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恋敵が強敵過ぎるんですけど

 王弟陛下と言えば、俺の父上である国王陛下の弟で、39歳独身。


 離婚歴もなければ女遊びも一切しない、純然たる独身貴族だ。


 かと言って、モテないわけではない。


 叔父上は普段はダンディズムであるにもかかわらず、ふとした瞬間にマッチョイズムがチラリズムする。


 紳士淑女問わず悶絶させてきたという伝説の男だ。


 チャームポイントはピカリと光るその頭。ただしハゲではない。


 そんな叔父上には、暴徒による襲撃を受けた当時の国王陛下をお付きの者と一緒に身を挺して守った、という武勇伝が存在する。


 しかし、その武勇伝の裏では壮絶な戦いがあった。


 暴徒に投げつけられた劇薬により皮膚が爛れ、髪の毛が生えてこなくなってしまったのだ。


 毛根が死んだ……


 その事実を知った叔父上は、悲観するでもなく絶望するでもなく、残りの毛を全て剃り上げてしまった。


 その結果、ぴかりと輝く頭に二点の傷痕が申し訳なさそうに残されることになった。


 ちなみに、どうして傷痕が申し訳ない程度なのかというと、実際に多大な被害を受けたのはお付きの者の方で、叔父上自身はピチョンと跳ねてきた滴によってできた傷だからだ。


 それでも名誉の負傷に違いないから、男の中の男だと俺は心底尊敬している。


「叔父上の初ロマンス……」


 俺には兄姉がたくさんいて、父上が30歳の時に生まれた末子だ。


 存分に甘やかされて育った筋金入りのTHE 末っ子だと自負している。


 そんな俺を特に可愛がってくれているのが叔父上だ。


 本当ならば叔父上のことを応援したい。心の底からおめでとうと言いたい。


 けれど、その相手がどうしてアメリなんだ!?


「はっ!? あの時、アメリがキスをしていたクロの額の模様、あれは!」


 叔父上の頭の傷痕にそっくりだ。


 アメリは叔父上のあの頭にも優しく微笑みながらキスをするのだろうか?


 何、そのご褒美。羨まし過ぎる。


 俺も劇薬を頭から被れば、アメリが頭中にキスをしてくれるのだろうか?


 いや、だめだ。怖いし、絶対に死ぬ。


 それに両親から授かったこの身体を、むやみに傷付けるなんてもっての外だ。


 だからと言って、アメリが叔父上のあの頭にキスをするのを指を咥えて黙って見ているわけにもいかない。


 何か良い方法はないのだろうか?


 とりあえず今できることと言えば、この婚約を破断にする方向に誘導することだろう。それならまずはカイルを説得してみよう。


「叔父上とアメリは、年齢がダブルスコア以上も違う。さすがにそれは離れすぎだろう?」


 だからその婚約はやめた方がいい、と俺は主張する。あわよくば俺が代わりに、との意も込めて。


「いや、よくあることですよ。しかも相手は王弟陛下、この国の英雄と婚約ですよ! それに貴族の家にとって王族との繋がりができることは願ってもない大チャンス。政略結婚万々歳ですよ」

「貴族こわっ!! 政略結婚とかこわっ!!」


 しかもアメリの家は、近年類を見ないほどの天災級の大不作により、領地経営が悪化して没落寸前と言われるほどの財政難に見舞われているらしい。


「まさか叔父上はアメリの家の事情を逆手にとって求婚したのか? アメリがノーとは言えないことを見越して」


 だとしたら、男の中の男が聞いて呆れる。途轍もなく卑怯な男だ。


「いや、財政難じゃなくても、王弟陛下から婚約を打診されたら、ほとんどの人はノーとは言えないと思いますよ」

「権力こわっ!! 王族とかこわっ!!」


 って、俺も王族に名を連ねる一人だった。残念ながら権力はほぼ皆無だけど。


「それなら一番重要なことは本人の意思だ。アメリはこの婚約をどう思ってるんだ?」

「さあ?」

「さあ? って、おい、調べる気あるのか?」

「だって、アメリ様がどう思っているか、だなんてアメリ様本人にしか分からないですよ。それとも今から直接聞いてきても良いんですか?」

「ダメだ、絶対にダメ!!」


 アメリと直接話そうだなんて100年早すぎる。


 たとえ緊急事態だとしても、あの可愛らしい声をカイルだけが堪能するなんて許せない。


 今すぐに超高性能の録音機を作るから、30分は待ってほしい。


「殿下こそ、人の心配をしている場合ではないのでは? 今月末ですよ」

「ああ、その話か」


 途端に俺は憂鬱になる。


 あの日、俺がクロを連れて王城に帰るやいなや「この傘の持ち主と結婚したい」と言い残し、力尽きて寝込んでしまった。


 その一週間後、病床に伏せる俺のもとに「婚約が決まった」という話が舞い込んできた。


「アメリと婚約だ! 今すぐ会いにいくぞ!!」


と、一気に全快し、ベッドの上で喜びの舞を踊った、……のも一瞬で、蓋を開けてみれば相手が違った。


 どうしたわけか、メアリという名前の女性との婚約が決まっていたのだ。


「どうして俺の婚約相手はアメリではなくメアリ女史なんだ……」

「だって、あの傘にはアメリ様のお名前ではなく、メアリ様のお名前が記されていたのですから、その傘を受け取った者が勘違いしても仕方がないじゃないですか」


 ピンク色の可愛らしいフリルの付いた傘。アメリの物ではないとは少しも疑わなかった。


 もう少し俺の身体が強ければ、きちんとアメリの容姿まで説明することができたのに。


 お陰で一週間で回復するところ、ショックのあまりもう一週間寝込んでしまった。


 




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