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第7話 異世界転移者の悩み

今更ですが、ブクマ&評価ありがとうございます。今後もよろしくお願いします。

 この世界に落ちて1週間が過ぎた頃、考えないようにしていたあの問題に直面する。

 1週間も過ぎると、常に衝撃の連続なこの生活に慣れてきて心にも余裕が出てくる。穏やかな午後、食後の一杯を飲みながらダラダラとワイドショーを観ていた。

 芸能人の熱愛報道に、グルメ情報、節約術等々。その間に挟んで流れる全国ニュースにここに来てから、ずっと気にしていた話題が流れ、亘はテレビを凝視する。


『では、今だ何も手がかりはないと言うことでしょうか?』


記者がマイクを差し出す相手は・・・亘の両親だった。最後に見たときよりずっとやつれている。


『悩んでいるようにも見えなかったんです。田舎に行くことも楽しみにしているようで・・・なんで、こんな、いきなり』

そう言うと母は泣き出して、その場に座り込んでいた。 

『突然、本当に突然いなくなってしまって・・・お願いします!どんな事でも構いません。息子の情報をよろしくお願いします』

 そう言いながら、父は深々と頭を下げている。


父さん、母さん・・・

突然いなくなれば、そりゃ困惑するよな


 見ていられなくて、亘はテレビの電源を消した。


「カアサマ、ドウシタノ?オナカ、イタイ??」

 俺の様子に、何か察したのかシュウは心配そうだ。俺はもう一度テレビをつけて、視聴者に情報提供を呼び掛ける両親を指して説明する。


「あのな、この人たち俺の両親なんだ。俺が、突然こっちに来てしまったから・・・俺、向こうで行方不明扱いになってるみたいなんだ」

「カアサマノ・・・モドリタイ?」


 シュウは焦った。テレビに映る人たちも亘もとても辛そうだ。亘はこの人たちを心配している。それはつまり、この世界より元に戻りたいという気持ちが強くなっているのではないか。

 シュウよりも、両親をとるのではないか。所詮自分は本当の家族ではない。本当の家族と一緒にいたいのではないか・・・


「戻るか・・・それは考えてなかったや。母さん達は俺が急に消えて心配してるから、『俺は元気でやってる』って事をどうにか伝えたいなとはずっと思ってたんだけど」

「ホント?カアサマ、イル?ズットイル?」

「当たり前だろ。でもまぁ、こうやって実際に親が辛そうにしてるのを見るのは結構きついな・・・俺はこんなに元気にやってるってのにさ」


 シュウを撫でながら、テレビを見ているとニュースは失踪時の俺の足跡を辿りだした。

 そして、次に映し出された画面を観て亘は飲んでいたお茶を噴き出す。画面の向こうに、今二人が住んでいる家が映し出されたからだ。


「え?え?なんで家は残ってるんだ??俺だけ来た?え?でも、今住んでる家は・・・え?」

「オチツイテ」

「え?幻覚?俺、なんかやっちゃった?幻覚作用の葉っぱ食べた?あ!やっぱ、森の野菜やばいやつだったのかも!シュウ!今すぐ吐くんだ!」

「オチツイテ。コレガゲンジツ」

「ノォォォォォォォォ!!!」


どういうことだ!?今、俺はばぁちゃん家に住んでいる。

テレビに映っているのは・・・?

OK、そっちもばぁちゃん家だ。

・・・は?


OK。分かった。つまりこれは

異世界転移による、何かの副作用なんだな。

うん。

難しいことは考えないでおこう。人生、曖昧な事も必要だ。


 無理矢理己を納得させた亘は、日課の体力作りも兼ねた森探索に出掛ける準備に取り掛かった。

 日々探索を続けたおかげで、易々というレベルまではまだ行かないが、だいぶ休憩を挟まずに動けるようになった。毎日の畑作業も体力作りに役立っているのだろう。


 準備をしながら、ふと亘は思った。あの、よくある並行世界での連絡手段を。最初に自分のスマホが圏外表示になっているのを見て試すこともなかったが、同じ媒体を通してならもしかすると・・・

 


 玄関に置いてある電話から、同じ電話番号にかけてみる。これ以外に方法が思い付かない。受話器を握りしめて、天に祈る。


頼む!頼む!!繋がってくれ!!


トゥルルトゥルルトゥルルトゥルル・・・


 それは、まさしく亘の読み通り元の世界に繋がった。


『もしもし?』


 懐かしい声が聞こえる。しかしそれはもう聞くことのないはずの声だった。


「・・・ばぁちゃん?」

『亘け?どげんしたんね?』

「え?本当にばぁちゃん!?なんで!??」

『何がね?なにかあったんか??』

『いや、何ってばぁちゃん・・・ばぁちゃんもう・・・』


死んだじゃん。


 その一言が出てこなかった。呆然とその場に立ち尽くす亘を心配して、シュウが小声で「カアサマ?」と話しかけるが、返答出来る余裕が今の亘にはない。


え?俺、死者と話してる?

この電話あの世に繋がってたのか・・・

おいおいおい、異世界召喚にあの世との交信って、設定盛り込みすぎだろ。後々収拾つかなくなるぞ。


 ずれてる突っ込みをする程、パニックになっている亘に対して電話越しの祖母は益々困惑する。それもそうだろう。この間無言なのだから。


『亘?どげんしたんね?こないだ会ったばかりだがね』

「この間?」

『え?ひろしの結婚式で会ったがぁ。もう忘れたんね?ばぁちゃん寂しいが』

「は?いや、だってひろし兄の結婚式って・・・」 


もう、3年前の話じゃん。


 とは、またもや言えずに黙りこむ。


これはどういう事だ?

結婚式って、もう昔の話なのに・・・あの世じゃない? 

という事は、電話しているばぁちゃんは・・・



「過去と繋がっている?」

『なんて?』

「ばぁちゃん!!分かった!過去なんだよ!!」

『急にどうした?』

「あっ!だからか!だからあんなに都合いい本が揃ってたんだ!ばぁちゃんありがとう!すげぇ助かってる!!」

『本当にどうした?』

「ダメだ!!過去じゃ母さんたちと連絡出来ない!」

『分からんけど、母ちゃんたちと連絡出来んってことけ?ばぁちゃんがしといてやるが』

「やった!あの、俺今異世界に飛んでて森の中で息子と元気に暮らしてるから心配しないでって伝えて!!」

『は?いつ結婚したとね??」

「してない!」

『は?』

「だから!俺今異世界にいるの!」

『・・・は?』


 亡くなった祖母と再び話せる興奮。家の相続や本棚の謎が解決した事への興奮。興奮高まりすぎて、困惑する祖母を置き去りにしてここに至るまでの経緯を全て話す。そう、全て。

 祖母の幸恵は、『うんうん』と孫の話を聞きながらも9割は理解出来ていなかった。しかし、自分は3年後に死ぬという事だけは理解した。

 

 「それでね!俺母親になったんだよ!!」


やっぱりうちの孫は頭がおかしいようだ


 『両親に無事を伝える』という当初の目的は完全に忘れ去られ、祖母に『異世界召喚』という非現実的な展開を理解させる事に亘は全力を注ぐのだった。

常々思っていた『突然異世界に行ってしまった者の家族はどうなるのか?』問題です。親視点で考えると、子供が急に消えたら夜も眠れない日々だと思います。今後どうしよう・・・

ちなみに、おばぁちゃんの方言は鹿児島弁ベースです。ゴリゴリの鹿児島弁だと何言っているのか分からなくなるので、崩して書いています。

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