聞き込み
「やあコニー、今日も牧場のかい?」
「おうそのチーズ一塊くれや!」
「そこのは新しいバイトか?」
村。のどかで、それでいてにぎやかな村だ。住民が手入れしているのだろう、花壇には色とりどりの花が咲いている。それだけではなく壁掛けのプランターもあり、木材に映えて彩りが美しい。
リクはそれを眺めながら、こういう光景は見覚えがないなと考えていた。どうしても少し時代が古い気がする。やはり観測船のほうがなじみ深い。
物思いにふけるリクの横で、顔見知りの多いコニーはちょくちょく声をかけられていた。――村人たちの様子に特に違和感はない。彼らはドラゴン騒ぎに多少緊張しているが、それでも普段通りの生活を続けていた。自然に近い村は魔物の出現が多く、こういった事態にはある程度慣れているのだ。
「活気がありますね」
「そうか?いつもこんな感じだぞ」
「ドラゴンの影響があるかと思ったんですけど」
「あー、結局噂止まりで、それも最近目撃されてないからな。ドラゴンだぞ?ほんとにその気ならとっくに村は攻撃されてる」
「えぇ……」
そんなもんなんだろうか、とリクは思う。まあ村が平和なのは良いことだと気を取り直して、道の脇に止まった荷車からゆっくりと降りた。固い地面に足がつく。
「お前らの言ってた冒険者ギルドはこの先突き当たりを曲がったところ、ハンターのじいさんは武器屋だってんなら……まあギルド横の方だろ。ギルドは俺もしょっちゅう使ってるから、わからないことあったら後で聞けよ」
リクはコニーが指さした突き当たりを確認した。こちらが自分の行き先だが――リクはちらりと今いる道の先に目を戻す。このまままっすぐ行けば市場に辿り着くのだ。本当はそこも回りたいところだが、今日はそこまでの余裕はない。リクはお礼とあとで落ち合う約束をして、コニーを見送った。
〔いやあいいとこっすね〕
腕輪から声がするのもいい加減慣れてきたリクは、歩みを止めることはない。……今の声はロビンだ。
「それで?何を聞けば、というか何があったんですか?」
〔そっすよね。所長が全然説明してないみたいなんで、最初から〕
この村、――ヘメーリ村って言うんすけど、牧場が多くて。だから家畜が襲われないようにハンター業も盛んなんです。
話が長くなりそうだと思い、リクは道端に置いてあるベンチに座る。道をゆく人々は独りで話しているように見えるリクをたまに見ることもあるが、腕輪を見ると納得したように視線を戻し歩き去っていく。
〔最初にドラゴンを見たって言ったのはこのハンターさんっすね。ハンターズギルド経由で連絡が入ってるっす〕
ハンターとは森の浅いところまでに出る獣の討伐専門職だ。冒険者と兼業している者も多い。
〔だから結構人里に近いところに出てるっす。同時期に冒険者ギルドでも似たような情報がいくつかあって、それがこっちに来てますね〕
「冒険者ギルドは何て?」
〔ドラゴンか中〜大型魔物だろうと。それから特徴がいくつか。形式に則った定期連絡っすから、そこまで詳しい情報が入らないんすよ。そもそも見間違いだったりも多々あります〕
実際そういう誤報は多い。仕方ないことだ。突然強い魔物に出くわしてしっかり特徴を覚えていられるような人間は少ない。例え覚えていられたとして、記憶が確かとは限らない。
とはいえ今回はある程度まとまった報告があったため調査に動くのだが。
「あ、そういえば所長が気になることとか言ってましたけど……」
〔ああハグレ疑惑のことっすね。送られてきた特徴が森のドラゴンとしてはちょっとおかしくて。どちらかといえば荒野とか砂漠とかのドラゴンの特徴が出てるっす〕
「この村周辺にそんな地域は、……あー、無かったような?」
空から落とされた時にはこのあたり一帯は緑だったはずだ。ロビンもそれを肯定した。
〔北の方に湖があるだけで森と草原っすね。まあこの森の奥は未踏の領域になってますから、別に何が出てもおかしくはないんすけど……上から見たかぎりではそこも森なんすよね〕
〔あと最近のことっすけど、ドラゴンの噂が途絶えたあたりでハグレのワイバーンの情報も入ってます。ついでに話聞けそうなら聞いときましょう〕
「ややこしくなってきましたね……」
〔入ってる情報だと、今追跡してるドラゴンではないってだけで、正直まだわからないことだらけで。観測船としてはドラゴンの新規個体が居るとといいんすけどね、――ずっと探してるんすよ〕
そうロビンは締めくくった。
――まずはハンター。壮年の男性。
正直自分でも信じらんねぇんだけどよ、急に出てきたんだ、そいつは。あんとき仲間と一緒にシカ追っかけててなぁ、罠に誘導しようとして相棒と2人で居ったわけ。
ワン!グルルルル!!
ガサガサて音がするから来たぞ思うてな、爆音魔術で脅かすぞと構えたら目の前におったんよ。ドラゴン。
いやぁおっかねえって。俺の3倍はでけぇもん。夢中で逃げ出したから覚えてねえんだけどさ、気がついたらいなくなってたんだわ。
:詳しい姿形は覚えていますか?
いやぁちょっとなあ。茶色より少し薄い色で、かなりガッチリした腕だったな。
:場所は?
崖の方。地図もってくるけ――
:あ、こっちに用意してあります。
グルルルルル!!
おう落ち着け、よしよし、……ええと、ほれここじゃ。――あ、そうだ。思い出した。確か片方のツノが変な方に捻じ曲がっとったわ。折れてたかもしれんけどな
――次。冒険者ギルドのパーティその1。Bランクの青年たち。
ああそう俺ら俺ら。見たよ。あんとき森の奥で一角兎の討伐してたんだよ。最近ランク上がったからさ。そしたらそいつ急に逃げ出してさあ。何かと思ったら俺らの後ろからすげえ咆哮が聞こえたわけ。もー死ぬかと思った、突然出てくるんだぜ?
:姿かたちは覚えていますか?
俺の何倍あったかな……薄茶色でゴツいガタイだった。でもあんまりゴテゴテしたトゲはなかったな。尻尾の方とかはしゅっとしてた。結構森の奥に入ってたからさ、逃げきれないんじゃないかと思ったんだけど、上手いこと木の間縫って逃げれたのはラッキーだったよな。あんなのにまともに轢かれたら即死だぜ
〔ツノのことは覚えてないっすか?〕
あー……。そういえば非対称だったか?
〔あと最近変な魔物見たりとかは?〕
ワイバーンのことか?ないぞ。
――パーティその2。Dランクの少女たち。
ウチらも見た見た。小さい洞窟のあたりだったかな。血止苔の採取してたら急にでかい声がきこえてな、あんなゴツい身体で突進されたら一発やんな、ああ怖。
:戦闘は……してないんですよね。
せやね、スピードには自信あるさかい、速攻逃げてやったわ。けど煙幕魔術効かなかったのはヒヤッとしたわ。え?ツノ?……覚えとらんなあ。すぐ煙使てまったし。――そういえば煙から一瞬出た左足に傷があったかも。鱗の反射かもしれんしあんま気にせんといて。
〔うーん、傷ねえ……あ、最近他に変な魔物とか見たりしなかったっすか?〕
ないね。ワイバーンもいるって話だったっけ?いややねぇ。
――その3。ハグレのワイバーンを見たというBランク冒険者。
このあたりではなかなか見ないよね、サンドワイバーン。あそこの森ってそこまで魔物強くないから素材取りがてら少し奥まで散歩してたんだけど。
〔サンドワイバーンっていうと、あんまり大きくないっすよね、3メートル切るくらい〕
おっと通信魔術か、面白いことできるね、君。そうだよそれくらい。1匹だけだったけど相性悪くてさ。出るって知ってれば装備整えたのになあ。鱗が欲しかったんだ。どうしようもないから逃げたけど。
:他に気になることは?
ハグレにしてはそんなに強くなさそうだったな。見た目は――脇腹あたりに噛まれて肥大化して治ったみたいな痕があった。前も一度だけ見たことあるけど、同じ位置に珍しいよね
――ギルド職員。
観測船の方ですね。お待ちしておりました。報告のあったクエストの詳細と直近の事故一覧がこちらです。
:ありがとうございます。
〔この頃の状況はどんな感じすかね〕
低ランク帯には森の奥は立入禁止令が出ていますが、このまま目撃証言がなければそのうち解除されるかと。それから討伐系が多少増加傾向でしたが、最近は横ばいか少し減少を始めています。
〔ハグレの報告はサンドワイバーンのみっすよね〕
そうですね。近日中に賞金首として特別クエストを発行予定です。それ以外の報告はありません。




