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今日から学校と仕事、始まります。②莞

キューピーチャリ

作者: 孤独

誰がどうしてそれを作って、誰がどうやって使う気になるのか。

制作者もそうであるが、そいつを未だに持っている奴もどうなんだろうか。

誰かにはそーいうもんがあっても良いとは思うけど。


「おぉ、これは懐かしいものが出てきました」


会社の倉庫に大事そうに保管されたままでいる。今まで一度も使った事などないし、これからも来る事はないであろう代物。倉庫の掃除をしてれば、出てくる出てくる懐かしいモノ恥ずかしいモノ。

一度も乗った事のない自転車だった。カバーもしているため、汚れは少ないがついつい拭いてしまうのは、現在の持ち主であるアッシ社長であった。

今日は会社の大掃除で部下2人と共に倉庫にも足を運んだ。

そんな社長を相手に容赦ない言葉を飛ばす、女性従業員の1人。


「一度も乗ってないなら捨ててください」

「えーっ、私の”魔道具”コレクションなんですよ。美癒ぴー。誰かに拾われたら危険です」


”魔道具”

不思議な力を宿した代物と思っていて構わない。製作者が意図的にやったものもあれば、偶発的に現れたものもある。この”魔道具”に共通する事は、制作者や所有者がその代物に対して注いだ強い感情がある事だ。


アッシ社長の趣味はそんな魔道具集めである。滅多に流れて来ない代物で、価値も人それぞれ。アッシ社長としては、価値は個人が決める事だと思っている。集めた魔道具のほとんどは、飾らない美術品としてここで大切に保管している。


「邪魔です。掃除は要らない物を捨てる機会でもあるんです」

「うーん、女性には収集癖の気持ちは分かってくれませんか?」


掃除や整理は大切なんだが、捨てるべきものと向き合うのがどうにも苦行だ。

そんなやりとりをしている間にもう一人の従業員、マジメちゃんは綺麗な布で自転車を拭いてあげていた。”魔道具”というのはホントに色んな性質があり、危険なのを知っているためアッシ社長の気持ちを汲み取っている。


「この自転車ってどんな”魔道具”なんですか?」

「ああ、それは確か…………」



◇        ◇


自転車セールで2000円で売られていた代物。

乗れれば安くていいやで買ってみた。

どこかの誰かが作った代物で、部品交換や補償なんてものはないが2000円なら十分だ。普通、5000円くらいだろう。


「思ったより良いじゃねぇか」


ピンクと白色の折り畳めないが小さい自転車。持ち運びできそうな軽さ。これだけでもお得な買い物だ。

少しは大切に使おうと思う。

いずれはそんな気持ちもなくなるんだろうが。


購入した男は昼間から自転車で出かける。特に気にも留めない事だが、自転車って歩道を走るべきか車道を走るべきか。人それぞれ、状況それぞれあるので何とも言えない。だが、確実に歩いていて思うのは


「タケくんはどんな映画見てるの?」

「そりゃあアユミちゃん、僕はハリウッド大好きだからねぇ」


歩道で横に並んで歩く奴等(特にカップル関係には妬ましく)。頼むから縦に並んで欲しいと言いたいものだが、それじゃあ会話がし辛いよねと思いやる気持ちも大切だ。


「ふん」


自転車でも、車でもだが、歩行者の安全を第一に考えるのが運転手というもの。仕方ないけれど、上手に避けてあげる自転車の男。いっそ、ベルでも鳴らしてやれば良かったと通過してから思う。

どうせ過ぎ去れば、忘れてしまうことなのだ。


「あ、あれ?」

「う、う~ん?」


男の乗っている自転車は並んで歩く者達に、何かの感情を送り込む。

2人のカップルはボーっとした表情となり、見つめ合う。


「タ、タケくん」


ヤ、ヤダ!今日のタケくん、めっちゃカッコいい!ポッチャリな体型のくせに顔がどことなくジャニーズ系に見えてくる!


「ア、アユミちゃん」


年下という理由だけで付き合ってたのに、アユミちゃんよく見たらめっちゃ可愛い。いつも見ているグラビアアイドルのような姿に見えるぞ!


「きょ、今日。タケくんの家、……行っても良い?」

「え、……アユミちゃんが、いいのなら……」


2人のカップルが幸福に結ばれるのであった。


◇       ◇



「という自転車だそうです」


魔道具:”キューピーチャリ”

能力:横に並んでいるグループを追い抜く事で、そのグループ内の親密性を高める能力。


「要らないですね。捨てましょう」

「どっ直球ですね、美癒ぴー」


以上、アッシ社長のお話であった。

そんな話を聞いて、まるで使用者にはメリットがなく、他者にも傍迷惑とも思える代物は処分するべきだとストレートな言葉を吐く美癒ぴー。

ホント、なんでこんなもんが生まれたんだと。真っ当なら思う。

そんな中、マジメちゃんは考える仕草をしていた。もしかして、欲しいのか?


「どうなさいました?マジメちゃん」

「アッシ社長。この”キューピーチャリ”、男同士にでもできるんですか?」


マジメちゃんは少し、腐った思考の持ち主だったか。


「中学生とか、高校生のグループの横を駆け抜けてあげたいです」

「あー、そーいう感情で使うのなら絶対に貸しませんよ」


いちお、それもできるらしい。



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