十時No.5ビル恋物語教室サイズ(5)
「じゃあ、俺の言うことに対して、松山君が行動したことは全部俺のせいにしたりするなよ」
「なんなの。言ってよ、おうちゃん。俺絶対誰かのせいにしたりしない。俺が全部判断してやることでしょ。結局さ。」
「じゃあちゃんと、俺の目を見て聞いてよね!」
あれ、何がどうしてこんなけんか腰な会話をしてるの?ただの相談に乗ったり乗られたりの場でしょ??意味分かんないや。
「どうかしたの松山君。」
ゆっくり顔を上げた松山君の目には、涙が限界までたまっている。あとほんの少しの刺激、例えば一度の瞬きでもきっとこぼれてしまうだろう。
「…。松山君。ごめん真剣に話しようとしていたのに俺…。」
「はあ…。違う。俺こそこんなさあ…。」
ため息を吐いて力を抜くように、間を空けて話す松山君。
「子どもだからいいんじゃないかな。」
「え?」
「その月葉さんがお父さんで、月葉さんの子どもが松山君ならそれ以上の理由も許可も必要ないと思う。つまり、月葉さんが今、どこに住んでいて松山君のことはどう思っているかとか知ることは何にも悪いことじゃないと思う。だから手伝えることがあれば、俺協力するよ。」
瞬間、俺は両方の肩を掴まれてお礼の言葉を言われた。
「俺、実はおうちゃんにお願いしようって考えてたんだ。けど、本当にいいの?」
「無理なものは無理だよ。もちろん。二人とも小学生だからさ。探偵みたいなのはできないけど。」
「それだよ。おうちゃん!」
「なにが?」
松山君の目に無数の星が光ってた。
おもむろに、ランドセルを開けると、一枚のレシート教科書の下から引っ張り出した。書かれた文面を俺が読みやすいように向けて見せる。
それは近くのコンビのレシートで発行されたのはおとといの深夜だ。にも拘らず、大量のお酒と雑誌、スナック菓子に弁当。一週間分はありそうだ。
「そこじゃなくて、裏を見て。」
「ああ…。」
言われて俺はレシートを裏返す。
そこには、11文字の数字の羅列が太い字で書かれていた。算数ノートの上のマスに書かれてあるお手本のようなきれいな字だった。そして、その数字の上には本宮と書かれている。
「だれなのこれ?」
「家庭教師で来ている先生の友達なんだって。探偵していて、何か力になってくれるよって、この番号を教えてくれたんだ。」
「探偵?ふーん…電話したの?」
探偵?あの名探偵ホームズとか金田一とかいう人たちのことだよね。フィクションでしかいないと思っていた。自分が探偵とかかわろうなんてちっとも思っていなかった。だて、浮気調査とか盗聴器とか、猫を探したりとか実際にはそんなことをやっている聞いたことあったし。
「ううん。まだ。でもおうちゃんに話してたら何だか決心できたよ。」
「そうなの?うん、いいけどね。ね、でもさ相談ってお金かかんないの?子どもだから無理かもしれないよ。」
俺は再びレシートに目をやった。
こんなに長いレシート初めて見るから、まじまじと物珍しく眺める。大人数でパーティーでもあったのだろうか?
あ、それなら納得。うんきっとそうだな。そうだろう。
「話すか話さないかは、俺自身で決めてって言われた。先生はかなり親しいわけでもない。けれど、いい人だよって、言ってた。電話番号まで書いてくれたってことは、相談くらいは聞く程度にはしてくれると思うわけで。…、甘いかな?」
言っていしまった後で、少しずつ自信を失いかけていく松山君。
「じゃあ、これからさ電話してみようよ松山君。」
俺は、黒い携帯電話をランドセルから出して、松山君に渡した。
ストラップにつけられた、ルアーの魚が揺れた。