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目が覚めると、見覚えのない天蓋があった。
コンタクトレンズを外した覚えがない。体は熟睡した後の感じがあるから、目が心配になる。
起き上がって、覚えのない寝心地の良いベッドから下りて周りを見渡すと、天蓋付のベッドを中央に据えた部屋。海外の歴史建造物のセットのような作りだが、それよりも目が大事だ。
壁に鏡がかかっていて、そこに近づくと見覚えのない顔が映りこむ。
自分とは到底なかった色合いと愛らしい顔。
ザ、日本人であった自分とは縁のない、青い瞳にプラチナブロンド。
「うわっ、可愛いー!」
思わぬ眼福に歓声をあげると、鏡の中の美少女の口がぱくぱく動く。
声も可愛い。
見たことがあるような、ないようなといった顔だ。
でもとにかく美少女だということだということは、わかる。
鏡で目を確認するが、コンタクトレンズは入っていなさそうだ。カラーコンタクトももちろん、入っていない天然ものの青色。
「……で、ここはどこ」
裸足で歩く音も吸収する絨毯の上、行ったり来たり歩いてみる。重厚な造りの扉もあるが、今着ているこれはナイトドレスだと理解しているので、出ることは躊躇われる。
ひとまずは自分の名前、知識、経歴を思い出すことにする。
日本で歯科衛生士として働いて、何年経ってもイライラすることがあって、とうとうやっていられるか!となって酒を飲んだ。
何故かその日はコンビニで買ったお酒を、部屋まで待てずに歩きながら飲み始めてしまった。
ある気ながら飲酒なんて、地雷系みたいだな、なんて軽く考えていたのがまずかったのか。
考えたくないが、三缶目を飲みほした位で、帰路の橋から見事に川に転落。
仕事の知識もあるが、転落したところからその先を思い出そうとすると、何故か今の記憶になる。ナイトドレスの知識も、枕元にある本のタイトルが読めるのも、その記憶が理由らしい。
扉が開けられ、メイドが入って来る。立ったままベッドの上にある本を読む私を見て小さく声をあげる。
振り向くと、記憶通り見慣れたメイドが立っている。
「ルイーズ様、どうされましたか?」
「何でもないの。それより今日の日付を教えて?」