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遠出

 ひと眠りの後に、2人は洞窟の探検を行った。


 次の目標は言うまでもなく食料の確保である。


 最も良い方法は罠を仕掛けることであるが、そのために必要なものが無い。


 仕方がないので昨日と同様に水辺に行き、水を飲んで目を覚ます。


 光のない環境のせいか、目覚めが悪いのである。


「まぁとりあえず水分は確保できてるわけで、食料が無くても一週間やそこらで死にはしないわ」


 エリフィーレは水を手ですくいながら言う。


「そうだな」


 アッシュは自分自身の経験をもとに同意した。


「足跡をたどる作戦で今日も行くわよ」


 2人はそう言って、水辺にある大きすぎず、小さすぎない足跡を決めるとその足跡をたどる。


 二人はこの時、長く見積もっても数日で食料ぐらい得られるだろうと考えていた。




 しかし、そんなに甘い物ではなかった。


 おなかをすかしながら、歩き続けるが、一向に食料は見つからない。


 足跡のついた砂が延々と続いているだけである。


 また空腹により睡眠の質が低下の一途をたどっている。


 問題は水を確保している場所が一か所しかないことである。


 そのため水場から大きく離れての遠出は不可能である。


 2人の性格上、追い詰められるまで、遠出するというある種のギャンブルを避けていた。


 そうなると足跡をたどり続けることは難しい。


「ねぇ、ちょっと休憩しましょう」


 エリフィーレは濃い隈の顔で胸を押さえながら言った。


「ああ、分かった」


 アッシュはそのさまを見て答える。


 二人は座り込み、足を休める。


「ごめんなさい。少し横にならせて」


 エリフィーレはそう言って頭をアッシュの膝に置き横になる。


 男女である事を意識できるほど彼女の精神が強壮ではなくなってしまっていたのであろう。


「ああ、分かった」


 エリフィーレはそのまましばし目をつむる。


 アッシュは魔法の光のない状況で彼女の身の安全のため舌打ちし帰ってくる音の形状によって周囲を警戒しながら、エリフィーレの頭を撫でる。


 銀色の髪に指を入れるとさらさらと流れていく。


 眠っている彼女は、普段の少しはねっかえりの強いところが落ち、まさしくお姫様であった。


 彼女を守りたいと思ってしまうのは彼女が美しいからなのだろうか。


 そうだとしたら、自分は人を見た目で判断していることになる。


 アッシュは自己嫌悪を起こした。


 寝息を立て、ある程度急速を取った少女は眠りから覚めると、光の玉を生み出した。


「どうしたの?すごい顔をしてるわよ」


 エリフィーレはアッシュの顔をしたから覗きながら言う。


「いや、別に気にするな」


 アッシュがそう言って立ち上がると、エリフィーレは膝から頭を滑り落とす。


「ちょっと、もう少し私に優しくても罰はあたらないわよ!。はぁもう」


 そう言いながら、頭の砂を払った。


「すまんすまん」


 アッシュは笑ってごまかす。


 エリフィーレは少し間を置き、口を開く。


「ねぇ、いつもならここらで引き返すけれど。いっそのことどんどん進んでいってはどうかしら」


 エリフィーレは少しばかり晴れやかな顔でそういう。


 仮眠を取ったことで、体調が少しばかりは回復したのかもしれない。


「それだと水すら確保できないじゃないか」


「もしかしたらこの先にも水辺があるかもしれないわ。ここの生き物だって水なしじゃ生きられない。その生き物がこうして戻ることなく歩いているのであれば、先に水辺があると考えるのは自然じゃないかしら」


「……それはあまりに希望的な考え方じゃないか?」


「他に方法が思いつかないの。もしこのまま同様のことを繰り返してもじり貧じゃない。ならこれ以上悪くならないうちに賭けをするほうがいいわ」


「だが……」


「もし、生死を彷徨うような状況になれば私を食べてもいいわ」


 エリフィーレはさらっと口にする。


「何を言ってるんだよ」


 アッシュは驚いた。

 

「決断する人間に責任が付きまとう。父の言葉よ。あなたは私の決断によって影響を受ける以上、それぐらいの覚悟はあるわ」


「……だとしても俺はお前を食いやしないと思う。だけど、そうだな。そっちのほうがいいかもしれない」


 アッシュはそのエリフィーレの熱に負け承諾し、足跡をたどることを再開する。


「なぁ……俺がそんなことできると思って言ったのか?」


「さぁ、なってみないと分からないでしょう。貧すれば鈍する。まあ、貴方が肉体を凌駕する精神性を持っているのであれば食べないんじゃないかしら」




 2人が足跡をたどっていくと強烈なのどの渇きを感じるほど時間が過ぎたとき、エリフィーレの読み通り池があった。


「やったわ!」


 エリフィーレはガッツポーズをする。


 だがそれだけではない。


「これは。……糞だ!」


 アッシュは水辺のすぐ傍にあった手のひらサイズの黒い物体を拾い上げて言う。


「しかも、まだ暖かい!」


「ということはまだ近くに!」


「ああ!」


 足跡の近くに糞が落ちていることから、この糞の主と足跡の主は一致するかもしれない。


 そう考察しながら、足跡をゆっくりたどる。


 しかし足跡は突如途切れる。


「なんで?」


 アッシュがそう言ってしゃがんだときのことである。


 目の前の砂が突如隆起し、その中から何かが飛び出してくる。


「危ない!」


 エリフィーレの声が聞こえたと思えば、アッシュは弾き飛ばされた。


 その際目に写ったのは腕を何かに引っかかれ、腕に切創を作りながらも自分を救った彼女の姿である。


「この!」


 エリフィーレは気丈にもその生き物を殴り飛ばし、難を逃れる。


 大きさは抱きかかえる大きさである。


 アッシュがとっさに石を投げるもひょろりと飛びよけられてしまう。


「チッ」


 アッシュは舌打ちしながらもう一度投げる。


 同様に飛ぶ。


「でも、飛んでる間に避けられないだろ!」


 アッシュは地面につく前に手に持った石で確実にその脳天を打ち抜く。


 ガスッ!という音とともにその生き物は崩れ落ちるように倒れた。


「やったわね!」


「いや、そんなことより腕を処置するぞ!」


 アッシュは傷口を口で押え、吸いだす。


「ねぇ、くすぐったいわ」


「毒を持ってるかもしれない」


「それは、そうだけどさ。自分でもできるし」


 エリフィーレが少し頬を紅潮させているのを見ながらアッシュは真剣に吸い出す。


 しっかり、吸いだすと、穴を掘り得た、綺麗な水で洗う。


「もう。大げさよ」


「ここには病院も医者もいないんだ。しょうがないだろう」


「そうだけどさ……恥ずかしいよ」


「手で圧迫しとけ」


 アッシュはぶっきらぼうな態度で接する。


「うん」


「大丈夫か?」


「ええ、たぶんね」


「すまん」


「大丈夫よ、だから大げさね」


「大げさじゃないだろ、魔法を使えばよかったじゃないか」


「魔法はそんな便利なものじゃないわ。すごく疲れるし。そもそも一人で運用するものではないの」


「は?だってえらい貴族は町を焼いたなんて話があるじゃないか」


「何それ?。まぁ、強力な魔法具があればできるかもしれないけど、何もない状態でそんな強力な魔法を詠唱無しに発生させるなんて無理よ」


「そうなのか?」


「話の前にとりあえずその生き物を絞めちゃって。話しながらでもできるでしょう」


「ああ、そうだな」


 アッシュはエリフィーレを休ませながら倒れた生き物を調べる。


 4足歩行でモグラのような体格をしている。しかしその大きさはモグラにしては異常に大きい。


 アッシュはそう言いながら頸部を切り血が足を鷲掴みにし血抜きの真似事をする。


「それで魔法なんだけどさ」


「うん」


「そもそも、魔法は誰でも使えるものよ」


「えっ!」


「驚いた?」


「信じられない。というのが本音だけど。ここにきて自分の常識がガラガラと崩れていくからもう分からないって状態だな」


「そう。でも本当よ。大昔の王族がそう教育を施していった結果、みんなそれが常識として刷り込まれていったわ。魔法は習得に時間と金が必要になるからわざわざ平民に教えようとした粋狂な人間はいないだろうし。居たとしても処刑されたんでしょうね。そしてそれが国家統治に役立つようになり、ますますその刷り込みは加速していった」


「全く。俺らは何もかも教えられてないんだな」


「そうね。それも統治がしやすいから。ちなみに面白い話をするとね。グレン王国の王族及び五大貴族はね、この地下迷宮で魔法具を手に入れ、そして当時の政府を転覆した人間の末裔だったりするわ」


「……なぁ、それって俺が知ってもいい奴なのか?」


 アッシュは恐怖交じりの声で聞く。


 エリフィーレは少し下品に笑うと、息を整えながらしゃべる。


「馬鹿ね。聞いていい話なんてここに落ちてから一度もしてないわよ。外で言いふらしたりでもすれば即刻処刑されるレベルよ」


「……なんでそんな話を僕になさるのでしょうか」


「貴方を信用してるから。そして貴方は自分で考えられる人でしょう。大丈夫よ私から離れなければ生きていけるわ」


「ますます逆らいにくくなったな」


「そうかしら?それよりもちょっと気になったんだけどさ。こいつが出てきた穴のところを見てもらえない?」


「どうして?」


「何か赤いもが埋まってるのよ」


「赤い物?」


 アッシュは片手で生き物を握りしめ。穴を掘る。


 そこには確かに赤い球体が多数あった。


 一つはかじられているが。


 その球体はそして弦でもっと奥の木のようなものにつながっている。


「これは、果物?のようなものか」


 一個引きちぎってみる。


 手には赤く丸い、芳醇な香りを放つものがあった。


「リンゴ、かしら?」


「リンゴ?」


「ええ、私が見た記憶の中で近い物はね」


「おいしいのか、リンゴは」


「リンゴはね、それがおいしいかは分からないわ」


 アッシュはかじってみる。


「ちょっと!安全か分からないのに」


「誰か毒見しなくてはいけないだろう。それにこいつが食って大丈夫だったなら大丈夫だろう」


 シャキ、シャキ、シャキ。


「ああ、確かにすごい甘い」


「本当!私のもとって」


 エリフィーレは子供の用にはしゃぐ。


「ああ分かった」


 アッシュはもう一つ取り、エリフィーレの口に運ぶ。


 小さな口でシャキっとかじり、咀嚼する。


「わざわざ別々にしたら勿体ない気もするけど。……リンゴってこんなにおいしかったかしら?」


「リンゴなんて食った事ねぇし。分かんねぇよ」


「そりゃそうね」


「どれくらい持って行こうか?」


「できる限り持って行きましょう」


「分かった」


 そう言って食料の問題も解決した。


「それとその弦と木を持って行きたいわ。火をつけるものがないと焼けないでしょう」


「おおう、分かった。でも荷物が多いな……あっ!」


 アッシュは上着を脱ぐ。


 脂肪が無く、細くともしっかり筋肉が付いた体をしている。


「どうしたの?」


「この服の首元と腕周りをこの弦で縫ってふさげば即席の袋ができるだろう。この弦かなり頑丈だし」


「へー、やるじゃない!」


 しばし工作を行うと、その中にしたから木材、リンゴを入れる。


「すまんが肉を持ってくれないか?」


「いいわよ」


 2人は手分けして荷物を運んだ。


「これでとりあえずカイトを仲間に加えられるな」


「そのことだけど少し考えたいことがあるのよ。だからとりあえず一度牢屋まで戻りましょうか」


「考えたいこと?まぁどっちにしろ戻らなければいけないんだからそれでいいけど」


 そう言って2人はあるだけのリンゴモドキを抱え、帰路に立つ。


 しかし道中眠気に襲われたアッシュが顔を手で鷲掴みしながら切り出す。


「なぁ、すまんが俺も仮眠を取ってもいいか?安心したら眠気が」


「私しか取っていなかったものねいいわよ。お互い交互に寝ましょう」


「ありがとう」


 アッシュはそう言って砂の上で横になる。


「どうしたの?私の膝の上で寝ればいいでしょう」


「いや、それはさすがに」


「いいからいいから」


 アッシュはエリフィーレの強引な誘いに負け膝を枕に睡眠をとった。


 エリフィーレのいい匂いがますます深い眠りを誘った。

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