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バカと天才は紙一重って、誰のこと?

 父上は観念したのか、全てを自供し始めた。


「だって、メアリにそう言われたら、誰も逆らえないだろう? 父上を暴徒から救ってくれた大恩もあるし」


 あの異名を持つメアリだぞ、と父上が小さく呟くと叔父上は一瞬にして黙った。


「カイル、あの異名とはなんのことだ?」


 カイルにこっそりと尋ねると、カイルは汚名返上とばかりに教えてくれた。


「戦乙女ですね。武術、剣術もさることながら、持ち前の察知能力を買われたメアリ様は、前国王陛下の侍女の一人として重宝されていたみたいですよ」


 正確には侍女を装った最直近の護衛。しかも叔父上よりも強いうえに、気配を察知する能力に長けているため、いち早く暴徒からの襲撃にも反応できたのだとか。


 叔父上より強いって、その時点で最強だし。


「だからって、兄さんは俺の気持ちを知っていましたよね? 俺がずっと昔からメアリのことが好きだって」

「ああ、マロの一方的な思いではなく、マロとメアリが昔から両思いだったことももちろん知っているさ」

「りょ、両思い!?」


 驚いた叔父上がメアリ女史に目を見やると、メアリ女史はあからさまに顔を背けた。


「何を驚いている。マロ以外の者の間では周知の事実だ。二人の婚約の話も出ていたし」

「こ、婚約?」


 再び叔父上がメアリ女史に目を見やると、メアリ女史は黒扇を広げてその影に隠れ始めた。


 ただその婚約の話も、身分差ゆえにメアリ女史が躊躇っていたのだとか。


「あの日、顔に傷を負ったメアリは侍女をやめると言い出してな。このまますぐに城を去ると言うもんだから、慌てた父上は『我の末子と結婚することを許可する』と殴り書きし、丁度近くにあった国璽を押してあの文書を作り無理矢理メアリに渡したんだよ」

「そんな話全く聞いてませんから。どうしてそんな重要なことを教えてくれなかったんですか!」

「話をする前にマロがメアリを追いかけて行ってしまったんだろう? 戻ってきたと思ったら『約束を交わしてきた』と言うもんだから、二人の気持ちを尊重して、父上も私もあの文書はなかったことにしようと黙っていたんだよ」


 ちなみに父上は叔父上との二人兄弟だ。故に叔父上は当時の国王陛下の末子。


 あの文書の末子は俺ではなく叔父上のことを指していたのだ。


 国璽は代々引き継がれるものだから、当時その場にいた者以外事の真相なんて気付きようがない。完全に騙された。


「そもそもメアリが40歳になったら迎えに行くという約束をマロがきちんと守っていたら良かったんだぞ。フライングしたから面倒なことになったんだからな」

「……それは、」

「やっべ、メアリがご立腹だ、って時にトーヤがアメリ嬢と婚約したいと言い出したんだ。バカとハサミは使いようって言うけど、まさにラッキーだったよ。同じ家門ならどうにでもなるからな」


 ハハハと笑っているけれど、どう考えてもひどい言われようだ。文句のひとつくらい言いたいところだけれど、とりあえず一番の疑問を投げかける。


「その言い方だと父上は俺の婚約したい相手がアメリだって分かっていたのですか?」

「ああ、傘に記された名前はメアリだったが、今はアメリ嬢が使っているとカイルから聞いていたからな」


 瞬間、俺はカイルを睨んだ。


「おい、カイル。お前は全て知っていたんだな」

「そりゃ、あの時私も殿下のそばにいましたから『殿下が婚約したいと仰っている方はアメリ様ですよ』と訂正するに決まっているじゃないですか」

「だったら俺にも教えてくれよ」

「国王陛下に口止めをされていたので無理ですね。それよりも、メアリ様、やはりこちらの文書はお返しします」


 裏切り者のカイルは、先ほど俺が渡したあの文書をメアリ女史に渡そうとした。いや、それは燃やすんだってば!!


 急いで奪い取ろうとしたけれど、それよりも早くその文書を取り上げたのは叔父上だった。


「メアリ、この文書は必要ないだろ? 俺はメアリとしか結婚する意思はない。それは昔も今もこれからだって変わらないよ。もちろん顔の傷なんて気にしない。むしろ俺にもお揃いの傷がここにあるのだから」


 叔父上はぴかりと輝く頭に申し訳なさそうに居座る二つの傷跡を指した。


 格好良いと思っていた男の勲章。しかし、もうそれはマロ眉にしか見えなかった。


「そのことなんだけど、実はもうお揃いではないの。だって……」


 ベールを外したメアリ女史を見て、一同みな騒然とした。アメリは涙まで流している。


「傷痕が、ない……」


 メアリ女史の顔にあった爛れた傷痕は、綺麗さっぱりと、とまではいかないけれど、とても薄くなっていたのだから。


「俺が猫カフェで見た時には、間違いなく顔半分が爛れていたよな? どうしてだ? ……はっ!? まさか!!」


 再びカイルを見ると、カイルは満足そうに頷いていた。


「殿下、新商品は凄いですよ。皮膚組織の再生を促すこの薬。効き目がありすぎます。しかも安全性は完璧。ただ市販品としては効果がありすぎるので、効果を抑えて化粧水として売り出せば世の淑女の皆様に大ヒット間違いなしですね。もちろんこれはこれで医療用として使えば、今まで不慮の事故で辛い思いをしてきたご令嬢方の人生をも変えることができますよ」


 殿下は天才ですね、と珍しくカイルが俺を褒めてくれる。


 メアリ女史が言っていたプレゼントの意味をようやく理解した。けれど、カイル、開発の原動力となったその人ーー完成品を届けたいと思っていた相手を治験者にするなよ。


 メアリ女史の傷痕は、このままこの薬を使い続ければ綺麗さっぱりとなくなるだろう。うん、マジで俺って天才かも。


 自分の開発した商品の凄さを実感し、メアリ女史の顔をマジマジと見てしまう。


 そのせいなのか、叔父上は慌てたように叫んだ。


「メアリ、すぐに婚約を、いや、今すぐ結婚しよう!!」


 叔父上がメアリ女史にプロポーズをした。


 焦る気持ちは理解できる。だって、メアリ女史の素顔はアメリによく似ていて、驚くほど美しかったのだから。


「でも、アメリの噂はどうするんだ? 叔父上との婚約解消が噂になってしまうぞ?」


 それだけはアメリのためにも避けたい。俺の頭脳を持ってしても、アメリと叔父上の婚約を応援するしかないと諦めざるを得なかった案件だ。


 それなのにカイルは軽く答える。


「そんなの簡単ですよ」

「簡単?」

「アメリ様の婚約は、王族の誰かと婚約するという噂です。誰か。それは王弟陛下に限ったことではないでしょう」

「ということは……」


 俺でもいい。


 それに気付いた瞬間、俺はアメリの方を見た。アメリと目が合った瞬間、アメリは顔を真っ赤にして笑っていて。


 つられてなのか、俺の顔まで赤く染まる。


 顔だけでなく全身が熱を帯びていることをようやく自覚した。暑い。異常に身体が熱る。途端に俺はその場に倒れ意識を失ってしまった。


 どうやら昨日雨に打たれたせいで風邪を引いたらしい。




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