叫び
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レフィ。コニーと親友の彼女は、いつだってコニーの上を行った。
ある日の夕暮れ。道場に通うレフィに習う形で、いつもどおりコニーとレフィは二人で剣の練習をしていた。
そうしていつも疲れ切って空き地の草の上に寝転がり、やれお前の剣は速すぎてわからんだの、そっちこそ隙を見せたら一瞬で距離詰めてきて怖いだの、果ては身長が抜かせない血豆が潰れたお腹すいただのくだらないことを言い合って空を眺めるまでがお約束の流れだった。だがその日は違い、体を起こしたレフィが唐突に提案した。
「一緒に王都の冒険者を目指そうよ!」
……いや、実のところ唐突ではないのだ。お互い薄々わかっていたことで、護身で剣を習っているんだと言いながらもこっそり森に入って飛び鼠を相手にしてみたりはしていたのだ。ただ気恥ずかしくて、相手が違うことを考えていたら怖くて口に出していなかっただけで。
――いつか王都の冒険者になって、まだ見ぬ大地を冒険したい。強大な魔物を打ち倒して勇者になりたい。
同じ夢を抱いていたことを知った二人は爆笑して、翌日冒険者ギルドの門を叩いた。
そろそろBランクに上がる頃のレーネの世話になったり世話をしながら魔物を倒し、薬草を採り、牧場を助け、剣術を磨く。
コニーより剣の扱いに長け、物覚えの良いレフィはよくコニーに付き合って教えていた。コニーの方もそうしているうちにやや短絡的で喧嘩っ早いところが落ち着いて、大人しく薬草図鑑を眺めたり魔物の弱点を諳んじることができるようになった。剣なぞは昔からレフィを参考にしていたこともあってか彼女そっくりの剣筋になってしまっていて、周囲の冒険者に揶揄われるほどだった。この村で素早いコンビ、ウサギみたいな奴らと言えば2人のことだ。
そしてDランクの木札はCランクの銅タグになり、優秀な二人はそろそろBランクが見えてきたというころ。
とある魔物を相手にして失敗した。ほとんど事故だった。
いつも通り支度をして、いつも通り探索して、戦闘もいつも通り連携した。魔物だって何度も戦ってきた相手だった。だがほとんど群れないはずのその魔物がたまたま群れてしまって、事前に用意していたはずの逃走ルートはたまたま崩落。そこで引き返そうとしたコニーの居た足場が悪く、二度目の崩落に巻き込まれる形で滑り落ちた。俊敏な魔物は斜面を跳ぶように降り、怪我と捻挫で立てないコニーに迫る。レフィは自身を囲っていた魔物を即座に切り捨てると、無我夢中で降りてコニーの前へ――
――後のことは、コニーはあまり覚えていない。
ただレーネが数日黙って面倒を見てくれて、その後は何事もなかったかのように冒険者ギルドに顔を出した。そして数ヶ月後、コニーは独りでBランクに昇格した。それだけだ。
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森の中、少し開けた場所。追いついたリクが見たのは、少女に向かって剣を抜くが構えもしないコニーと、それを棒立ちで眺める少女だった。コニーは目の前の少女しか見えていないようで、リクが来ていることを理解しているのかどうかも怪しい。彼は絞り出すように言った。
「……そうか。そういうことかよ。――お前、レフィじゃあないな」
疑問ではなく断定。当然だ、彼女はコニーの目の前で死んだのだから。
だがコニーの目からしてみても、それは本物と違いが見つからなかった。体に対して少し大きな剣も、腰のポーチに付けた骨細工のストラップも同じだ。仕草だって、さきほどコニーと目が合う前の無表情を除けばまるきり一緒だった。この緊迫した状況下で自然体とも呆然ともつかぬ態度をとっていることだけが少女を異質たらしめている。
対してリクはこのひりついた空気になすすべがない。じっとりと額に汗をかき、レーネとの約束が頭をよぎるも、目の前のできごとをただ見ていることしかできない。周りでざわめく木々が自分たちを取り囲んでいるようで、圧迫感に押しつぶされそうだった。霧で遠くまで視界が効かないのもそれに拍車をかける。
……ただ、先ほどから腕輪が不規則に明滅し、ゆっくりと魔力を吸い上げていることだけははっきりと感じていた。今までにない挙動だ。拒否はしないが状況と相まって不快感と言っていいものがリクの左腕を走り、ぎり、と歯ぎしりした。
観測船側は一体何をしている?何を警戒している――?回らない頭を無理矢理回す。がさりと揺れる茂み。そして思い当たる一つのこと。
と、少女が口を開いた。
「コニー、一緒に――」
「チッ――。」
斬った。だらりとした体制から急な踏み込み。コニーの早業に少女は防御が追いつかなかった。抜いて半端に振りかぶられた剣は、持ち主の首が飛ぶと同時にそのまま手からすっぽ抜けてがらんと地面に落ちた。
そして剣も体もポウと穏やかに光ると、塵が風に吹かれるように消えてしまった。あとに残ったのは少女がうっすらつけた足跡と、剣が落ちたときにできた地面の細い傷だけ。
それをしっかり見届けて、コニーはフゥーと長いため息をついた。そのまま納刀もせず、リクの方へ振り返りもせず、森の奥をじっと見ている。……リクは少しホッとした。彼の今の顔を見たくなかったからだ。だがそれも一瞬にとどめ、すぐさま気を引き締めると剣の柄を握った。
「……リク、お前も薄々わかってるだろ」
「はい……!」
今の少女は幻だった。もしくはそれに類するなにか。
――だったら、それをけしかけた何かがいる。
そしてコニーが少女と対峙していた時、少女の背後の茂みが微かに揺れていた。つまりそこに――
「出てこい!!」
コニーが怒鳴って茂みごと斬りかかろうとしたその時。
「ま、待って!あたしだよ、あたし!!」
飛び出してきたのは抜き身の槍を防御に構えたレーネだった。頭に葉っぱがからみ、何があったのか大きな怪我はないものの土でかなり汚れている。
「あん?レーネ?」
「なんでここに……?」
バツの悪そうな顔でいる彼女にリクたちは疑問を隠さない。タイミングがあまりに悪い。
「いやあ、ほんとはあんたがココで剣抜いたときには居たんだけど……出て行きづらくて……」
「あっそ……。――じゃなくて!お前も偽物じゃないだろうな?」
「えっそういう!?……いや、そうね。そういう話だったわ、迂闊だった――!」
一瞬仲間割れしそうになるが、ここで観測船側からようやく声が届く。焦った声だ。
〔大丈夫です彼女は本物です。それと警戒してください、まだ近くに術師が――〕
(咆哮)――――!!!!
アヴェーラが慌てて警告し終える前に轟く声。足先から脳天まで貫く震えは、音のせいだけではないだろう。
――ドラゴンだ。




