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アメリ×猫=可愛さがニャン倍にも増し増し

 とうとう猫カフェオープンの日がやってきた。


 アメリの住む屋敷に、可愛い猫の絵姿入りで「期間限定で猫カフェがオープン!」と書いたチラシも入れておいた。デザートとドリンクの無料チケットも付けて。


 準備万端だ。ドキドキしながらアメリが来るのを今か今かと待った。


 するとドアが開く音と共に、あの可愛らしい声が聞こえてきた。俺は急いで着ぐるみの頭部分を被った。


「伯母様、本当にこちらのカフェで猫ちゃんと遊べるのですか?」

「ええ、ちょっとした知り合いから、猫カフェという猫と遊べるカフェをオープンさせたと伺ったの。アメリが最近塞ぎ込んでいると聞いたから、少しでも気分転換になればと思ってね」

「心配させてしまってごめんなさい。でもありがとうございます」


 きたー! アメリがきたー!! 可愛い、可愛すぎる。天使降臨!!


 これからアメリと猫の共演が見られるとか、まじ半端ない! 相乗効果増し増しじゃん!! 俺、天に召されそう。神様ありがとう!!


「殿下っ、殿下っ!!」


 せっかくアメリの可愛さに浸って良い気分でいたのに、またもアイツが邪魔をする。


「なんだ、今とってもいいところなんだから邪魔するなよ」

「隣っ、アメリ様の隣を見てください!!」

「隣? ……にゃにっ!?」


 カイルに促され、アメリの隣に目を向ける。そして俺は心底驚いた。


「嘘だろ……何も見えない……」

「はあ?」

「だって、可愛さ重視で頭を大きく作ったものだから、目の位置がずれてしまって、実は何も見えていないんだ」


 さっきは心の目でアメリを見た。俺にとってそれくらい容易いこと。けれど俺の心の目はアメリ以外を見ることができない。


 すると突然、猫の着ぐるみのちょうど額あたりに強い衝撃が二回加わった。


「うおっ!! 何するんだよっ! 危ないだろ!!」

「チッ」

「カイル、お前今舌打ちしただろ? しかも暗器を使うとかありえないし。王子暗殺未遂の罪でギロチン直行案件だぞ」

「何を仰るのですか。私は早く殿下にアメリ様の可愛いらしい姿を見てもらいたくて、殿下の目がありそうな部分に穴を開けただけですよ」


 そう言いながら、今度こそはきちんと目の位置に穴を開けてくれた。しかも正確に測ったと思うほどぴったりの位置に。


「出来るなら最初からやれよ。よしよし、前が見えるようになったぞ」

「そんなことより、さっさとアメリ様の隣を見てください」

「まずは生のアメリを堪能したいんだけど、仕方がない、どれどれ。……ニャンと!?」


 アメリの隣にいるのは、まさかの人物だった。


「あの女性は誰だ?」


 アメリの隣には知らない女性がいた。しかもベールで顔が隠されており、その素顔が全くわからない。


「はあ? 自分の婚約相手の容姿くらい知っててくださいよ」

「ああ、ということは、メアリ女史か。って、えぇっ!! どうしてメアリ女史とアメリが一緒にいるんだ? カイル、これはどういうことだ?」

「あれ? もしかして殿下は知らなかったのですか? 殿下の婚約相手のメアリ様は、アメリ様の伯母にあたるお方なんですよ」

「ニャンですと!?」


 そんな重要な情報は一番最初に言ってくれよ。年齢なんかよりも重要だぞ。


 聞かなかった俺が悪いのか。いや、知らなかった俺が悪いんだ。


 クソっ、家に帰ったら貴族名鑑を全て読破して覚えてやる!!


 それにしても、まずい、非常にまずい。


 タイミングを見計らってアメリの近くを陣取ろうと思っていたのに、そのアメリの隣にはまさかの俺の婚約者がいるなんて。


 婚約する前にちょっとだけ羽目を外して甘酸っぱい思い出の1ページを作るつもりが、婚約する前からデスゲームの始まりの1ページを作ることになってしまう。


 でも安心しろ。 俺は今、とっても可愛い猫の着ぐるみを着ている。絶対に中の人が俺だとバレるはずがない。


 それなのに、ちらりちらりとメアリ女史が俺の方を見てくるのはどうしてだ!?


 まるでヘビに睨まれたカエルのように、俺は身動きが取れなくなってしまった。


 カウンターの横でただひたすら立っているだけという、ただの可愛い猫のマスコットになってしまった俺。無念。


 どうすべきか、と考えていると、アメリとメアリ女史の話し声が聞こえてきた。


 もちろん迷わず俺は耳を澄ました。


「アメリ、婚約者の方とはもうお会いしたの?」

「いいえ、まだです。今度初めてお会いするのですが、その時に正式な婚約の手続きをする予定でいます」

「もしも嫌なら私が先方にはっきりと断ってもいいのよ?」

「伯母様のお気持ちはとっても嬉しいです。でもお相手の方は家の事情も知っていて、援助も申し出てくれているんです。私に断る理由などありません」


 だから大丈夫です、とアメリは力なく笑った。


 叔父上はやはりアメリの家の弱みにつけ込んだのか! 卑怯だぞ、最低だぞ!!


「お金のことなら私がどうにかするわ。だからアメリが全てを背負う必要はないのよ。……そもそもアメリを巻き込んでしまってごめんなさい」

「何を仰っているんですか! 伯母様は私財の全てを使って孤児院を設立して世の中の人のために働いてるではありませんか。私も伯母様のように少しでも人々の役に立ちたいんです」

「けれど、このまま婚約をしてしまっていいの? アメリはまだ若いわ。これから素敵な人と巡り合う可能性だって十分にあり得るのよ?」

「正直なところ、この婚約は不安でしかありません。だって私に王族の方の妻が務まるとは到底思えないのです」


 アメリがそんな不安を抱えているなんて。


 今すぐぎゅっと抱きしめて励ましてあげたい。「俺の妻の座はアメリしか務まらないよ!!」って叫んであげたい。


 けれど、もちろん無理だった。


 アメリの側には俺が婚約しようとしている相手がいる。叫んだ瞬間、間違いなく俺の結婚は人生の墓場と化すだろう。


「それは心配いらないわ。アメリはとても頑張り屋だから、諦めずに努力を惜しまなければ、自然とそれに見合うように成長するはずよ」

「伯母様……ありがとうございます。伯母様に話すことができてとても気持ちが楽になりました。私も伯母様のように長年思い続けることができるくらい好きになりたいです。迎えにきてくれるという約束の日までもう少しですね」


 お相手の方を早く紹介してくださいね、と嬉しそうに笑うアメリの言葉に、俺は驚きを隠せなかった。


 なにっ!? メアリ女史には両思いの相手がいるのか!?


 長年思い続けている人がいるからこそ、国王の末子と婚約できるというラッキーカードを使うことがなかったのだろう。


 俺との婚約は、王家からの婚約の打診だから断れないと、泣く泣く了承したのかもしれない。


 ということは、俺がメアリ女史の恋路を邪魔しているということなのか!?






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