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魔法と記録とドラゴンと  作者: 岩紙野筋目
森奥のドラゴンを探せ
10/22

装備品


「よう、いい情報はあったか?……どうしたそんな疲れた顔して」

「なんだかよくわからなくなってきて……」


 コニーは約束の時間より早く用事が済んだようで、馬の世話をしながら先に待っていた。

 彼はリクの姿を認めると馬体を撫でていた手を止めて、手綱や荷車の調子を確かめたりし始める。荷台の購入物の固定チェックはリクも手伝った。頑丈な布袋やロープの隙間からは小山になった食料が見てとれる。雑貨や修理に使う消耗品の類もだ。

 ついでにリクは帰りもよろしくねという気持ちを込めて馬の背をなでたが、馬はつれない態度。ご機嫌を損ねてしまったと苦笑しながらいそいそと御者台の端に乗り込んだ。そしてコニーに「お願いします」と言えば、彼は頷いて馬の尻を叩いた。道の脇をゆっくりと荷車が進む。


「うーむ……」


 馬に指示を出すコニーと違いリクはやることもないので、蹄の音を聴きながら物思いに耽る。……そもそも。


「ひょっとしてドラゴンを調査するのってすごく危ないんじゃ」

「今更かよ……」


 今更なのである。逃げ出しただとか死ぬかと思っただとか、実際相対した人たちの話を聞いて現実を思い知ったのだ。だいたいあの時は空から突き落とされて動転していたというか。


「戦う必要はないっていってもなあ……」


 森、普通に怖い。普通に魔物とか出る。そこに追加で、どこかを徘徊しているだろうドラゴンとワイバーン。ギルドで冒険者の武勇伝とかも聞いたが正直背筋が寒い。

 それを横で聞いたコニーはため息をつき、ニワトリの前でのリクの動きを振り返った。


「荒事に慣れてないのは見りゃわかるけどよ、トロくさくはねぇんだからそんなに自信ねえならやってみりゃいいじゃねえか」

「何を?」

「討伐」

「なんの?」

「魔物の」

「まじで?」

「じゃどこで実践練習するんだよ、ニワトリはあれっきりだぞ」

「ギルドは新人に規制かけてましたけど?」

「そりゃ奥の話だろ、浅いとこは普通にクエスト出てんぞ。だいたいお前の所属は観測船だろ」


 コニーは馬の方を見たまま平然とそう提案する。実際張り出されていたのはリクも確認していた。『止血苔の採取』『行方不明者捜索願』『一角兎(ホーンラビット)の討伐』『飛び鼠(イビルラット)の討伐』エトセトラ。

 冒険者にも生活がある。少しとはいえ森の騒ぎで魔物の討伐クエストが増えているため、今が稼ぎどきと皆それを受けているのだ。

 つよいなあ、リクが遠い目をしていると腕輪が淡く光った。


〔やあリク君、情報収集どうも。今は何を?〕

「荷車に揺られて帰宅途中です」


 所長である。


「こいつが急に森に入る自信無くすから、いっそ討伐依頼でも受けたらどうだって言ってたところですよ」

〔お、それはいいね!〕


 ――クソ所長である


「所長。本気ですか?」

「本気も本気。実際動ける方がいいからね。どこかのタイミングで練習してもらおうとは思ってたよ」


 〔ニワトリの時にはわかってたでしょ〕、そう言われるとぐうの音も出ない。所長はダメ押しとばかりにコニーを焚き付けた。


〔どうだいコニー君、良かったらちょっと見てやってくれないかい?〕

「俺は別に――、俺は教えるのうまくないんだけどなあ……」

〔ギルドでの成績も優秀だ。君になら任せられる。――そうだな、冒険者ギルドの方で指名クエストを出そう。観測所のバイトはわりがいいぞ~!〕

「詳しく聞かせてください」


 所長のニヤニヤした顔が浮かぶようだ。食いついたコニーと2人で勝手に話を進めている。それをジト目で見るリクは、だんだん家の少なくなってきた周りを眺めながら現実逃避をはじめた。あ、あそこにどこかの牛がいる。脱走じゃないよな?


「よしリク、近いうちに一角兎(ホーンラビット)狩りに行くぞ」

「まずは牧場の隅で素振りからお願いしたい……」


 逃げ道はなさそうだ、とリクは頭垂れながら返事をした。牧場はもうすぐ先だ。



 >>>>>>>>>>>>



 この日が来てしまった、この日が来てしまった。ついに森に入る日である。リクは昨日までの日々を遠い昔のように振り返っていた。いやあれから3日も経っていないのだが。

 緊張で全然眠れなかった……なんてことはなく、牧場の手伝いで疲れたリクは快眠全快である。でもまたニワトリの夢を見たかもしれないな、とリクは寝起きの頭でぼんやりと思った。奴の爪痕は深い。


 思い出してしまった以上気になる、とリクはベッドから降りて、机の上に置いた袋からあのときの魔石を取り出して朝日にかざした。――所長がしばらく保管してくれと言ったので今はまだリクの手元にあるのだ。相変わらず全体は無色透明で、綺麗な虹色が中で輝いている。リクのわずかな手の動きに合わせて赤から緑へ、また赤を通って少し青みがかって。しばし眺めてまた袋にしまい、支度をしてコニーが待っている玄関先へ赴いた。



 だがそこで無慈悲な宣告を受けることになる。初めから森の中に入ることになったのだ。まずは牧場の隅で素振りからと言ったのはさすがに冗談半分だったが、いざ森へと言われるとリクはガチガチに固まってしまった。最初は後をついて回ってほかは臨機応変に、ついでに森の様子を見る、などと言うコニーの話を緊張で聞き流している。


「一日気張れよ」

「よろしく、おねがい、します……」


 あまりに沈痛な顔をしていたからだろう、コニーは呆れてリクの肩をたたいた。

 なお今日のコニーは金属製の軽鎧と灰色の外套をしっかり着込んでいる。得物は彼愛用の細身の剣だ。使いこんだ跡のあるグリップにリクは彼の実力を思い知った。


〔やあおはよう2人とも〕

「はよーございます」

「オハヨウ…ゴザイマス……」

〔……ずいぶんヘソを曲げてるなあ。ドラゴン調査するんだろう?〕

「します……」

〔ドラゴン見たいんだろう?〕

「見たいです……」

〔しょうがないなあ、ほら、腕輪出して〕


 リクが所長の声にしぶしぶ従い左腕を体の前へ持ってくると、急に石の部分が強く青に光った。石を中心に幾何学模様が――魔術陣が展開されると同時に左手の中に光が宿る。ついでに少し力の抜けるような感覚。


「!?」


 一瞬強く光ったそれに反射で目を瞑った瞬間、リクは手の中に重みを感じた。


「これ……」


 見るとそこには鞘に収まった一振りの剣が。抜いてみると幅広で頑丈そうな剣が出てきた。シンプルで装飾はないが、鞘に付いたベルト金具に青い魔石のストラップが2つ揺れている。


〔餞別だ。初心者向け定番のやつ。でも石の方はアヴェーラのお手製だぞ〕

「あ……ありがとうございます」

〔あいつも故郷だから思うところがあるんだろうな。なんかあったらそのストラップを引きちぎるなりして投げて逃げろ。足止魔術(あしどめ)が入ってる〕

「よかったな、リク」

「うん」

〔……そうだ、調子はどうかな?〕

「? なんかちょっと力抜けたような?」

〔まあ魔力はそっち持ちだからな。……そうそう防具もあるんだ、それ!〕

「えっそれは――、うわ!」


 ちょっと待てとリクが焦ると今度は目の地面が光り、一瞬力の抜ける感覚と同時に何かが出現した。折りたたまれた上着と革製の防具だ。防具は最低限を守るタイプで動きやすそうで、灰色の上着の方には大きめのポケットがいくつかついている。

 拾って土と草を払っているリクの横で、コニーが感心して口を開いた。


「……ほんと多芸だな、転送魔術とは。珍しい適性だってのに」

〔コレは観測所職員がフィールドワークで使うやつだ。防御力が少し低い代わりに動きやすいし、上着のポケットにいろいろ収納がきく。中に回復用の使い捨て魔石をいくつか入れておいたからな〕


 リクがポケットを探ってみると、緑の魔石がコロコロと出てきた。


〔じゃ、がんばってくれよ〕

「うっ……」

〔なあに君なら大丈夫さ。少なくともここら辺の魔物になら遅れをとることはない〕

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