地帯。適正ランクはB以上。特筆すべき能力や魔術は持たないが、砂漠で出会った場合遮蔽物に乏しいため上空からの攻撃を受けやすい。対空戦闘に慣れてから挑むべきである”
”ワイバーン系はハグレになるとかなり広範囲を移動するため注意。”
ギルドの魔物図鑑だとこうだ。
そしてこの騒動での目撃証言はドラゴンより少なく、今日は先ほどの彼一件しか話を聞けなかった。だがターゲットではないし細かく聞けたのでこれだけでも充分だ。ギルド側が討伐クエストを発行したときに、もう少しまとまった情報が出てくるだろう。
「つまり森には2種類の強敵がいる?」
〔そういうことになるっす〕
「げぇ……」
そのあともつらつら考えてみたがあまり良い想像ができない。思考が煮詰まってきたところでリクはパンの最後の一欠片を口へ放り込んだ。これ以上考えても仕方ない。約束の時間までまだあるのだ、お腹がいっぱいになったところで次は村人へ聞き込みしよう、と空の皿に手を合わせて立ち上がった。
それからしばらく。腹ごなしに通りをブラブラ歩きながら腕輪の指示を聞きつつ適宜村人を捕まえて尋ねたものの、この状況でそもそも森の中に入る人は少ない。あまり情報が手に入らないなか、ふと緑の屋根の建物が目に入った。薬草屋と書かれた小洒落た看板の前で女の子が掃き掃除をしている。彼女はリクに気がついたようで、ぺこりとおじぎをしてくれた。そういえば子どもには話を聞いていなかった。本人の体験はともかく、大人たちの話を聞いていないだろうか。噂話程度でも欲しくなったリクは、最後にこの子に聞き込むことにした。
ドラゴンですか?うーん……、そういえば森で大きな影は見ました。見間違いかもしれないけれど。
:もう少し特徴はわかりますか?
遠かったのであんまり。森の奥の方が一瞬光ったんです。それで気がついて。
:どこで見たかわかりますか?えっと地図はと……
父と薬草を取りに行ったときだから、たしか――ここ。……父はあんまり信じてくれなかったけれど、本当に驚いたんですよ!――ま、怖いもの話のネタに使うからいいのよ。次こそおばけの話に勝つんです!
〔たくましい……〕
最後に収穫だった。リクは仕事の邪魔をしてしまったのでお礼をいいつつそそくさと退散する。そろそろ約束の時間が近い。
〔ふーん、光った、ねぇ……〕
「これもドラゴンですかね」
〔なんとも。前の報告と合わせて要検証っすね、お疲れ様でした!〕
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リクがギルドから去ってから。
「ええー!入れ違い!?そんなあ」
受付カウンターで項垂れる影がひとつ。
「ギルドも人使いが荒いよ、せっかく遺跡から帰ってきて装備メンテに出してるとこだっていうのに今度はお前の故郷のドラゴン騒ぎ調査しろって」
「お久しぶりですね、元気そうで何よりです」
「久しぶりぃ元気元気!……じゃなくてさあ!」
頬杖をつき文句を言っているものの口調は軽い。彼女は懐かしむような声で続けた。
「コニーは?今もここに居るって聞いたけどまーだ落ち込んでる?」
「今日はいらっしゃいませんでしたが……最近は観測所の方と共に行動しているそうですよ」
「ふーん、まあちょうどいいか」
うんうん、と彼女はひとり頷き背筋を伸ばす。背中に短槍、腰に大ぶりの山刀、外套には金縁取りの銀色の識別タグが光る。Aランク冒険者だ。
「こちらとしてもあなたが居てくれたら心強い。受けていただけて嬉しいです。――レーネさん」




