星に願いを
どしゃ降り雨の水曜日。
4時限目の数学。
「おい、聞いてんのか?」
あと少し。
「…渋谷、窓を閉めてこの公式を答えろって」
あともう少し。
「…渋谷、いい加げ『来たっ!』…」
『せーんぱぁーいっ!』
「渋谷!授業中だぞ!」
『おはよーございまぁーす!』
「…あー、おはよ」
(…!今日も男前!)
〜星に願いを〜
「渋谷、ちゃんと反省してるのか?」
『…あい。』
「じゃあ、何が原因で反省文書くのか言ってみろ。」
『今日の4時限目、』
「うん、」
『どしゃ降り雨なのに、』
「うん、」
『先輩がワイシャツで学校来たからです。』
「…うん?」
『傘もささないから透けてるし、髪濡れてセクシーだし!』
「…」
『鼻血もんだよね、あれは!』
「…」
『ね!先生!』
「…あぁそうだね。」
(何でこんな生徒の担当なんだろう)
会議室で反省文を書き終えて、先生から解放されやっと学校を出れた。
(もう、夕日が眩しいじゃんか!)
自転車をこぎながら、
何で先生は先輩のフェロモンがムンムンな事に気が付かないんだとか、
何で先輩はあんなに綺麗な筋肉のつき方なのかとか、
色々考えてたら前方100メートル先に先輩の後ろ姿発見!
猫背でそんなに背は高くなくて、髪が真っ黒でだるそうに歩くあの姿。
(見間違える訳がありません!)
マッハでペダルをこいで先輩の後を追う。
(別に必死になりすぎて信号無視とかしてないし!)
『せーんぱい!』
「うわ!…びびった〜。」
後ろから声をかけたら、ただでさえ大きな目を、もっと大きくして振り返った。
(そんな顔も男前なんだなー!)
『今帰りなんですか?よければ一緒にか
「いや、遠慮しとく」…。』
まだ言い終わらない内に否定ですか。
『なんでですかー。一緒に帰りましょうよー。』
「名前も何も知らない奴と帰るほど怖いもの知らずじゃないの、俺。」
『…え、』
「じゃ、ばいば『2年4組31番、渋谷のぞみ!得意科目は保健体育で、えへ、嫌いな科目は理科全般です!』い…」
先輩は私を見て、また目を丸くした。
(あは、先輩かわいー!)
(どうした、この女!)
『もー!あたしのことが知りたいんだったら早く言って下さいよー!照れ屋さんなんですね!』
「いや、そういう意味じゃなくて。」
『え、だって今、』
「確かに俺が言ったけど、意味の受け取り方が違う。」
『先輩の為に、正直に得意科目は保健体育って言ったのにダメなんですかー?』
「だめ。」
(保健体育とか、ただエロいだけだろ。)
『じゃあ、どーやったら一緒に帰ってくれますか?』
うーん、って言って先輩は空を見た。
「…お前苦手なの理科だっけ?」
『はい!』
「じゃあ、星の名前言えたら一緒に帰ってやる。」
そう言って、先輩はいたずらな笑顔で空を指差した。
そこには、まだ少し明るい紫の空に小さく光る星があった。
昼間に雨が上がったせいか、いつもよりも輝いて見える。
『星の名前なんて知りませんよ、あたし!』
「じゃあ、お前とは帰らない。」
先輩はくしゃっと笑って、駅のある方向に歩き出した。
『ほ、北極星!』
先輩が笑って振り返る。
「どの星が?」
え、わかんないよ!あたしが戸惑っていると、また先輩は歩き出した。
(あぁ、先輩が帰っちゃう!)
『ベガ!カシオペア!』
また振り返って笑う。
「だから、どの星が?」
あたしはさっきより少し暗くなった空を見上げて、一際目立つ星を選んだ。
『あれとあれが!』
「…適当すぎるだろ!」
(だって一緒に帰りたいんだもん!)
「ちゃんと、どれがなんて名前の星なのか言えるようになったら帰ってやる。ばいばーい。」
先輩は最後に、最低でも5つ覚えろよって言って帰ってしまった。
(こうなったら、覚えてやろーじゃないの!)
あたしはまた、ペダルをこいでまずは、本屋さんで初心者向けの本を入手して家に帰った。
そして部屋のベランダに出て、本と星空をにらめっこ。
1日でも早く、先輩と一緒に帰れますように。
あわよくば、手を繋いでいちゃいちゃしながら帰れますように。
あ、あたしの自転車でふたり乗りでもいいなぁ。
そんな願いも込めながら、猛勉強。
天に輝く何億ものお星様。
どうか、どうかあたしの願いを叶えて!
〜星に願いを〜
(お願いだから、名札を付けて!)