地下旅行
アッシュとカイトとの交代でエリフィーレがアッシュの膝の上で横になる。
エリフィーレの光の玉の代わりにカイトが光の玉を生み出した。
「さて、これからの行先のあてはあるのかね↓」
カイトが尋ねる。
「残念ながらないわね」
エリフィーレは答える。
「ひとつ僕にあてがあるんだが↓」
「どんなところだ?」
「この施設は、山の傍で作られたものだ↓地上の近くに大きな火山があったはずだ↓」
「ええ、あるわよ。グレン王国の東側はたくさんの火山があった」
「この施設において、もっとも重要なのは火山の熱だ↓だから外部からの入り口もそこに作られていた↓そこを目指してみてはどうだろうか↓」
「方角はどうやって分かるんだ?」
「金属を持っていないか?」
カイトが尋ねる。
「硬貨でもいいかしら」
「ああ、構わない↓」
カイトはそう言ってエリフィーレから硬貨を借りると指先に置いた。すると硬貨はゆっくりと回転をして右に回ったり左に回ったりを繰り返して止まった。
「こっちが東だ↓」
カイトはそう言うと硬貨をエリフィーレに返した。
「どうやって分かったんだよ?」
アッシュは怪訝そうに尋ねる。
「電流を流して電磁石にして方角を調べたんだ↓」
「……エリフィーレは分かるか?」
アッシュは下の少女に尋ねる。
「分からないわ」
「そう↓とにかくこっちが東だから大丈夫↓」
「ちょっと、待って。その方向に水や食料がある保証はあるのかしら」
「ある↓」
カイトは力強く言う。
アッシュとエリフィーレはお互いに顔を見合わせた。
お互いに彼を信用していいのかどうか分からないという顔をしている。
「カイトはここの水辺や食料について把握してるのか?」
「ああ、そうだ↓」
「待って。ならどうしてあの汚物の海から出ようとしなかったの?」
「それは言えない↓」
「なんで?」
「言いたくないことに関連しているからだ↓」
カイトは心底嫌そうに答えた。
エリフィーレは疑いの目を向けているのがアッシュには分かった。
「なぁ、俺はカイトのことを信用してもいいと思うんだ」
「悪人では無いと思うけれど……」
エリフィーレのその言葉に一瞬カイトの顔がゆがんだかと思うと後ろに顔をそらした。
「信用してもらえて何よりだ↓」
「まぁ、分かったわ」
エリフィーレはカイトの自信のみなぎった態度に負けてカイトについていくことになった。
エリフィーレが愛らしい寝息を立て始めてから、アッシュは彼女の美しい腕を優しく撫でた。
「腕フェチなのか?」
その様子を見ていたカイトが笑いながら言った。
「うざいなぁ、そう言うのじゃねぇよ」
「ウザいって↓……」
アッシュはそうしながら彼女のひっかき傷を見た。
傷口は赤くはれており、膿んでいることが分かった。
「なぁ、お前は医学の知識はあるのか?」
アッシュはカイトに尋ねる。
「いや、無いな」
「そうか、この傷跡をどうすればいいか解ればと思ったんだが……」
アッシュは傷口をカイトに見せる。
カイトは光の玉を近づけて傷口を見た。
「これは↓……まずいかもしれないな↓……とりあえず膿みを出してしっかり食べるようにするしかないだろうな↓」
「そうか」
アッシュらは会話を中断するとカイトは犬たちの胃袋を水で洗い始めた。
「何をしているんだ?」
「これを水筒代わりにしようと思ってな↓」
アッシュはそのさまを見ながら少しカイトに尋ねてみることにした。
「ここの水ってどこから来るんだろうな?」
「あー↓井戸のようなものだよ↓」
「そうなのか」
「ああ、もともとこの場所は生物を地上の戦争から逃して↓種の保存をするためにできたものだからな↓水を確保して↓太陽光が届かない地下で植物を育てるために地熱を利用して成長する植物を生み出して……」
「戦争?種の保存ってなんだよ」
アッシュはカイトが熱弁するのを妨げてよく分からなかったところを聞いた。
「……俺がこの施設で研究者をしていたころは↓、地上の生命を撃滅してしまうほどの火力を持った兵器が存在して↓、それから生物を守るために地下に生態系を生み出したんだ↓」
「生態系というのは……」
「光が無いと草は育たない↓草が無いと草食動物は育たない↓草食動物が居なければ肉食動物は育たない↓そのような関係を生態系というんだ↓」
「分かったような分からなかったような……」
「……まぁ分かればいいのは食料の確保や↓、水の確保に困ることは無いということだけだ↓」
「そうか」
アッシュはカイトの言っていたことを理解しようと考えたが理解できなかったのであきらめた。
エリフィーレが起きたのでカイトの導きの通り進んで行ったが、その地下探索は順調であった。
カイトの言った通りの場所に必ず水があり、そして動物は前回の正攻法によって食料となっていったからである。
しかし、エリフィーレが目に見えて弱っていったことだけが懸念となった。
アッシュやカイトは何度も彼女の体調を常に気をつかい、やってほしいことがあれば何でも言うようにと言っていたが彼女は「大丈夫」とだけ答えた。
アッシュはしかしやはり心配であったので彼女の持つ分はアッシュが持つようにした。
何十の水辺を経たのち、水辺から水辺までの道中、エリフィーレが倒れたのだ。
「おい!大丈夫か!」
エリフィーレの代わりにたくさんの荷物を背負っていたアッシュが倒れた彼女に駆け寄った。
異変に気が付いたカイトも同様に駆け付けた。
エリフィーレは気丈に「大丈夫だから」と呟く。
「そんなわけないだろう!↑君は馬鹿か↑」
カイトは憤慨し手を頭に置く。
「すごい熱い↓」
どうやらぎりぎりのところで保っていた体調が急変したようである。
「やめてよ。大丈夫だから」
エリフィーレはカイトの手を振り払う。
カイトは気にせず彼女の腕を見る。
そこにはひっかかれた傷跡がぐじゅぐじゅにただれているのが分かった。
「どうしよう」
アッシュは考えもなくつぶやく。
「どうしようも↓器具がないからなぁ↓……」
「大丈夫だから」
エリフィーレは二人を心配させまいと立ち上がるが、すぐによろけてしまったのでアッシュは彼女を抱き寄せ支える。
アッシュは彼女から伝わってくる熱に驚く。
「……とりあえず、彼女を俺が背負っていくよ」
アッシュはカイトに言う。
「そうか、荷物は俺が持とう↓休憩なしに次の水辺まで急いで水で体を冷やしたほうがいい↓」
アッシュはカイトに毛皮や乾燥させた肉等々を預け、彼女を背中に背負った。
柔らかな感触に欲求を向けるほど余裕はなかった。
「……ごめんなさい」
エリフィーレは鼻をすすりながら言う。
「何謝ってるんだよ」
「だって。最近私ほとんど役立たずだから」
エリフィーレは弱弱しくアッシュに腕を回した。
アッシュはしばらく黙って歩いていたが、「……好きな女を役立たずなんて思わねぇよ」と少し本心をこぼしてみた。
「えっ?」
エリフィーレが素っ頓狂な声でつぶやく。
「なんだよ……」
アッシュはもしかして嫌われているのだろうかと身構えた。
「なんて言ったの?」
「何も」
「やっぱりさっきのは嘘なのね」
「嘘なんてついてない」
「だって」
「本心を言っただけだ」
アッシュは顔を赤くして言うと彼女を背負ってカイトについて歩く。
カイトのほうを見ても、茶化そうとしている様子は見えない。
彼女が危険な状況であるから全くそのようなそぶりを見せないのであろうが、そのようなところを見るとカイトが善意ある人間であることがすぐに分かった。
カイトを見てほっとしているとエリフィーレの抱擁の力が強まったのを感じた。
アッシュは嬉しそうにはにかみ。彼女の重さを愛おしく思った。
その後しばらく3人がそのような体制であるいていると前方に轟音が響いていることが分かった。