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彼女の全てが知りたくて

「時間がないって、彼女は不治の病でも患っているのか?」


 私室で俺は一人言ちる。


 あの美しく儚げな姿を思い出し、その可能性は十分にあり得ると、心がズキンと痛む。


「彼女とは、あの雨の日に出会ったあのご令嬢のことでしょうか? 殿下の恋人、でしたっけ?」

「ち、違う!! そんなんじゃないからなっ!!」

「おや失礼しました。見かけただけで出会ってもいないですものね。訂正します。あの雨の日に見かけたご令嬢のことでしょうか? 殿下のストーカー相手」

「ご丁寧に全てを言い直すな!! それにストーカーなんてしてないからな!! ……少し調べただけじゃないか」


 しかもその情報は全てコイツーー俺の側近のカイルが調べてきてくれる。


 名探偵にも引けを取らないほど、確実で有意義な情報を入手するその手腕は見事なほどだ。


 あの少女の名前はアメリ。子爵家のご令嬢で、良い噂も悪い噂も聞かない。良い意味で普通のご令嬢のようだ。


「カイルの情報には、不治の病に患っているなんて話はなかったよな?」

「はい。アメリ様は、健康優良児そのもの。あの雨の日も、傘を差さずに帰ったにも関わらず、風邪ひとつ引かない健康体の持ち主です。それに比べて……」

「ぶえっくしゅんっ!!」


 俺は風邪を引いた。傘を差していたにも関わらず、見事に高熱を出して寝込んでしまった。


 あの日から二週間、俺は毎日アメリに関する情報をカイルに提供してもらっている。


 ちなみにあの仔猫は王城の庭師にお願いをして世話をしてもらっている。クロと名付けた。


 黒猫だからなんて安直な理由ではない。そもそも黒猫ではなく白猫だし。


 それなのにどうしてクロと名付けたのかというと、それには深い深い理由がある。


 アメリが口付けをした何とも羨ましい額にある二つの丸っこい模様がホ()()のようだからだ。


 誰に何と言われようが、クロという名前しか思い浮かばなかった。


「それならどうして、ア、アメリには時間がないんだ?」

「そんな真っ赤な顔をして吃るくらいなら、無理してアメリと呼び捨てしなくてもいいんじゃないですか?」

「無理してなんかいないし! 風邪だ、風邪のせいだ!! ていうか、ちゃっかりお前までア、アメリって呼び捨てするんじゃない!!」


 アメリという神聖な名前が汚された気がしてならないからな。


 ジトリとした視線を俺に向けてきたカイルは、さらにため息まで吐いてくる。コイツ、本当に失礼なやつだな。


「アメリ様に時間がない理由なんて、そんなの簡単ですよ」

「簡単? だとすると、ご令嬢の時間がない理由ナンバーワンは、やはりあれか? 寝る間も惜しんで淑女教育を受けているからか?」

「おぉ! さすが殿下! ある意味惜しい!! でも、はっきり言って真逆です」

「いや、意味が分からないし」


 惜しいのに真逆って、わけが分からん。薄々感じてはいたけれど、俺は側近の人選をミスったか? 


 不可解なことを言っているというのに、そのことに気付いていないのか、今もカイルは「こんな簡単なことも分からないんですか?」という顔をしている。それが余計に腹立たしく感じる。


「おいっ、もったいぶってないで早く答えを言えよ」

「殿下、その前に私、欲しいものがあるのですが?」

「チッ、またかよ」


 はっきりとは口にしないが「情報やるから金をくれ」と無心してくる。こうして俺の金がむしり取られていく。


 もちろんこの金の出どころは税金ではない。俺自身が稼いだ純然たる俺の金だ。


 俺は妄想、もとい、想像するのが得意だ。こんなものがあったらいいな、を想像して実際に作る。もちろん全て自分で。


 俺が独自に開発したそれらの商品を渇望する有力貴族の顧客もいて、はっきり言ってかなり儲けている。


 商品の売買は全てカイルに任せ、売上の一部(?)もカイルに渡している。


 本当に一部かどうかは定かではないけれど、開発資金は潤沢に用意してくれるし、ある程度の我儘も叶えてくれるからあまり気にしてはいない。


 それよりも売買を通じて築き上げた繋がりこそが、カイル探偵事務所に有意義な情報をもたらし、俺に還元してくれているのだから、別途報酬を払いたいくらいだ。


 結局、来週までに新製品を開発することを約束して、カイルはようやく答えを教えてくれた。


「惜しいと言った理由は花嫁修行中だからです。しかしながら、アメリ様の家は淑女教育には重きを置いていらっしゃらないようなので、真逆なのです」

「ん? つまり?」

「アメリ様は結婚を控えていらっしゃるのです」

「ああ、なるほど、結婚か〜……って、け、け、け、結婚!?」

「はい。正確には婚約ですけど。ちなみにお相手は、殿下のよく知っておられるお方ですよ」

「俺の知っている人?」


 嫌な予感がした。子爵家のご令嬢の婚約相手といえば、同じ家格の同じ年頃の相手が有力候補だろう。


 そして、それに該当する者が目の前にいる。同い年の伯爵家の次男が。


 家格的には伯爵家の方が上だけど、子爵家的にはむしろ好都合に違いない。


「まさか、カイル、お前じゃないよな?」


 カイルだったら、◯◯一択だ。(自主規制)


「違います。私は殿下の忠臣としてこの身を捧げる覚悟でいますから。(こんなアホな金ヅルなかなかいないですし)」

「それは立派な志しだな。でもお前、心の中では違うこと言ってないか? いや、そんなことより相手は誰だ!?」

「王弟陛下です」

「なーんだ。叔父上か」

「はい。よく知っておられるお方でしたでしょ?」

「ああ、知ってる、知ってる……って、えぇぇぇぇっ!?」


 しれっと言われたことで俺も軽く受け流しそうになったけれど、そうはいかなかった。


「叔父上とアメリが婚約……」


 ショック死寸前だった。






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