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魔法と記録とドラゴンと  作者: 岩紙野筋目
森奥のドラゴンを探せ
7/22

絵本

 初日に子ども達に取り囲まれたように、ここは牧場だけでなく小さな孤児院としても機能している。冒険者ギルドにもよく依頼を出していて、奉公先としても単発のクエストとしても開放中だ。動ける子は牧場へ、小さい子や動けない子は室内で読み書き、少し大きい子は事務の手伝い。おばさんをトップに牧場のスタッフといろいろな業務を回している。……とはいえ小さな子はやれることが少ない。


「ねえねえねえ、ご本よんで!」


 共用スペースでゆっくりしていたリクは子ども達に捕まった。擦り切れた本を両手に抱え、キラキラした目で見られては断れる奴はいないはず。知らないことだらけだが少なくとも文字は読めるのだし、問題ないだろうと頷いて椅子ごと子どもたちに向き直る。


 彼らは何冊か持ってきていたので適当に開いてみた。

『まじゅつしスコーピウスのそうがんきょう』。キラキラ石……魔石だろう、それを双眼鏡で見つけて覗いては新しい魔術を手に入れる話だ。

『いばりんぼのまものの王さま』。調子に乗って暴虐の限りをつくした魔物がドラゴンの不興を買ってベキベキのボキボキにされる話だった。怖いわ、次。

『海のぼうけん』、伝奇モノ。海のふちから落ちた船が幽霊船となって彷徨う。海のふちって何。それから最後に。


「『黒い竜のものがたり』?」

「まいなー!」

「どらごん!」

「ほうドラゴン。どれどれ――」


 リクは我ながらわかりやすいな、と思いつつドラゴンと聞いて乗り気で本を開く。



 ”むかーしむかし、ここにはらくえんがありました。春の日ざしに花はさきみだれ、けものはまどろみ人びとはおどり、とはちょっとちがいますが。

 それでもやまいはなく、死もなく、人びとはおもしろおかしくくらしていたのです。


 あるとき黒い竜がいいました。

  おまえたちはいつものんきにあそんでいるな

 それのなにがわるいんだ

  わるいとも。あれが見えていないのか?

 あれってなあに、と人びとはたずねます

  あそこにもひとつ、そこにもひとつ

 竜のさし示す先は人の顔

 それ以外は見えません”


 ホラーだこれ。リクは内心震えた。

 子どもたちは静まりかえって挿絵をじっと見ている。暗がりから恐ろしい顔を出したドラゴンと対照的に、暖かな日ざしの元で笑顔を浮かべる人々。そこからドラゴンはちょくちょく警告するものの、人々のほとんどは理解ができないようだ。焦るドラゴンはやがて人々を傷つけるようになる。


 ”ああだめだ、これはだめだ

 竜はいかり、なげきます

  どうしたらおまえたちにも見えるようになるんだろうな、そうだ

  ぐおおー!

 とつぜん竜はほえ、つばさをぐいぐいと広げます

 村をおおい、山をこえても止まりません

 どんどんどんどん大きくなると、ついに日ざしをかくしてしまいました


 するとどうでしょう


 竜にゆびをさされていた人たちが、とつぜんぱたりとたおれます

 そのままぴくりともうごきません

 どれだけまってもうごきません

 たおれた体に雪がつもるころ、そこには一つの石がのこされていました”



「バドエンじゃん……むなくそじゃん……」

「きゃーー!」

「ぐおお、がおー!」



 リクはげんなりするも、子どもたちは満足したらしい。


「子ども心、わからん」


 「ありがとー!」と去って行く子どもを見送った腕が半端に上がったまま、リクは顔を引きつらせた。



>>>>>>>>>>>>


 さて。

 リクの今日の仕事は、村での聞き込みだ。子どもの相手をして少し遅れてしまい、慌てて玄関を飛び出した。


「おーい、行くぞ」

「ごめんごめん」


 そして案内してくれるのはコニー。牧場の買い出しと納品があるということで、荷車に馬を連れて待っていた。今日はラフな格好で鎧を身につけていない。簡素な服に身を包み、首から骨細工のような小さなアクセサリーをさげている。

 彼は手を出してリクが御者台の隅に乗り込むのを手伝い、リクが座ると手綱をいじりながらぽつぽつと話を始めた。「昨日は悪かったな、結果的に囮みたいなマネさせちまった」と言う彼に、リクは「子どもが無事だったし、僕もちょっと甘かったので」と返す。


「……そうか。ニワトリの注意がどこかに向いた瞬間首刎ねる自信はあったんだけどよ、なかなか手が出せなかった。あいつだったらもっと早く片付けてたんだろうけど……武器が違ったっつってももう少し剣の腕磨かないとな」


 すまん、ともう一度コニーはリクの方を見て言った。


「そういえばコニーって冒険者なんですよね、普段は牧場の手伝いも魔物の討伐もしているんですか?」

「ああ。駆け出しのころはともかく今は魔物関係が多いな。牧場も見回りとかそっちだ。――だから昨日はたまたまあそこに居たんだよな、俺」

「それってやばかったんじゃないですか……?」

「ま、仮にいなくても問題ねえよ。ああ見えてオバちゃんくっそ強えんだ。いつ手を出そうかエプロンのポケットに隠した杖いじってたの、気がつかなかったか?……鶏舎ごと吹き飛ばしちまうから俺に任せたんだろ、たぶん」

「えぇ……」

「若い頃は冒険者としてブイブイいわしてたとかなんとかさ、時々自慢してるぜ」


 しゃべりながらもコニーは慣れたように馬に指示を出す。馬はブルルと身震いすると、ゆっくり歩み始めた。

 がたごとと揺れる荷車。景色が後ろに流れていく。なだらかな斜面を下って少し行けば、村の中心部だ。

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