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第3話 人外との出会い。そして青年は母になる

サワサワサワ


身体中を戸惑い気味に何かにつつかれている感覚で、落ちていた意識が浮上してくる。


…だれ?

何?なんだ??


1ヵ所ずつ触られていたのが、俺に起きる気配がないと分かるとサワサワと、同時に何ヵ所もつつかれる。

ちょっとくすぐったい感覚により意識がはっきりしてくる。



ツン…ツンツン


服の上からつついていた何かは、ついにシャツの中に侵入してきた


ツンツンツンツン

サワサワサワ…サワサワサワ


あっ!

ちょっ、ちょっと!ちょっと!!


「そこはダメだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「ッ!?!?」


際どい部分を触られ始め、慌てて飛び起きる。眼前にあったものは太いもので大人の腕位、細い物は指位の無数の触手であった。


人間、驚きすぎると案外声は出ないものなんだなぁ。と、衝撃を突き抜けて逆に冷静な状態で触手と向き合う。


眼前にあるのは、どうやら体の一部のようで本体は家の生け垣の向こう側にあるようだ。


起きた俺とどう接すればよいのか分からないのか、クネクネウネウネ眼前で揺れる触手。一番太い触手の先が縦に割れ、内部にびっしり生えた牙が見える。


あー、こりゃ完全に俺死んだわ。無理でしょ。こいつから逃げられる確率何%?0でしょ?他の触手も口開き出したじゃん。なんか口から粘液たれてるし。何あれ?よだれ?よだれ垂らすほど腹減ってんの?


ここまで来ると達観して、触手に話しかけられる程の余裕すら出てきた。


「…あー…その、俺を…食べるのか??」


「・・・・・・」


「食べるなら、一思いに一気にやってくれ。頼む!ジワジワ死ぬのだけは勘弁して欲しい!」


「・・・・・」


無反応かよ。つらい!このいつ殺られるか分からない緊張がつらい!


「あの…最初に言っておきますが、俺本当に美味しくないからね。脂身だらけだし、癖毛すごいから歯につまると思うし。あと、最近ファーストフードばかりだったから胃もたれする仕上がりになっているとおも「…ゥノ?」え?何?」


「…ボクヲ…オソウ?」


生け垣の向こうから小さい声でそう聞かれる。どうやら意志疎通が可能のようだ。これは生存確率が少しは上がるかもしれない!チャンスだ!


「襲わない襲わない!!すぐにでも、いや…ちょっとここがどこか分からないから多少準備時間もらうけど、出来るだけ早く森から出ていくから!何もしない!約束する!!」


必死に無害無力アピールをする亘。自分は突然この森に落とされ、右も左も分からない非力なインドア草食系男子で、頭もそこまで良くなく成績は常に平均。モテたこともない年齢=彼女いない歴の非リアであると。関係ないマイナスな事まで、それはもう熱く語る。


「ボッチ?ドーティ?ワカラナイケド、ダイジョウブ。ゲンキ…ダシテ」


「ありがとな。俺でもいつか結婚できるかな」


「アキラメタラ、ソコデジンセイ…シュウリョウダヨ」


 切なすぎる俺の人生に、触手も同情して励ましてくれるまでには好感を得ることができた。

 ここで一気に本題だ!


「それで、その…俺を見逃してもらえないか?」


「…イイヨ。オハナシデキテ…タノシカッタ。マタ…キテモ、イイ?」


 嫌です。とはイエスマンの日本人として言えるわけもなく。


「いいよ。いつでも来て」


 しか、言えないよな。

 でも、最初に比べて恐怖心はだいぶなくなってきた。今もまた来れる事を喜んでいるのかクネクネのスピードがあがっている。


 それをみて、

 犬の尻尾みたいで可愛いなって思う俺、結構疲れてるのかもな。


 揺れる触手を撫でたのは、完全に無意識だった。ただ、なんとなく実家で飼ってたゴン(柴犬)の散歩行く前の喜びに似ていて、本当につい触ってしまったのだ。


ナデナデナデ


「!?!?」


 ヌルヌルして気持ち悪いのかと思っていたが、意外と乾燥している。少しひんやりしているが、弾力があり、さわり心地がいい。ビーズクッションみたいだ。

触られる思っていなかったのか、触手は完全に固まっている。それを良いことに


ムニムニムニムニ


 無心でもみだす亘。

 顔は真顔だ。


あれ?そういや、最初こいつが触った木腐ってなかったか?


 しかし、亘の手に異状は見られない。

 不思議に思っていると


「キモチ…ワルクナイノ?」


 緊張が溶けたらしい触手から話しかけられた。


「まぁ、最初はちょっと(失神するレベル)びっくりしたけど、今は大丈夫。だって、お前俺を襲わないんだろ?それに俺、爬虫類は平気なほう。蛇くらいなら触れる。動物は好きなんだ。ほら…ずっと俺の話しきいてくれるしさ」


 コミュ障の俺は、友達が極端に少ないので、悩みや愚痴はいつもゴンに聞いてもらっていたのだ。別にいいじゃないか。ゴンはいつだって、優しい眼差しで俺を慰めてくれる唯一無二の友なんだから!別に、別に寂しくないし!


「ウッ…ウゥ…ウゥゥゥ」


 ボッチだけど、ガチな感じじゃないという言い訳を脳内でしていると、突然触手が呻きだした。


「え?何!?どうした??え?触られるの嫌だった??ごめん。ごめんな。ほら、触るの止めるから」


止めるから殺すのはやめてくれよ!

その想いで必死に謝る。


「チ、チガウノ…ウレシイ。ウレシクテ…ナイタ。ボクハジメテダレカニ、フレテモラッタ。アタタカイ。ヒトッテアタタカイ」


「…」


「ズット、ズットヒトリダッタ。ミンナ、ハナシカケタラニゲル。ボクコウゲキシテクル。ヒトリ…サビシイ」


 そう言いながら触手を伸ばして俺に巻き付いてきた。

 このまま絞め殺されるのかもなんて思わない。

 もう、全くこいつを怖いなんて思わない。

 いつから、ここにいるのか分からないけどこいつも一人ぼっちなんだな。


「一緒に、いるか?」


 一人の悲しさは分かるから。誘ったのは同情だったのかもしれない。


 あと、得体のしれない異世界の森に一人でいるよりはという少しの打算。


「イイノ?イッショニ??イイノ?」


「あぁ、いいよ。これからよろしくな。俺、この世界よく分からないから頼むな」


「ズット?ズットイッショ?」


「一緒だ」


 思わず誘ってしまったが、これはこれで頼もしい仲間が出来たと思えばいいか。

 この世界の住人なら、色々知っているわけだし。ここで生きていくにも帰るにしても知識がない事には始まらないよな。見切り発車で仲間に誘ったけど良案だわ。

 なんかこいつ強そうだし。


「ズットイッショ?カゾク?コレガカゾク?」


 家族?仲間とかじゃなく?

 『同じ釜の飯を食う』仲的なくくりか?


「まぁ、そうだな。家族…ともいうか。そうだ、今さらだけど俺は真下亘な」


「カゾク…カゾク…フフ。ウレシイウレシイ」


「お前名前は?なんて呼べばいいんだ?」


「カゾク…ボクノカゾク」


「おーい…聞いてないな。まぁ、いいか。俺の事は好きに呼んでく「カアサマ!!」んん~??」


「カアサマ!カアサマ!!」


んん~~~??

カアサマ?かぁさま・・・母様!??

え?母様って俺!?

性別すら違う!?彼女もできたことないのにいきなりこんなでかい子供なんて!無職だし養える甲斐性が俺にはないぞ。あっ、悲しくなってきた・・・


「いやいやいや!違う違う!!「カアサマ!カアサマ!!」さっきの家族っていうのは、その、家族という名の仲間って意味かとおも「カアサマ!カアサマ!!」それに俺男だから母親にはなれな「カアサマ!!ダイスキ!!」・・・おぉ、女の子の前に人外に言われるとは」


「カアサマ!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!????」


 興奮が最高値に達したのか、ついに本体が生垣を越えて現れた。

 そのビジュアルがすごい。軽く2mはあるでかさの緑色球体から無数の触手が生えその様はイソギンチャクの様。蠢く触手の奥には巨大な翡翠色した一つ目が忙しなく眼球を動かしている。

 硬直する亘をそのままに、巻きつく触手を縮め本体にくっつける。抱き込まれ身動きが取れない亘。


「カアサマ!!カアサマ!!」

「ちょっ、ちょっと!く、苦しい苦しい!!」


 巻き込む触手の力が強く苦しくなり逃れようと抵抗すると、離さないとばかりにより巻きつく触手。

 さらに口を開いた触手の舌で顔中を舐められる。


「ちょっ!うぷっ・・・ちょちょっと!!やめっやめなさい!!」

「ゴメンナサイ」


 シュンと項垂れる様子にやっぱりゴンと重ね、可愛いく見える。

 短時間で絆された亘は抱き込まれたまま、触手の目をみて決意する。


「改めて、これからよろしくな。俺たちは今から『家族』だ」

「ッ!!カアサマ!カアサマ!!!」

「ちょっ!ちょっと!うぷっ・・・だから舐めるのはやめなさーい!!!!!!!」


 暗い森に俺の叫びがむなしく響き渡る。


 拝啓、

 母さん、突然だけど俺息子が出来たよ。

 いや、結婚はしていないし予定もない。でも、息子が出来たんだ。なぜか俺が母親ポジションなんだけどね。

 ちょっと怖い見た目だけど、中身は素直で可愛いいい子だよ。

 ちょっと暴走するところあるけど。そんな所も俺に似てるだろ。

 え?何を言っているか分からないって?

 俺も分からない。誰か説明してくれ。


やっと出てきた息子君。

全体像のモデルは『ドフラインイソギンチャク』

触手の部分のモデルは『ヌタウナギ』です。

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