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不穏な夜会

 セルジュは我が世の春を体感していた。

 先日の件がきっかけで、妻と想いが通じ合ったからだ。

 別にすれ違ったり、拗れていた訳ではない。お互い同じ気持ちであると確かめ合っただけだ。

 ただそれだけのことだが、気持ちが受け入れられたことが嬉しかった。


 しかし、セルジュはその経緯に不甲斐ないものを感じていた。

 彼がどう言ったらともたもたしているうちに、コレットから想いを告白されてしまったからだ。彼は妻の勢いに押されて告白した。

 不甲斐ない。まったくもって不甲斐ない。


 近いうちになんとしてでも仕切り直したいと、仕事の合間に考えていたのだが、なかなかいい案は浮かばなかった。

 そんな折にサミュエルから夜会への出席を打診されたのだ。しかも、イルマシェ辺境伯の主宰である。


「王都に来ているのか? 何故?」

「例の、移動用の魔方陣の試験運用、という建前だ」

「建前?」


 ロジェの開発した魔方陣は先に物の運搬に活用され、安全性が確認された今、人の移動に使われ始めている。

 これから世間に普及していけば世の中は大きく変わるだろう。

 その先駆けとなるのが、イルマシェ辺境伯のような国境防衛に携わる貴族たちだ。

 建前でもなんでもなく、試験運用は始まっている。


「イルマシェ辺境伯の常套手段だ。わざと領地を留守にして敵を釣るという……」

「動きのないアヴァールを釣るつもりですか? よくそんな危なっかしい作戦に乗りましたね」


 コレットが関わらないため実にまともなアルノーの意見に彼も頷く。

 わざと隙を作って敵を陣地まで誘い込むなんてリスクが高い。一歩間違えれば国全体を危険に晒しかねない行為だ。


「主力は領地に置いて来ているそうだ。まだ魔方陣が人の移動に使えるとは発表していないからな。それを利用して、王都で大々的に夜会を行うと喧伝し、領地が()()だと印象付けるつもりらしい。有事の際に本人は魔方陣で一瞬で帰れるからな」


 実戦経験のあるイルマシェ辺境伯らしい大胆不敵さである。

 戦乱が遠くなった今でも層の厚い部隊を抱える彼と最新の技術があればこそ成り立つ作戦だ。


 現在、魔方陣での移動は一度に五人までに限られている。

 少人数でも即座に長距離を移動できれば様々な戦術が生まれる。これからもっと大人数の移動が可能になれば戦場の様相はガラリと変わるだろう。


 出来ればコレットの家族が生み出した技術は生活を便利にするためだけに使われてほしいと思っているが、早速辺境伯に取り入れられたあたり、そうはいかないようだ。


「辺境伯本人は『流石に引っかからないだろう』と言ってはいたがな」

「何故です。軽率なアヴァールなら簡単に釣れそうですが」

「昔、まだあの国と敵対していた時に似たような手を使ったそうだ。領民に被害は出ないように普段使ってない砦に誘き出して、暴れさせてから完膚なきまでに叩きのめして敗走させた。

 俺のじい様の頃のことらしいが、停戦の折に砦を壊したという名目で賠償金もむしり取ったから懲りているに違いないと言っていたな」

「なんとまぁ、それはそれは……」


 辺境伯の武勇伝に饒舌なアルノーも言葉を失っている。

 そんなことがあれば覚えている者も多い気はするが、停戦は約四十年ほど前のことである。


「微妙ですねぇ。そのことを覚えている者があちらの王宮に残っていれば引っかからないと思いますが」


 アルノーも同じことを思ったらしい。しかし、今はそんなことはどうでもいいのだ。


「それで、何故私の夜会の出席に繋がるんだ」


 辺境伯が王都へ出て来た理由はわかったが、セルジュが夜会に出る理由はわからないままだ。

 どうしても険のある言い方になってしまうのは夜会が苦手なせいだ。


 彼の両親は夫婦として破綻していたが、夜会の際には仲が良く見えるように振る舞っていた。

 彼らは互いに関心はなかったが、自分たちがイヴェール家の人間であることを大変誇りに思っていたらしい。


 それを誇示するようにあの広い本館で盛んに夜会を開いていた。

 その夜会へはセルジュも有無も言わさず出席させられ、普段無関心な両親もその時ばかりは自慢の息子だと心にも無いことを言っていたものだ。

 貴族としては当たり前のことなのだろうが、彼はそんな嘘が耐え難かった。


 嫌な記憶が付き纏う夜会への苦手意識は拭えないし、今はコレットのことがある。

 アヴァールにつけ狙われているコレットを警備はあっても不特定多数が出入りする夜会などという危険が伴う場所に連れて行きたくはなかった。


「それについては、アヴァールのやり方を真似させて貰おうと思ってな」


 サミュエルがにやり、と悪い笑みを浮かべる。


「どういうことだ」

「何、単純なことだ。夜会嫌いのイヴェール公爵が新妻と出席したら誰もが注目するだろう? しかもふたりは相思相愛の様子となればあの彫像(スタチュー)が人間に戻ったと噂になることは間違いない」

「なるほど? ふたりの仲の良さをアピールしてアヴァールを牽制する作戦ですか? あの国はいつも『真実の愛』とやらを理由にしますからね。いささか迂遠ではありますが、時間が経てば経つほど効果が出そうです」

「そうだ。噂になれば、過去にあったことが裏づけをしてくれる。例えばあの派手な結婚式とか、夫人が夫と昼食を食べるために王宮に通っていたこととかな。

 あいつらは噂を利用するのが好きなようだから、俺たちも同じ手を使ってやろう」


 結婚生活が円満だと周囲に知らしめて、アヴァールにコレットを諦めさせる作戦のようだ。

 彼女はすでに人妻であるため、もし「真実の愛」と言ってもそれはもう不倫である。


 これで夫婦仲が険悪であったなら、またセルジュを悪者にして虐げられた貴婦人を救い出したとでも言って非難を回避できる。

 しかし、そんな言い訳が通じないほどのおしどり夫婦として知られていれば、アヴァールも躊躇するはずだ。


 そして、万が一コレットが呪われた時の保険になる。

 たとえアヴァールに解呪の実績があったとしても、条件は「愛する者の口づけ」だ。

 噂の力で愛する者としてまず挙がるのはセルジュになる。

 そう周囲に思わせるためのきっかけに夜会への参加は必須だ。


 ただ、それは本当に愛する者の口づけで呪いが解けるならの話だ。

 呪いはアヴァールと共に現れる。彼らの手の内に解呪の方法が握られているならどれほどふたりが愛し合っていても意味はない。結局、解呪のためにコレットを差し出すことになるだろう。

 セルジュは想像するだけでもゾッとした。


「まず、呪いにかけられないことが肝要だが、その後のことも想定しておくべきだ。

 イルマシェ辺境伯の夜会ならアヴァールの連中はまず近づかないだろう。だから安心してセルジュは奥方を連れて周囲に見せつけて来るといい」

「まぁ、仕方ありませんね。

 いいですか、あなたは絶対にコレットの傍を離れないように。夜会で声をかけてくるような軟派な男をコレットに近づけないでくださいね」

「それは偏見がすぎると思うが……」


 夜会の参加は納得したが、義理の兄の厳命には承服しかねた。別に夜会で女性に声をかける男性すべてが軟派ではない。

 サミュエルが胡乱な眼差しでアルノーを見ている。


「まさかと思うが、コレット夫人、夜会に出たことくらいはあるよな?」

「失礼な。十五の時にちゃんとデビューさせてますよ」

「流石にそれは当たり前か……」

「出席するのはうちの主宰する夜会だけですけど。ダンスの相手も私と父だけです」

「……それは実質出てないのと変わらないぞ……」


 脱力するサミュエルにセルジュは大いに同意したかったが、アルノーとプランタン伯爵の鉄壁の守りがあればこそ、今コレットが彼の妻になっていると思うと沈黙するしかなかった。


 それにしても、しばらく夜会を避けていてブランクのある彼と、身内の過保護で経験の少ない彼女で夜会に出席するのだ。

 前途多難だった。




 夜会の当日、コレットはシャンパンゴールドに銀糸で刺繍を施した、なんとも豪華なドレスを着ていた。

 以前注文したドレスはまだ仕上がっていないため、これも実家からの持ち込みだ。


 大変美しく、神々しさすら感じるが、早く彼が贈ったものを身につけて貰いたい。

 以前、注文したものは金を出しただけで彼はまったく関与していないから、今度は絶対参加しようと心に誓う。


 センスがないと罵られようと関係ない。

 世の恋人たちは自分の髪や瞳の色のドレスや装飾品を贈り合うそうなので、なんとしてでも菖蒲色だけはごり押ししたいところだ。


「緊張しているか?」

「ええ、少し」

「大丈夫だ。講師には太鼓判を押して貰えた。そ、それに私がついている」

「心強いです」


 会場を目の前にして表情が強張るコレットを励ますと、花が綻ぶような微笑みが返って来る。

 夜会に対して不安要素しかなかったふたりはこの日までに講師のレッスンを受けていた。


 所作やダンスに関してはまったく問題なしと保証して貰えたが、問題は社交である。

 愛想という言葉と対極にあるセルジュと箱入り娘のコレット。果たして他の貴族たちとまともな会話が成り立つのか。


 内心そう案じていたが、今日はあくまでもコレットとの睦まじさを見せつけるための参加である。

 他の誰かより、コレットが楽しめるように気を配ろうと開き直った。


 会場に入ってまずすべきことは主宰者への挨拶である。

 何かが投げつけられているのではないかと思うくらいの視線を感じながら、彼は妻を伴いイルマシェ辺境伯の前に立った。


 もうとっくに七十を越えたイルマシェ辺境伯は、それを感じさせない快活な紳士だ。

 白くなった髪を綺麗に撫でつけ、ピンと伸びた背筋に厚みのある胸板。がっちりとした肩のラインに古強者の威容を滲ませる。


 その彼の隣に立つのは辺境伯の妻で、やはり七十をすぎてなお凛として美しい老貴婦人だ。

 キュッと上がった眉に気の強さが現れているが、その眼差しは暖かみに満ちていた。


「ご無沙汰しております、イルマシェ辺境伯、辺境伯夫人」

「やぁ、珍しいお客人だ。久しいなセルジュ殿。相変わらずいい体格をしている。文官にしておくのがもったいないことだ」

「あなたったら、イヴェール公爵閣下にお会いするたびにそんなことを言って。閣下がお困りでしょう。

 主人が申し訳ございません。お隣の可愛い方を紹介してくださいます?」

「妻のコレットです。最近結婚いたしました」

「初めまして。コレット・イヴェールと申します。どうぞお見知りおきを」


 彼の紹介に合わせてコレットが一礼すると、辺境伯夫妻は目を丸くした。夫婦だからだろうか。まったく違う顔立ちなのにそっくりの表情だった。


「なんと。セルジュ殿を射止める女性が現れるとは」

「おめでとうございます。いつも辺鄙な田舎にいるもので、知らずに申し訳ございませんわ。なんて可愛らしい奥方様でしょう」


 ごく自然に驚いて、辺境伯夫妻は詳しい話を聞きたがった。コレットとなかなか終わらない質問に苦慮しながらも、周りの人々が耳を傾けているのを感じる。


 辺境伯夫妻がセルジュたちの結婚を知らないと言ったのは勿論嘘だ。

 辺境伯夫人は辺鄙な田舎と謙遜したが、今までの人脈から彼らの元には国で一番情報が集まると言っても過言ではない。


 多分サミュエルから話が通っているのだろう。社交下手なふたりに代わり、辺境伯夫妻が周囲に彼らの仲の良さを知らしめてくれるらしい。

 とても助かる上、夫人の突っ込んだ質問に照れるコレットが見られて眼福だった。


 十分注目を浴びたところで辺境伯夫妻からは解放された。

 もうすぐダンスが始まる、いいタイミングである。多分わかっていてやっているのだろう。

 主宰者である辺境伯夫妻は代理も出さずに一番手を務めたあとはそれぞれ踊りたい者たちがフロアに立つ。


「コレット、私と踊ってくれるか?」

「勿論です」


 練習の成果を見せる時が来たようだ。コレットをエスコートしてフロアに立つと相変わらず痛いほどの視線を感じる。

 しかし、コレットを目の前にすると不躾なほどのそれらも気にならない。


「……足を踏んでも許してくださいませ」

「大丈夫だ。あなたは軽いから痛くも痒くもない」

「そういう問題ではないと思うのですが……」


 そんな会話と同時に音楽が始まる。ゆったりとしたテンポの曲でホッとする。まだ緊張して固くなっているコレットには打ってつけだ。


 その後、ふたりは続けて二曲踊ったところでフロアから離れた。

 終始注目を浴び続けたが、一曲踊ったところでコレットの緊張は解け、笑顔で伸びやかに二曲目を終えたため仲の良さは十分アピールできたように思う。


 これ以上踊るのはコレットの体力的に厳しい。あとは飲み物を飲みながら会話でもして時間を潰そうか、と考えていた時だった。

 スルリとコレットの頭から髪飾りが抜け落ちた。

 彼が落ちる前に受け止めたから髪飾りは無事だが、髪型は完全に崩れてしまっている。


「ああ……。また崩れてしまいましたか」

「またということはよくあるのか?」

「はい。わたしの髪は細くて柔らかいので髪型が崩れやすくて……。侍女たちが工夫して一生懸命固めてくれているのですが」


 それでも崩れた原因はダンスのせいだろう。

 困り切ったコレットを連れて一旦会場を出る。髪を直さなければ人前には出られない。むしろもう帰って仕舞おうかと考えていると、彼らに気づいた侍女が近づいて来た。


「失礼します。何かお困り事でもごさいましたか?」

「妻の髪が崩れてしまってな。直しては貰えないか?」

「かしこまりました。ではお部屋へ移動しましょう」


 セルジュと同年代くらいの侍女は彼の頼みを受け入れ、「こちらへ」と言って先導する。

 それにセルジュはコレットと共について行く。


「……あの、セルジュ様」

「どうした。帰りたいならこのまま帰ろう」

「いえ、あの、わたし、ひとりで大丈夫ですから」

「アルノーに絶対ひとりにするなと言われている」

「……お兄様……」


 眉を下げて困っている妻を見て、どうやら彼がついて行くのは歓迎されていないと察する。

 察しはしたが、納得はしなかった。


「ひとりではなく、こちらの侍女の方が一緒ですわ」

「侍女が一緒なら私も一緒でいいと思うが」

「いえ、その、身支度を整えるところを男性に見られるのはちょっと……」

「では部屋に入らず扉の前で待っていよう」

「そ、そんな護衛のような真似をなさらないでください」

「あなたを一番に守るのは私だ」


 そう断言すると、コレットは赤くなりあわあわとしていた。その愛らしい姿にやはりもう帰ろうかと考える。

 辺境伯のおかげで彼らの話は広まるだろうし、ダンスもしっかり踊った。もう十分やるべきことはやったのだ。

 これ以上長居すると妻の愛らしさに横恋慕する男が現れるかもしれない。


「セルジュ様、あの、とても嬉しいです。でも少しの間のことですから! 支度を整える部屋も近いでしょうし」

「そ、その通りです。そこの角を曲がった先にある部屋ですから」

「ほら、すぐ近くですわ。髪を直したらこちらの方がセルジュ様の元まで連れて行ってくださいます」

「勿論です! 必ず奥様をお連れします」


 コレットだけではなく、侍女まで彼の説得に回る。

 セルジュは納得出来なかった。しかし、妻はそんな彼の態度に困っているらしい。


「……わかった」


 大いに不満があったが、そう答える。コレットはホッと胸を撫で下ろしていた。




 ぱたりと閉まる扉を確認してから彼は廊下の曲がり角から顔を出した。

 侍女は嘘を言ってはいなかったようだ。しかし、油断するつもりはない。

 コレットは僅かな時間だからと言ったが、僅かな時間があればなんでも出来る。


 それに、おかしいと思うのだ。

 何故、コレットの素顔も化粧をした顔も知っている彼が身支度をしているところを見てはいけないのか。

 今回なんて髪を結うだけである。なのに見るなとは絶対におかしい。


 邸ではイネスの鉄壁の守りがあるため身支度を整えるコレットを見ることは叶わない。しかし、ここなら可能だ。

 覗きは良くないことだが、ちょっと髪を結う妻の姿を垣間見るだけである。夫の彼には許されていいと思う。


 セルジュは足音を立てないようにそろりそろりと(くだん)の部屋へ近づく。実に間抜けな姿だが、どうせ誰もいないのだからと気にしない。

 ついに扉を前にした瞬間、ガタンッと大きな音が部屋の中からして、考える前に扉を開けていた。


「うまくいきましたわね。これでわたくしもアヴァールに行けますわ!」

「お嬢様、今度はあたしも連れてってくださいねぇ〜。辺境伯様って堅苦しくって!」

「あなたたち静かにして。誰かに見つかったらどうするの。さぁ、早くその娘を担いで。ジョルジュの元へ戻るわよ」

「はっ!」


 セルジュはそこにいるはずのない者を見て、呆然自失になった。

 亜麻色の髪に薄紅色の瞳。アヴァールにいるはずのベアトリスがオレリーと先程の侍女、そして騎士らしい格好と体格をした男に指示を出している。


 彼の記憶の中ではまだ初々しかった乙女が、きりきりと(まなじり)を釣り上げ険しい顔をしていた。

 ジョルジュというのは確かアヴァールの王太子の名である。かつて、夢見るように囁いていたその名を、彼女はまるで吐き捨てるように呼んでいた。


 呆然としながらも、ベアトリスに命じられた男が手を伸ばした先を見て血の気が引く。

 絨毯の上に(わだかま)るシャンパンゴールドの布を見て、躊躇いもなく床を蹴った。


 よく似た色に混じって広がる金髪は間違いなく彼の妻のものだ。

 男の手がコレットにかかる前に思いっきり男を蹴飛ばし、彼女を抱え上げる。ぴくりともしない妻を見て息を飲み、すぐに踵を返した。


「セルジュ!? 何故ここに!」

「ちょっと、どうして追い返さなかったの!」

「お、追い返しましたよぉ〜」


 背後で何やら言っているが、無視して走り出す。一刻も早く、邸に帰らなければならない。


「待ちなさい! その娘を返して!!」


 遠ざかるかつて親しかった人の声を聞き流し、彼はこれからの算段をつけた。

 誰にも見られないように馬車まで戻ったら待っているマルクに辺境伯への説明を任せ、邸に帰る。邸にいるシモンにはロジェを呼ぶように頼む必要があった。


 ベアトリスたちが逃げる彼を追って来る様子はない。しかし、騎士らしい男が復活すると追いつかれる可能性がある。

 彼は嗜み程度しか体を鍛えていない。本気を出されたらコレットを奪われてしまう。


 幸い追って来る者も、誰かと鉢合わせすることもなく邸を出られた。

 人目を憚るように走って戻った主人に驚くマルクに事情を簡単に説明し、彼は気絶しているコレットと馬車に乗り、慌しく出発する。

 しばらく外の様子を窺い、追手がいないことを確認して安堵した。


 そして、彼の腕の中でぐったりとしたコレットを見て胸が塞がるような苦しみを覚える。


「……守れなかった」


 セルジュの呟きはけたたましい馬車の車輪の音に紛れて消えた。

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