それはきっと時代の流れというもの。(三十と一夜の短篇第28回)
「燃え、燃えてはいないのか。それじゃあ、これは……星か! 火はお日様だって聞いたことがあるから、そうじゃなくって、こうして光ってるってことは星なんだろ。そうに違いない!」
少女はドヤ顔で宣言をした。
少女は自然の中で育ってき、初めて都会に連れて来られたがために、人の知ることを知らなかった。
瞳を輝かせて、周囲の景色を見る。
その中で最も興味を持ったものが、電気なのであった。
興奮した様子でいる少女を、男は微笑ましく見ていた。
彼が少女を自然の中から保護し、街へと連れて来た張本人なのであった。
「うーん、惜しいけど外れかな。というか、そんなものを見ていて楽しいのか?」
輝く瞳で電柱を見つめる少女を苦笑いで見る。
少女がそんなであったものだから、視線も向けられることであるし、それが気になった男は決めた。
「楽しい!」
「なるほど。そうも楽しいのなら、私も初めて見たような心地で楽しんでみようじゃないか!」
シュッと苦笑いは消え、男の瞳も少女と変わらぬほどに輝きを持った。
場所は移動して男の家。
少女が興味を持ったように、全てを初めて見る状態になっている男もまた、電気に興味を持った。
帰宅し、自分で電気を付けておきながら、
「ボタンを押したら光った!」
と、驚愕の声。
二人は会議を行うことにした。
「都会の人間は、星を自在に操れるんだろ。だって空には全然星がなかったのに、ポチっとしたら星が出てきたり、小っちゃな箱に星が閉じ込められたりしてたし」
「たしかに! それじゃあ私も都会に生まれて、知らず知らずのうちに魔法使いになっていたのだね。少し待っておくれ。正解かどうか確認してみよう」
二人が盛り上がっていたところで、男は都会っ子保護者モードに戻る。
会議の結論を少女は男に伝えた。
「残念だけど、魔法は使えないな。星だと言ったときに、惜しいと言ってしまったのがいけなかったかな。それでも私はきちんと外れだって伝えたと思うよ」
にっこりと笑って、男は興奮田舎育ちモードに変身。
「なんだってなんだって?」
「魔法は使えないって。まず星じゃないそうだ」
ガビーン!
少女から聞かされた言葉に、ショック顔の男の横に、そう文字列が出現した。
今時、漫画だって使わない表現だが、見事に男はそれを表現したものである。
推測は初めから間違っていたことが知らされ、二人ふりだしに戻る。
「星でもない。魔法でもない。だったら何がある」
少女は深く考え込む。
「この感じできているけど、もしかしたら本当は火なのかもしれないよ」
「ありえーるでしょ!」
男の閃きに、彼女は知っているはずがないけれど、どこぞのCMのようなことを言って少女は肯定する。
また、確認することになり、
「して神は何と告げていた?」
と、いつの間にか男の中で男は神と化していた。
知らないモードの男の中で、知っているモードの男は神として扱われ始めていた、とすればわかりやすいだろうか。
少女は神のお告げを聞く役割を担う、巫女のような設定なのだろう。
それでは、神を宿す(神に宿されるの方がまだ近いが)男自身は、どういう扱いになっているのかは謎である。
古き風習の残る田舎をモチーフにした男は、今時? 都会っ子ボーイな男よりも、神を信仰していた。
「火とは違うねぇ、だって。今度こそ正解だと思ったんだが」
再び頭を悩ませる。何度かチャレンジするも、二人の発想の中から正解が導き出されることはなかった。
しかし二人とも、諦めようとしなかった。
二人は諦めようとしなかったのだが、ただ一人、諦めに入ろうとする人物がいた。
「知らないんだろうから、たぶん、いつまで経ったって当たりやしないだろう。こんな繰り返しをいつまでも読者に見せるのもみっともないし、コメディーって言うのはテンポが大切なんだよ。重苦しい説明も除去して、意味不明でもテンポ優先で進められる、普通の小説とはまた違ったジャンルなんだ」
冷静な方の男は、知っている方が過ぎて、メタ発言にまで達している。
意味は理解していないような少女であったが、見慣れない知らない景色に包まれているためか、それを特別おかしくは思っていない。
パンと手を叩いて男はモード切り替え。
「なんと言っていた?」
と訊ねれば、
「制限時間っていうのか? 制限文字数を設けるって言ってたぞ。二千文字超えたら文字数オーバー、正解発表に移るのだそうだ。こんな無駄話をしている場合じゃないから、早く答えを探そう」
ストーリー内の部屋の中から、少女には文字数が見えているのだろうか?
まさかのよりにもよってそこが少女に理解されたようであるが、ストーリー内に設置されているオブジェたちが、背景としかならないアイテムたちが、まだ理解されていないままである。
考え込む二人。
答えが舞い降りて来ることもなく、残酷にも、一文字、また一文字と制限文字数となる二千文字に近付いていく。
二人に残されているのは、もうごく僅かであった。
会議が白熱していたところで、プツッと、唐突にその瞬間は訪れた。
十分に楽しんでいたと思うのが、もう飽きたのか知らないけれど、二千文字を認識した男が元の冷静な男にすっかり戻ってしまったのだった。
「最後のチャンスだ。考えを聞かせておくれ」
余裕の笑みを浮かべた男に、物事を知らなかった方の男が懸命に考えた末に、どうにか捻り出した答えを早口で告げる。
「あれは発光ダイオードと呼ばれる半導体で、Light Emitting Diodeの頭文字を取ってLEDと呼ばれているものだ。電子の多いN型半導体とホールの多いP型半導体を接合したもので……」
長々と語ったものだが、オンエアではもちろんカットだ。
フェードアウトがちょうどいいだろう。
そこで、何かを思い出したかのように男が顔を上げる。
「あぁまだ話していたのか。ごめん、面倒だったからイヤホンをしていて、話の途中だったことを忘れていたよ」
「で、どうなんだ! 合ってるのか間違ってるのか、教えてくれよ」
「さあ、合っているじゃないか? 聞いていなかったから、細かいところが間違っていたかどうかはわからないが、合っていたと思うよ」
聞いていたとしても、そう詳しく知らないくせに。
神のように何でも知っているこの男が、最後まで聞いてはもらえなかったにしても、正解なんじゃないかと言ってくれたのだ。
嬉しそうに少女は笑った。
「ちなみに、どうしてわかったんだ?」男
『すみません、うまく聞き取れませんでした。』???
「……あ」少女