対話
牢屋に戻るとエリフィーレが「さて、カイトを問い詰めなくてはいけないわよ」と力強くアッシュに話す。
「そう言えばずっと怪しんでたもんな。お前」
「そう、彼は間違いなく嘘をついているわ」
「それでどうするんだよ」
「問い詰めるのは私に任せて。あなたはいるだけでいいわ。そしてカイトが私に危害を加えようとしたら止めて頂戴」
「それだけでいいのか?」
「ええ、もちろん」
「分かった」
エリフィーレは意気揚々とカイトのもとへ向かった。
そのさまを見てアッシュは、一歩引いた形になった。
カイトは絶賛食事中であり、今まさにい汚物を口に含み、咀嚼しているところであった。
気持ちわるい。
エリフィーレを見ると明らかに吐き気をもよおしていた。
「お久しぶり、カイトさん」
エリフィーレは一度のどを動かしてから、言葉を紡ぐ。
「お前ら、生きてたのか!↑」
カイトは振り向くと、口から汚物を逆流させながらそう言った。
「貴方、嘘をついていましたよね」
エリフィーレは少し怖い口調で言った。
「再開していきなり言いがかりをつけられるとは思わなかったよ↓」
カイトは髪を掻きながら苦笑する。
「そうですか?まぁそんなことはどうでもいいんです。私が聞きたいのは、私たちはすぐに水を見つけることができましたし。そして化け物と形容されるような生き物を見ませんでした。あなたは本当に、あの中へ足を踏み入れたんですか?」
「当り前だろう。ただ君たちが優秀なだけだよ↓」
カイトは少しむっとしながら答える。
「そうですか。参考にお聞きするのですが、あなたの言う化け物とはどのようなものだったのでしょうか?」
エリフィーレははたから見る分にはとりあえず相手に質問し続け、矛盾個所を探そうとしているようである。
「……それは、ゴーレムさ。中央の穴の中に無数の脳みそが浮いている、そんな化け物だ↓」
「残念ですけど、そのようなものはみませんでしたし、気配もありませんでしたよ」
「それはだから、君たちの運がよかっただけだろう!↑」
カイトは声を荒げた。
「そうですか。まぁ、いいでしょう。他にもあなたには気になる箇所がいくつもあるんですよ」
「どこだよ↓」
「カイトさん。あなたはなぜこのような広い、牢屋が与えられているのですか?ほかの牢屋はとても小さかったです」
「それは……自分が新人類だから、優遇されていたんだよ↓」
「なぜ貴方は新人類となる能力が付与され、そして殺されずに生き残れたんですか?」
「それは、僕が……↓」
カイトが長考をしているのを見てエリフィーレは畳みかける。
「なぜ答えられないのですか?」
カイトは黙っている。
それに見かねてエリフィーレは畳みかけた。
「私は、あなたが研究する側の人間であったのではと考えているんですけど。どうでしょうか」
カイトの目が振動したのをアッシュは見逃さなかった。
「他にも、監修されていた年数を覚えているほど頭が良いところもその疑いを持った原因ですけど」
「僕は、頭が悪いよ↓」
カイトは驚くほど速く答える。
「自らの知性の批判は、頭が良い人間にしかできないこと。それ自体があなたの知性を証明しているんですよ」
三人の間に沈黙が訪れた。
しばらくして、カイトが話し始めた。
「そうさ、僕は確かに研究する側の人間だった↓」
「なぜ、嘘をついたんですか?」
その問いかけに答えることに、長い、長い時間がかかった。
「それは、それは隠したかったことがあったからさ↓」
「隠したかったことって、なんですか?」
「それを言うわけないだろう。誰にだって話したくない事の一つや二つある。現に君は彼に多くのことを隠していたはずさ↓」
カイトはアッシュを見ながら言う。
「それは!……」
今度はエリフィーレが黙り込む。
「そうだろう。それなのに人にだけは強要するのはおかしいだろう!↑」
しばらくの沈黙ののち、口を開いたのはアッシュであった。
「俺も発言していいでしょうか?」
「いいわよ」
「許可を取る必要はないと思うぞ↓」
「そもそも、俺たちは皆ここから脱出することが目的なんだから、別に言いたくないことを言う必要はないと思うんですけど」
「隠し事をしている人間を信用できるかしら?」
エリフィーレはアッシュに威圧的に言う。
「いや、そもそも偶然出会った人間同士なのに、偶然出会った相手に悪意ある隠し事をしてると考えるのは変だろう」
アッシュは無い頭を振り絞りながら言う。
「それは、そうかもしれないけど」
「カイトさんは脱出するのに協力していただくことに何か不都合はありますか?」
「別に無いよ↓もともと食料と水を確保できるなら仲間になると言っているしね↓」
「……協力しあえるなら確かに問題ないかしら……」
エリフィーレはカイトの言葉を聞いて、考え、髪をくるくる回しながら言う。
「そうでしょう!それならさっさと飯にしましょうよ、せっかく大量の食料を得たんですから」
こうしてぎくしゃくしながらも、3人は洞窟を抜け出すという目的のために一致団結し、最も近い池の傍で食事を始めた。