表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

十時No.5ビル恋物語教室サイズ

ゆっくり更新していきます




白名木市立相条小学校(しろなぎしりつそうじょうしょうがっこう)6年4組…。

教室の廊下側から数えて2列目の1番後ろ。

俺、世良旺介(せら おうすけ)。そして隣の列の左斜め前の席。


坂西上総(さかにし かずさ)


俺の初恋。大好きな女の子。

同じクラスになって3か月。ますます好きになったって思う。

身長157センチで、やや高い背はスタイルをよく見せ、上総ちゃんを可愛く見せている要素の一つだ。


ノースリーブから見える肩は華奢で守ってあげたくなる。


…って俺、そんな変な目で見てないぜ?ただ、こう純粋に上総ちゃんを…。誰に向かって言い訳しているんだろう。はあ…疲れた。


今はあまり好きじゃない社会の時間。上総ちゃんは、ちゃんと真っ直ぐ先生の方を向いて話を聞いている。


偉いなあ。俺なんか見ろよ。ノートに書き写すのあきたから、教科書に載せてある初代首相の写真に丸いサングラスを掛けて遊んでる。


『あ、消しゴム落ちた』


ノートを書いている振りをしながら上総ちゃんの席を見ている俺。上総ちゃんが消しゴムを拾った。

その時振り向いた拍子に、一瞬だけ上総ちゃんと目が合ってしまい、慌てた。


上総ちゃんは特に気にせず席に座り直した。

心臓のドキドキが教室中に聞こえてやしないか焦りが募りますますドキドキは治まらない。

そうこうしているうちに、チャイムが鳴り、授業は終わった。


ガタガタ音を立てながら日直の号令で先生に礼をして休み時間に変わった。にわかに賑やかになっていく。

上総ちゃんの席の周りに2人の女子が集まり、笑いながらおしゃべりを始める。


「おうちゃーん、サッカーしようぜー!」


「先行ってていいよ。今行くから!」


隣の席の友達が両手でサッカーボールを持ち上げ、合図をくれる。俺が返事をすると他の3、4人の男子と走りながら廊下に出て行った。


上総ちゃんともこうして遊べたらいいのに、一緒遊べるのって体育の時位だからなあ。

なんてよく思ったりする。スポーツ好きかなあ。特にサッカー。

次の授業の教科書を出して、俺は運動場まで走った。


え、あ。廊下走ったことは内緒ね。


次の授業は国語だ。先生の指示で班ごとに机を合わせることになる。俺、これ大嫌い。全然上総ちゃんの姿が見えなくなるから。

先生の用意した教材を取りに行く時に、少し顔を見ることが出来たが、それっきりだ。

ダメだ。全然作業に身が入らない。


上総ちゃん…。


上総ちゃん…。


頭の中に上総ちゃんの名前が無数に浮かぶ。


『物語の登場人物を書き出しなさい』


教科書の文は『ぼく』の一人称で語られている。

問題文を読みながら俺は、時折脳内に現れる上総の2文字に困惑する。

もうダメだ。むり、我慢できない。

俺は自分が末期だたと悟った。

どうしよう…。今日で決めてしまおうか。

放課後までに勇気を振るい出せるか。

授業とは全く違うことに頭を使い、余程難しい問いに出くわしたようなそんな顔をしてプリントを見つめていた。


「おうちゃん、あのさ、俺のプリント見せてやっからその顔やめろよ。怖いよ。」


「え、あ…ごめん。」


前の席で俺の様子を見ていた友達が、見かねてそう小声で言ってきた。

きっと国語が苦手なのかなと思われたのだろう。

別にいいけど。


授業の終わった後に俺は音楽の教科書とリコーダーを準備した。

音楽室に向かう上総ちゃんを目で追いながら後に続く。

ああ、上総ちゃんがよく見える。

後ろ姿だって構わない。

国語の時間は耐えられなかった。それでも俺は、10メートル位距離を置きさらに半歩遅く歩く。

最初の休み時間に一緒だった女子と笑いながら。可愛いな。いつもそう思う。


「うわーかっこいい!泰知郎(たいしろう)さんだっけ?こんな人と一緒に住んでいたなんて羨ましいな。」


「うん。でしょー、すごく優しいよ。今は料理の勉強してるから、私も教えてもらうの。学校で習ったことの復習になるからって。それに教えるのも料理もとっても上手だよ」


「私も習いたーい!ねえ、今度の休みいいよね?習いに行っても!」


「え、えー…。んーいいけど…泰ちゃんは私のものだから好きになっちゃダメだよ」


女子が持っていた写真を取り戻すように返してもらいながら、上総ちゃんは渋々何かを了承した。

しかし、さほど困っている風でもない内心見せてあげたい。自慢したいそんな感じ。

きゃーきゃーいいながら高い声が廊下に響く。

何、何の話をしているんだ。


かっこいい

優しい

料理を教わっている


さっきの会話から聞き間違いだと思いたい言葉が次々に浮かぶ。



――私のものだから…



最後の言葉が俺の中で反芻する。


それは«好きな人»という言葉に自然と答えとして繋がり変換される。


一緒に住んでいたとも言っていた。けど家族じゃない別の存在であるかのように聞こえる。

一体どんな奴だ。


俺は早足になり距離を詰める。そして、上総ちゃんを追い越し間際にさっと、手に持っている写真を見定めた。

ポラロイドカメラに不意を突かれたのだろう。少しキョトンとした表情の大人の男が写った写真が見えた。

やや長めの髪にすっと通った鼻筋整った眉に黒目勝ちの瞳。尖った顎に細い首筋。どこをとっても申し分のない端正な顔立ちに男の俺でも魅入ってしまいそうになった。


いけない。ぱっと確認するだけなんだから。普通のやつなら間抜けなその表情も綺麗な顔の人間は変わらず綺麗と呼べるんだ。


それで、こいつは上総ちゃんとどんな関係なのか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ