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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

元魔王と元お助けキャラのお話

わたしとあなたの関係

作者: 瀬田 冬夏



 森の奥深く、鬱蒼と茂る木々。その一つに女は居た。

 太い枝に身を預け、視線の先に居る者を凝視している。


 そこに居たのは男だった。

 中性的で、美しいと素直に賞賛できる姿をしていた。誰もが振り返る容姿であるが、女の目に宿るのは憎しみだ。


「おとーさんとおかーさんのかたきー!!」


 女とは別の方角から子供が叫びながら男の腹へとナイフを突き刺す。

 体重を乗せ、男に体当たりしての一撃はナイフの柄まで男の身の内に入り込んでいる。


 子供は笑って顔を上げた。

 見上げた先には苦しみに醜く歪んだ顔があるはずだった。しかし現実にあるのは、眉一つ動かない氷の様な美貌。


「ヒッ!?」


 息を呑んで、子供は男から離れた。

 男は腹に刺さったままのナイフを引き抜き子供の近くに投げ捨てる。

 ナイフに血はなく、男には刺された傷痕もない。

 子供は引きつるような悲鳴を上げて逃げ出した。

 男は後を追うような事はせず、その場に佇んでいる。

 男はどこからともなくやってきて、魔物と呼ばれる化け物達を解き放ち、穢れをまき散らしながら佇み、やがてどこかへと消えていく。

 男は魔王と呼ばれていた。

 魔王は女にとって仇だった。

 家族も家も村も全て失った。

 穢れた大地は、高位神官の浄化の術でも、一月は元に戻らない。

 魔物に壊された建物に、もはや作物の実らない大地。神官を呼ぶなど、小さな村には土台無理な話だった。

 泣く泣く立ち去る村人達とは違い、全てを失った女は魔王を追った。魔王を殺すために。


 魔王が西を見る。そして、その姿がぼやけ始めた。

 女は木の上から飛び降り、魔王へと駆ける。その手に一振りの剣を握り、魔王の心臓へと突き立てる。

 あの子供がそうしたように、全ての力を振り絞りその身を貫いた。


 魔王が女を見、押しのける。

 剣を抜いて女に投げたところで魔王の姿は消えた。

 カランと剣が地面に落ちる。

 女は剣を拾い西を見た。魔王が見た方角。そこに魔王が現れると知っていた。


「ゲホッ」


 風邪でもひいているのか、女は咳を一つすると、首を覆うマフラーを口元まで引き寄せる。

 女は駆ける。

 魔王を殺すために。仇を討つために。

 何度もその身に剣を突き立てた。斬った。それでも魔王は平然と立っている。

 傷一つつかない。魔法も全滅だった。目ですら再生してしまう。

 仇を討つために魔王を追いかけているのに、その手立てが見つからない。

 聖剣さえ抜ければ。

 魔王を倒すための剣。神が与えし宝剣。しかし、女に聖剣は抜けなかった。

 勇者はまだ現れない。

 女はまた一つ咳をした。

 走る速度は変えなかった。



 草原を抜ける。魔王がいる場所は空が歪んでいる。

 それを目指して、女は走った。

 魔王はやはり、そこにただ立っていた。

 大地を汚し、腐食すらさせて。

 いつもどんな場所でも変わらず魔王はただ佇んでいる。


「お前の、お前の目的はなんだ!? どうやったら殺せる!?」


 猛毒を塗ったナイフも、酸も効かない。殴ろうが蹴ろうが魔王はただ立っている。

 どれだけ剣を向けられても、魔王は殺しはしない。

 恐怖と絶望だけを与えてくる。


「……俺を殺せるのは聖剣だけだ」


 返ってきた言葉に女は唇を噛んだ。

 そんな気はしていた。何をやっても傷一つ付けられない自分には無理なのでは、と。それは忍び寄る恐怖に似ていてずっと目を背けていた。

 唇を噛み締めているのに、涙が浮かぶのが止められない。


「じゃあ、私では無理だというの!? 誰の仇も取れないっていうの!?」


 魔王の襟を捕まえ叫ぶ。

 魔王は何も答えない。そして、自分の命を狙うものに対しても何もしない。


 睨みつけても、返ってくるのは何の色もない表情だけ。

 こんな奴に殺されたのだと、女はついに涙を零す。

 それでも堪えようと唇を噛み、魔王の胸を叩く。

 鉄の味が口に広がる。それでも女は唇を噛み、涙を堪えようとする。


「もう追ってくるな」

「うるさい」

「手遅れになるぞ」

「うるさい!」

「お前の咳はただの咳ではない」

「うるさい! お前が私の心配なんかするな! するもんか! お前に心配なんて、お前が人の心配なんて、……するはずがないんだ……!」

「…………」


 女は咳き込みながらも、魔王の言葉を否定する。

 否定しなくてはならない。認めるわけには行かない。

 気づいてはいけない。気づいてしまったら立ち上がる事も出来なくなってしまう。


「……今に殺してやる!」


 そう捨て台詞を吐いて女は魔王から離れていく。

 勇者ではない人の身で魔王を殺せるその機会を待つ。


 多くの人が魔王を倒すためにやってきた。

 誰も魔王を殺せなかった。魔王も殺さなかった。

 どれだけ、その身に刃が突き立てられても、魔王は反撃の一つもしない。

 ただ哀れむように見つめてくるだけ。

 女も、それを見つめ返すだけ。傷一つ付けられない己の無力に嘆き怒りながら。



 女の咳が止まった。

 爪が黒く濁り始め、吐く息は心なしか冷たく感じる。

 水すら口にしなくなったのは何時からだろうか。

 指を曲げ、爪を見つめる。どの爪も、元の色が分からなくなっている。

 女の口元に笑みが浮かんだ。

 穢れによって動物は魔物となる。植物も、変わってしまう。なら、人もそうなるのだろう。


「まだ間に合うぞ」

「うるさい」


 女の剣を受けながら、魔王はそう口にする。


「……愚かだな」

「お前に言われたくない」


 首に、心臓にナイフと剣を突き立てた。

 それなのに魔王は生きている。そして小さな笑みを浮かべた。


「そうだな。俺にはその資格はない」


 その言葉に女は目を見開き、怯えるように剣とナイフを引き抜き、急ぎ離れていく。

 何かから逃げるように。

 その背を魔王は眺めつづけ、やがて断ち切るように目を閉じた。

 女は耳を押さえて、否定し続けた。浮かびそうになる言葉と思いを否定し、気づかないふりをし続けた。


 死にたがっているなどとありえない。


 女は壊れそうになる心を必死につなぎ止めて、翌日も魔王を殺そうとする。そうする事で女は生きていくことが出来た。


 女の爪が完全に黒く染まった。

 女はそれを見て、いびつな笑みを浮かべた。

 そしてその日。魔王はなんの予兆もなく、女の前から消えた。

 呆然とそれを見つめた後、女は目を剥いて悲鳴を上げた。

 正気を失った様に女は駆けだして、魔王を探した。死にものぐるいに、眠る魔も惜しみ、倒れるまで走り続けた。

 数ヶ月後魔王を見つけた時、女は泣き叫び、剣を振りかざした。


「お前を殺すのは私だ! 私なんだ! 逃げるな!」


 振り回されるように、女は剣を振るった。

 魔王の目は女の爪を追う。

 真っ黒に染まった爪は変わらず女の指にあった。


「……お前では俺は殺せない」

「勇者にしか殺せないのなら、それを見届けるまで、お前の傍を離れてたまるか!」

「…………間に合わなくなるぞ」

「望むところだ。お前が私の知らないところで死ぬなど許さない」


 女は笑みを浮かべた。泣きそうな顔で、唇だけは綺麗な弧を描く。歪で、狂ったような笑みだった。

 女は魔王の傍で、魔王を殺そうとし続ける。たとえ、血の一滴も流れなくても、そうする事しか女には出来なかった。


 女の指先が、黒くなり、まるで、鋼のように堅く変質していく。

 女はその手を使い、魔王の胸を貫き、心臓を握りつぶす。

 感触はする。液体が流れるのも分かる。それでも、血は魔王の体から流れる事はない。


「……痛くないの?」


 女の言葉に魔王は言葉を失った。


「もの凄く、いまさらな事を聞くのだな、お前は」


 さんざん人を殺そうとしたというのに。

 しかし女の答えは至極簡単だった。


「憎い相手にわざわざ気を遣う必要ないし」


 それもそうだと、魔王は密かに同意する。


「……冷たいくせに、体内は暖かいのね」

「…………」


 女の言葉に魔王は何かを返す事はなかった。

 ただ互いに互いの目を見る。瞳に浮かぶ感情は憎悪と……。


 不意に女は潰した心臓を離し手を引き抜く。魔王の体は瞬時に治る。傷など初めから無かったように。

 女は何も言わずに去って行く。その背中に魔王は声をかけた。


「次は南に行く」


 女は背を向けたまま小さく頷いた。

 やがて女は鳥を放つ。ここから南に住む人たちが少しでも逃げられるように。


 魔王が移動して、女がその後を追う。魔王を見つけた時、魔王は誰かと戦っていたようであった。戦っているというのはおかしいか。魔王は避けもせず受け続けているのだから。

 実力のある騎士達が魔王の周りを取り囲み、戦っているが、その顔には疲労の色が濃い。傷一つ付かない体に、終わり無い作業に疲労の方が蓄積し、体力よりも先に精神が限界を挙げる。

 魔王を倒したい身にはこれ以上ない絶望感だ。避けもしない防ぎもしないその姿は「不死」を嫌でも見せつける。


「無駄な事をするよりも、魔物を倒しに行った方がいいんじゃないか?」


 その方がよっぽど堅実性があると魔王は言いたげだが、それは敵対している騎士達にも分かる事なのだろう。

 隊長が撤収する旨を伝えた時、明らかに何名かの騎士がほっと息を吐いた。

 撤収する際、隊長は潜んでいる女に気づいた。


「そこにいるのは誰だ?」


 投げかけられて女は姿を現す。


「……魔物?」

「まだ、なってない」


 騎士の言葉に女は否定した。


「君は……?」

「魔王が死ぬことを誰よりも望む女よ」

「……今すぐにでも神殿に行った方が良い」

「行ってどうするの? その間にあいつがどこかに消えてしまったら? 勇者が通り過ぎたらどうするの?」

「……そうか、最近の情報は君か。しかし」

「騎士様。その気があればとっくに行ってるわ。私は自分の意志でここに居て、あの男の死を特等席で見る事を望んでいるのよ」

「……そうか。……すまない、いらぬ差し出口をした」

「いいえ。……私の方もありがとうとごめんなさい」

「…………」


 隊長はそれ以上何も言わずに部下を連れて去って行く。

 女はまた身を隠した。

 魔王には分かっているのだから隠れているというのは違うのかもしれないが、それでもどのタイミングで殺しにいくかは女にとっては重要なので、息を潜めてその時が来るのを待つ。


 朝焼けの中に、夕闇に、新月に満月、晴天に雨のなか。条件を変えて女は魔王を殺そうとし続ける。

 諦めずに、殺す事を執着し続ける女の左目に変化が現れたのはいつからか。

 濁ったような視界に女は目を閉じ続け、痛みに押さえる事もあった。

 それが無くなった時、女は瞳も変化したのだろうなと理解した。

 手とは違い、己がどんな姿がどんな風に変わったかは分からない。

 ただ間近でみた魔王が一瞬小さく驚いて、手を添えそうになった事で、それなりに変化があったのだろうと思ったのみだ。


「…………感じるか?」

「何を?」


 首を絞めているのに、しゃべれるとかふざけてる。

 女はそう思いながらも魔王の首を絞め続ける。


「勇者が近づいている」

「!?」


 その言葉に女の力が緩む。逃げだそうと思えば逃げられるほどに。しかし魔王は逃げるような事はしない。当然というようにその手を首に絡めたままだ。


「もはやお前の身は人のみではどうする事もできないだろう」

「そう」

「しかし、聖剣であれば、その身に傷跡は残るだろうが、人として残りの人生を歩むことは出来るはずだ」

「お断りよ。そんなの。望んでいない」

「…………」


 魔王は何も、もう言わなかった。


「私が望むことはただ一つ。仇である貴方が死ぬこと。その後の事なんてどうでもいいのよ。家族が居るであろう天国には私はいかないもの」

「そうか……」


 返事だけをして魔王は目を閉じた。

 死ぬことのない殺害方法は、女の体の変質が進むにつれて、武器を用いないものになっっていった。

 今のように、手が触れてくる。


「……お前の手も冷たいな」

「……中は温かいわよ、きっと」


 女はそう言いながら食い込むように首を絞める指に力を入れた。



 勇者が現れた時、女はその戦いを静かに傍観していた。

 殺す気のない魔王の攻撃は勇者に迷いを与えないためのものだろう。殺気が足りない。今まで魔王に挑んで居た者達の方が、よっぽど、遙かに殺気を纏っていた。でも勇者はそれを知らない。だから前にきた騎士達よりもよっぽど稚拙と思える剣技でも善戦を繰り広げているように見える。


「……ムカつく光景だわ……」


 女はぽつりと口にした。自分たちが何をしても魔王はその場から動くことすらしなかった。その身に傷一つ付ける事も出来なかった。

 なのに今、魔王は勇者と戦い、その身にあえて細かな傷を作っている。消える事のない傷を。そして、大ぶりとも言える聖剣を自ら受けて、大きく勇者から遠のき、持っていた剣を捨て、地面に膝をついた。


「終わり?」

「ああ、終わりだ」


 女の言葉に魔王は答えた。

 女に気づいていなかったのか、勇者は驚いて女を見た。

 女は勇者を見る事もなく、魔王の元に行く。

 大きく斬られた傷口からは血ではなく、白い光がこぼれ落ちている。


「これで、死ねる?」

「ああ、これで死ねる。やっと役目を終えられる……」


 そのまま力尽きてしまいそうなほど感慨が籠もった声。


「そう。おめでとう」


 女は膝を折り、透けて消えてしまいそうな魔王を抱きしめる。


「お疲れ様」


 誰よりも、魔王を殺したかったのは、魔王自身。死ねなくて苦しくて、生きていることに害悪しかもたらさない魔王を、誰よりも魔王を憎んでいたのは魔王自身。


「……切り傷は必要か?」

「不要よ」

「そうか……。では最後くらいは魔王らしい事をしよう」


 魔王の手が、女がそうしたように、女の体を突く。

 違うのは、魔王の体を伝って赤黒い血が流れていく事だろうか。


「な、何を!? 彼女はまだ助けられたかもしれないのに!」


 勇者が慌てて女を救おうと近づいてくるがそれを隔てるように黒炎が二人と勇者の間に揺らめき立つ壁となった。


「だから、だ。勇者……。お前には分からないだろうが、いや、分かる必要はない……か。俺たちの歪な感情など、お前に不要だ……」


 魔王は言って、優しい眼差しで、自分の腕の中で眠りにつこうとしている女を見た。


「お前の中も温かいぞ」

「そう……良かった。貴方と同じね……」

「ああ、俺と同じだ」


 小さくかすれた声。女は魔王に身を寄せたまま、不明瞭になってきた視界を感じながら最後の言葉を紡ぐ。


「あなたが……憎くて…………愛してた…………かたき……なのに、好きになって……った」


 不明瞭な言葉だったがそれでも魔王の耳にはきちんと届いた。


「俺もだ。お前がいたから、最後まで俺は俺で居られた。俺も愛してる」


 その命がつきる前に、告白と、キスをする。血の味がするかけらも甘くない最初で最後の口づけに、女は微笑んで、嬉しいと小さく口にして息を引き取った。


 魔王の体も一部は消え始めていて、女を抱きしめる事もままならなくなってくる。

 魔王が作り出した黒い炎が女の体を焼いていき、魔王の体も消えていく。

 黒い炎が消えた時、そこには誰も、何も、残っては居なかった。




 魔王が誰よりも死にたがって居た事を女は誰よりも知っていた。

 魔王が、誰にも傷ついて欲しくないと願っている事を女は気づいた。

 魔王は穢れの象徴。魔王が降り立つとその地に眠っている穢れが吹き出し、魔物を生む。

 それは魔王にはどうしようもない事。その魔物が獲物を探して遠く離れた人が住む地へと流れ着いてしまうのも魔王にはどうしようもない事。

 一月で穢れた大地が元に戻るのは、魔王が手遅れになる前に移動しているから。

 魔王が悪の象徴でない事を、見ぬふりをしても、気づかないふりをしても、目をそらし続けても、ずっと共にいた女には、偽りきる事は出来なかった。女自身がそれを望んでいても。だからこそ、女は魔王の死を望んだ。誰よりも、殺してあげたかった。

 その思いが、どんな感情から来ているのか女が自覚した時、女はとっさに自殺すら考えた。考えただけで済んだのは魔王が居たからだろう。

 魔王は装置になりかけていた。与えられた役目を唯々諾々とこなす装置に。

 魔王自身が拘っていた、被害を最小限に抑えることすらしなくなる。穢れを吐き出し続け、勇者に殺されるのを待つだけの存在に。

 魔王の自我が持ったのは女の存在があったからだ。

 装置になれば女は巻き込まれてあっという間に魔物になっていただろう。

 転移に女を連れなかったのも降り立った瞬間が一番危ないからだ。


 あの日、女を本当の意味で置いて転移した瞬間。魔王は開放感を味わった。

 これでいつでも自分は死ねる。この意識を手放せる。安堵にも似た開放感。それは女が再び現れた時に崩れ落ちた。そして、その根本にあった物が露わになった。

 恐れていたのだと魔王は気づいた。

 復讐の半ばで去って行った者は多く居る。それから二度と現れない。それでいいと魔王は思っていた。でも、女は穢れによって魔物化し始めるほどまで、魔王の傍に居続けた。

 眩みそうなほどの憎しみをぶつけられた。そんな目が、無価値と自分を見つめてくる日が恐ろしくて自分から手放した。

 女を助けるためだともっともらしい事を自分に言い分けして離れた。

 

 それなのに女は追いかけてきた。神殿にも行かず、己の傍で蓄積した 時間(穢れ)を祓うことなく。

 戸惑いと嬉しさが混じった。共に居たいという思いと、女に生きていて欲しいという思いから、何度か女に忠告をした。

 それを無視し続ける女に、密かに喜んでいた。

 女は魔王が居なくては立ち上がる事すら出来ず、魔王は女が居ないと自我すら手放そうとしていた。

 女が魔王を殺そうとする度に、触れあう事を喜んだ。

 瞳に狂気を宿して見つめ合うことは一度や二度では無かった。

 女は憎しみ続け、魔王はそれを受け続ける。その関係を崩すことはしなかった。それはしてはならない互いにいつの間にか出来た禁忌。

 許されるのは女の仇が取れた時。二人で待ち望んだその時間。

 やっと訪れたその時間。


 ああ、でもせめて、名前ぐらいは聞いておけば良かった。

 走馬燈のように過去を振り返って魔王はそんな事を思った。


 ―――なら、今から聞けば良い。


 声をかけられた。魔王は誰かがいることに気づいて、ふと死ぬ間際まで抱きしめていた女がいない事に気づき、落胆した。


「彼女は天国にいったのか?」


 女自身は否定した言葉。家族の元にいく資格は無いと女は思っていたようだったが、魔王からしたらそんな事はないと思っていた。自分を好きになったからといって、彼女自身は悪人ではないのだから。


 ―――いや、眠っているだけだ。


「眠っている?」

 

 周りを見渡してもそれらしい人影はない、そもそもここはどこなのか、魔王にも分からなかった。


 ―――そしてお前も眠っているだけだ。


 魔王はしばし考えて、この存在に気づいた。


「私の中に封じられていた神か」


 ―――そうだ。お前が穢れを吐き出す存在となったきっかけのものだ。


「無事、元の神に戻ったようで良かったよ」


 これで戻っていなかったら、自分の人生はなんだったのかと絶望するところだ。


 ―――百年後だ。あまり時間が経ちすぎているのも生きづらいとその時間に決めた。


「何を言っている?」


 ―――感謝と詫びの気持ちだ。共に生きるが良い。


 その言葉と共に魔王だった男は目が覚めた。

 青空と白い花が可愛らしい植物が目に飛び込んできた。

 何が起こっているのか一瞬混乱したが、百年後と言った声を思い出す。

 この場所は自分が死んだ場所か? と男は体を起こそうとして上手く体が動かないことに気づき焦ったが、自分の上で何かが寝返りをうち、地面へと落ちそうになった事で全てを理解し、女を抱き留める。

 目を覚ますかと思ったが、少し唸っただけで、小さな寝息が聞こえてきた。

 男は苦笑し、女の様子を眺める。

 変異してしまった部分は綺麗に治っているようでほっとため息をついた。

 女が目を覚ましたら、まずは名前を聞こう。そして、共に生きてくれるか尋ねよう。


 男は数分後に訪れる幸せな時間を思って女をもう一度抱きしめた。

 


 

リアルで見た夢で、書いている話の主人公となっており、夢の中で先生から宿題にと出されたお題が「私と貴方の関係」(っぽいのタイトルだったと記憶)で、その夢の中で私は、一個前の宿題に、主人公がメインの話を骨組みを提出していたらしく、もう一度それを煮詰めて書いてみない? みたいなメモ書きを先生からもらい、「よし書こう!」と頷いたところで、目が覚めて、寝起きのテンションのまま、「書くぜ!」と「活動報告」に新しい記事として書いた。逃げ道を自分で塞いでいたのである。

それでも気にしなければいいだけなんだろうけど、なんとなくの「書きたいな」は消えなかったので、書くことに。でも、夢の中で提出した宿題の話をもう一度書いてもと思ったので、私の中ではほぼ主要メンバーはかわらずで、別の魔王と主人公の話を書いてみました。

なのでシリーズも一応、そっちの分類にわけておこうと思ってます。

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