フルートの悲しみ
詩織の休日に続く物語です。
詩織は今日も朝のひと時を「カフェshion」で過ごしている。
昨夜は久しぶりに早めにベッドに入りぐっすりと眠った。だから今朝は自然と早くに目が覚めた。それでもやはり、いつもの通りそのまま散歩に出出てしまう。そして当たり前の様に此処に寄った。そうなのだ、私の朝はここから始まるから。
今、8時半になろうとしている。詩織がこんな時間に来るのは年に数回の事である。「カフェshion」では10時までモーニングサービスを提供してくれる。珈琲を注文すると、トーストと卵にサラダそれにスープまで付いてくる。まさに早起きのご褒美だ。
「珍しい~詩織さんがモーニング!」そう亜美ちゃんに揶揄われ(からかわれ)
「そうよ~、私だってやる時はやるのよ、、って、私何言ってんだろう?意味不明。」自分で言っておきながら、つい噴き出す。それに連られて、亜美ちゃんも一緒になって笑った。
「しっかり食べてお仕事頑張ってくださいね。」
「ありがとう。」
何気ないこんな会話にいつも癒されている。そう、この「カフェshion」は、詩織にとって、時にはダイニングルームになり、書斎にもなる。そして何よりも一番の憩いの場所でもあるのだ。
モーニングを食べ終え、お代わりの珈琲を飲んでいる時だった。平日の午前中には珍しく、ひとりの少女が入って来た。高校生であろうか?最初からずっと下を向いていて、、少し様子が変である。そのまま一番奥の壁側の席に座った。小さい横長の箱を持っている。フルートであろう。
亜美ちゃんがお水とお絞りを運んできた。その少女は小さな声でココアを頼んだ。亜美ちゃんもその子が気になったらしく、詩織の方を見て目で合図を送って来た。気を付けてね、っとでも言う様に。
暫く、と言ってもほんの10分位経ったであろうか。詩織はやはりどうしてもその少女が気になって仕方が無かった。それで思い切って声を掛けてみる事にした。
「こんにちは。それフルートでしょ?何か楽器が吹けるって羨ましいわ。」
急に声が聞こえたからか、とても驚いた様子で顔をあげた。それを見て、今度は詩織がはっとした。何故ならその少女は稀にみる美貌の持ち主だったからだ。だけど、入って来た時からずっと下を向いていたので、全くそれに気付かなかったのである。
見ると目が潤んでいる。
『こんな綺麗な子がどうして?』
詩織はより一層その少女に心を向けていったのである。
目がぱっちりしていてまつげも長く上を向いている。鼻筋が通りすっきりとした感じだ。そして唇もふっくらと愛らしい。まるで映画の中からお姫様が出てきたみたいだった。そんな美少女が、どうして目に涙を溜めているんだろう?
「何かあったの?もし嫌でなければ私に話してみない?」
詩織がそう言うと、、その美少女は、また下を向いて少し考えるようにしていたが、、何かを決心した様に、今度はしっかりとした表情で顔を上げた。