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貧者の妄想王国と異世界戦争  作者: ニート志望
地下住民と石の巨人
13/13

闇の中の住民

 地下のアッシュらとは場所の異なる場所に生きる人間たちが居た。


 地下のうちでも硬い岩盤がある場所があり、そこを採掘し地下へ地下へとのびる家で生活をしている人々である。


 そこで生活している人間の背丈は小さく、しかし筋骨隆々であった。


 光源は彼らが昔拾った魔法具を模倣して天井から吊り下げることにより、確保している。


 そこに住む一人の髪が白く、周りの人々に比べてもさらに強靭な肉体をした中年のリョウが居た。


 リュウは穴を掘った際に出る石の山を岩盤の上まで運ぶ仕事をしている。


 重い石を運ぶことは大変で単調な仕事である。


 リュウは、黙々と掘り出した岩を獣の皮で作った袋に入れる作業をこなした。


「おい!さっさと上に運べ!役立たず!」


 岩盤を掘り進めている女たちが怒鳴った。


 リュウは「すいません」と呟くと採掘をする人々が爆笑する。


 毎日毎日、彼らは飽きずにリュウをいびった。


 リュウはさっさと袋に入れた石を担ぎ階段を上に登っていく。


 階段を上っていくと途中で赤い果実を栽培をする大きな部屋に水を運ぶ女性たちとすれ違う。


「どうも」


 リュウは会釈をするが、誰も反応を返してはくれなかった。


 リュウはずーっと石を地上に運び続けた。


 家のいくつかの出入り口には岩の山ができている。


 石の利用方法は多彩で、地上で暮らす男たちが囲いを作ったり、狩りをするために加工して矢じりなどにしたり、あるいはたまに混じっている魔法石と我々が呼ぶ石を魔法具にするらしい。


 仕事が終わるころには、外から狩人たちが村に戻ってくる。


 子供たちが嬉しそうに、その狩人を歓迎すると、皆が穴倉から出て宴会の準備が行われる。


 労働に応じて、食料が配布される。


 リュウのもとには子供や女たちと同じだけの食料が配布された。


 今日もっとも活躍した狩人を村長が讃え彼が狩った動物の牙のブレスレットを胸にかけると、皆で火を囲い食事となった。


 リュウは食事をしながら今日も胸に手を当てる。


 そこにかかる牙は一つとしてない。


 この村で一番尊敬されている狩人は27の牙を胸に携えている。


 その男の周りには若い女が集まり男のもとにある食料を分けてもらおうと猫なで声で男たちを誘惑する。


 そんなリュウのところの1つの小さな牙を胸に携えたひょろい、釣り目の男が寂しいリュウの横に座った。


 男の名前はシヨウ。


「どうだ!」


 男は自慢げに渡された食料を見せびらかす。


 リュウの2倍ほどの肉であった。


「だから何なんだよ」


 リュウはそう言って自分の肉を平らげた。


 奪われたくないからである。


「分かってるんだろう。ごく潰しめ」


 男は嬉しそうに言う。


「お前だって……狩人の中だったら一番少ないじゃないか……その胸の牙だって自分で作ったものだろう……」


 リュウはおどおどしながら言う。


「ふん!それでもお前がこの村で一番役立たずなのは変わらないだろう。胸にはえーと、牙が?あれどこにもないね~」


 シヨウは面白そうに笑いながら言った。


 リュウが明らかに不快な顔をしてもやめようとはしない。


「じゃぁ、これ何本あるかわかる?」


 シヨウはそう言って指を出した。


「……2本」


 リュウは目を細めて指を見た。


「残ねーん3本でしたー」


 シヨウは笑う。


 リュウは口を閉ざし、シヨウから離れる。


「おいおい。どこに行くんだよ」


 シヨウはやはりへらへらした笑い声で言う。


 リュウはその声を無視して穴の中に入った。


 地上は男たちが生活する場所で、女や子供は男たちが呼び出したり、火を使って調理をさせる時だけ地上に出ることが許されている。


 穴の中で、女性の寝室、子供の寝室があるのだが、リュウはそのどちらでもない自分で掘った穴倉で寝ている。


 リュウの悪口を言う人間たちの前で寝たくないからである。


 リュウの堀た穴は5人ほどが横たわれるスペースがあって、毛皮が敷いてある。


 その弓は大きいだけでなく、固く、リュウだけが引くことができる。とリュウは思っている。


 穴の外で宴に狂乱する男女の声もいくばくか和らいだ。


 一人で縮こまって、耳をふさげば、その声も届くことは無い。


 目をつぶりながら、目が良ければこの弓を使って狩で一番の大物をとらえて見せるのにと頭の中で何度も思いながら眠った。


 誰かが自分の頬を叩いたのでリュウは目が覚めた。


 そこにいたのは釣り目のひょろい男である。


「なんだよ……」


 リュウは心底嫌そうに起き上がった。


「地上の男たちがほとんど死んじまった」


 シヨウは早口でまくし立てるように言う。


「何を言ってるんだよ……」


「いいから早く地上に来い。けが人の治療に人手が居るんだよ」


「でも俺が無断で地上に出たら……」


「いいから!」


 シヨウがあんまりに急かすのでリュウは村の決まりのことを思いながらしぶしぶ地上に出た。


 外に出ると焦げ臭いにおいが鼻孔をくすぐった。


 普段であれば勿体ないので使わない光の魔法具がそこらじゅうで利用されている。


 その光によって目の前に現れたのは焼けただれた人間たちがにはいつくばっている光景である。


「お、おい……」


 リュウは倒れた男に声をかける。しかし返事はない。


「死んでしまってるんだろうな。昨日の石の巨人が焼いていったんだ」


「石の巨人?」


「その話はあとだ、とにかく生きている人間を見つけて近くの池まで運ぶんだ」


「ああ、分かった」


 二人で死体に声をかけながら探し回っていると外を区切る土塁が崩されていることにも気が付いた。


「おい!この子息がまだあるぞ!」


 シヨウがリュウを呼ぶ。


 そこの場所に急いでいくと足にやけどを負い、胸元に綺麗な宝石ぶら下げた少女が倒れいた。


「この子、村長の娘じゃないか?」


 二人で火傷跡に力が加わらないよう持ち上げると、池へと向かった。


 池には多くの傷ついた狩人や、女、子供が火傷や傷を治療しているところであった。


 リュウはそこで突っ立ていると、村長の妻がリュウのもとに駆け寄る。


「ニーナ!」


 妻は大粒の涙を流しながら娘に話かける。


「どいてくれ、早く水で冷やさないと」


 シヨウは迷惑そうに言う。


「な!、あなた達がニーナに触れるなんて許せません!ほかの女性にやってもらいます!ニーナを置いてほかの仕事をしなさい!」


「はぁ!せっかく運んできてやったのにその態度はおかしいだろ!」


 シヨウが憤慨した。


「おい!やめろ。すいませんでした。失礼します」


 リュウはシヨウを掴んでその場から離れながら言った。


 妻が目視できないところまで来るとシヨウがリュウの手を振り払った。


「お前、あの女にムカつかないのかよ!」


「そんなわけないだろ!でもあの女は土の下だと一番の権力者で嫌いな女をわざわざ作っていじめるのが大好きなんだよ。そんなことされたら困るだろう」


「知らねーよ、土の下のヒエラルキーなんて。俺達は男なんだぞ」


「それは、そうかもしれないけど……」


 シヨウははぁ、とため息をつくと気持ちを切り替えたようでほかのけが人を探そうと提案する。


 リュウはそれを承諾して、歩き出した。


「でもお前が俺と一緒に行動すると思ってなかった」


 リュウはふと思い出したことを呟く。


「はぁ?俺たち友達だろう」


「えっ……」


「なんだよその態度!」


「だってお前俺を馬鹿にするだろう……」


「そうだったか?」


「えぇ……」


「なんだ、その。すまん」


 シヨウはばつが悪そうに謝った。


「え、ああ。うん」


 二人の間に沈黙が訪れる。


 リュウはしまったと思い、ほかの話題を探した。


「なぁ、さっきの石の巨人って何なんだ?」


「あ、ああ。頭から火を噴いたり、そのまま人を押しつぶしたり暴れまわってたんだよ」


「よくそれでお前生きてられたな」


「俺は逃げるのだけは得意だからな」


「なるほど……」


 そう言えば、狩人たちがシヨウのことをしゃべらないと気が付かないって悪口を女に風評していた気がする。


 しばらく二人は生存者の救出の仕事に従事していると、生存者がいなくなった。


 それから遅れて池に皆が集まるよう村の女の一人が大声で従事者全員に呼びかけた。


 集まると村長の妻が立ち上がり、ほかの村人たちはそれを囲んでいた。


 見渡すと成人男性は全体の2割ほどで、そのほとんど全員がけが人であった。


 村長の妻はヒステリックな声で「私の夫が亡くなりました」という言葉から話し始めた。


 それから聞くに堪えない石の巨人と戦った狩人たちの罵倒を始めた。


 妻はいつもいじめているリュウにも優しく接してくれる女を立たせたと思うと「あんたもそう思うでしょう!」と語気強く迫った。


 その女の子は周りの男を見渡し顔を青くしながら「はい」と小さくつぶやいた。


 それからも同じようなことを繰り返していた。


 しかしその話の途中でシヨウが立ち上がり「うるさいわ!ボケェ!」と怒鳴った。


「今何って言った」


 妻は低い声でシヨウを威圧する。


「俺たちは必死になって女たちを穴の中に逃がす時間を稼いだのになんでそんなことを言われなくちゃいけないんだ!」


 シヨウは大声で叫んだ。


「そんなの当り前でしょう!当り前のことをしただけで威張らないでよ!男として恥ずかしくないの!それにあんたたちがケガしたせいで肉をどうやって得ればいいのよ!」


「はぁ!助けてもらっておいてなんなんだよお前!」


「何よ!それにあなたはケガしてないじゃない!どうせ戦わずに逃げたんでしょう!ねぇ!みんなもそう思うわよね!」


 妻は聴衆に語り掛ける。


 聴衆が黙っていると妻はもっと語気を強め「ね!」と念押しをする。


 ざわざわと、聴衆からは彼女を恐れている女たちから肯定的な返答を受ける。


「ほらみなさい!みんなもそう思っているわ!もし本当に戦ったなら証明してよ!」


「証明って……どうやればいいんだよ」


「簡単よ、あの石の巨人を追いかけて、欠片でも持ってこれば認めてあげるわ」


「そんな!」


「本当に戦ったんでしょう!」


「さっきからそう言ってるだろう!」


「じゃぁ、できるわよね!頼んだわ。さっさと用意してきなさい!」


「ふざけんな!」


 シヨウは妻に殴りかかろうとする。


「暴力に訴えるなんてサイテーよ!追い出しなさい!」


 妻が叫ぶとシヨウの周りにいた数人が取り押さえて、輪から引き抜いた。


「はあ!本当に最低!」 


「あの……お母さん」


 妻がうるさくわめきたてていると、ニーナがそばによる。


「あら、何かしら」


 妻は豹変し優しい声でニーナに接する。


「決めなくちゃいけないことがあると思うんだけど……」


「何の話?」


「これからの、食料採集とか、村の囲いのこととか、石の巨人のこととか……」


「あら。ニーナは賢いのね。確かにその通りだわ」


 妻の褒め言葉にニーナは顔をしかめるが、妻はそれを気にせずニーナの言った事を一方的に決めて言った。


 決めごとは、食料を得るために、子供の男を狩人に引き抜く事。あの化け物が何者なのかを解析するために調査団を派遣する事。それは無傷の男たちで行うこと。3つ、直ちに土塁を元の状態に戻す事それは女性たちが行うこと。である。


 そしてそれぞれの責任者が決まった。


 子供を率いた狩は立候補したケガの軽傷な狩人のベテランが選ばれた。


 土塁を戻すのは村長の妻が行うと言う。


 難航したのは調査隊の責任者である。


 誰も手をあげなかったためである。


 結局中身のない議論の結果シヨウが貧乏くじを引くことになった。

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