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姫君と下僕  作者: つら
本編
3/20

姫君と下僕の寝室

 俺は今、身なりが良くてちょっと態度の悪い男(三人連れ)に呼び出され、囲まれている。お友達になりましょうって雰囲気じゃない。どう考えても俺が袋叩きにされる構図だ。実は珍しくもない出来事なので、俺は普段から極力彼らの怒りに触れないように行動しているけど、どうしても避けられない時はたまにある。



 君の瞳は夜空に煌めく星のようだ。

 どこかの馬鹿(俺とは方向性の違う)がミゼルにそう言った。


 確かに彼女の瞳はきらきらしていて綺麗だ。涙ぐんだりされると、演技だと分かっていても動揺するのだろう。俺はまだ彼女の泣き顔を見たことはないけど、俺との結婚が決まった当時、領内の有力貴族が激怒して彼女の家に押しかけたらしい。彼らの協力なくしてはとても領地をまとめられるはずもない有力貴族の跡継ぎのみなさんだ。ノエンナ領が分裂しかねないほどの危機をミゼルは一筋の涙を流すことによって乗り切った。


 ノエンナ領、それで大丈夫?

 正直俺は思ったけど、好きな女に突然泣かれたらそれは驚くだろう。ミゼルに裏切られたと思っていた有力貴族のみなさんは酷く罪悪感を覚えたらしい。


 “領主の娘であるミゼルが領地のために政略結婚するのは当たり前のことじゃないか。一番辛いのは好きでもない男に嫁がされるミゼル自身だ。そんなことにも気づかずに、彼女の気持ちも考えずに俺ってやつは!”


 思考のすり替え、お疲れ様です。結婚してもミゼルに言い寄る貴族が後を絶たないのはきっとこの時の出来事が大きく影響している。まあ結婚相手俺だしね。誰もミゼルに相応しい男だなんて思わないよね。



 ――そして仕官中に油断した俺は、人気のない部屋に呼び出されて(仕事の話だと思ったんだ)黙って彼らの腹いせにつき合っている。つまり俺はノエンナ領のみなさんにとてつもなく恨まれている。領地は違っても、ミゼルのつき合いでノエンナ領に遊びに行った時や城に出仕する時など、いくらでも顔を合わせる機会がある。あと、俺が一切抵抗しないのと俺がボコボコにされてもツァイト家は静観しているので余計になめられている、気がする。


「……っいた」

「もう、殴り返しちゃいなさいよ」

 さっさと寝室に戻って休む日は必ずミゼルがやって来て、俺にまたがって衣服を脱がす。なんか響きがいやらしいけど言葉通りだ。そして予想通りに殴られた跡を発見すると、傷口をいじって俺が顔を歪めるのを楽しそうに眺めているのだ。鬼畜だ。致命傷にならないように気をつけているので大した怪我じゃないけど、いじるのはやめて欲しい。そもそもなんで習慣みたいになってるんだ。最初に彼女にばれたのいつだっけ? 朝起きたらいきなり隣に彼女が寝ていて、びっくりした拍子に傷が痛んだ時だったっけ。そうか、それで洗いざらい白状させられたんだ。

「我慢は身体に良くないわよ? ダスト様、本当は強くていらっしゃるのに」

「ちょ、いた、お願い、やめて」

 青あざになっている箇所をぐりぐりされて俺は悶絶した。

「……っは。だからさ、面倒なんだって。城内で騒動起こすと罰則くらうし、武官の俺のが罪が重くなる……っ、だから痛いってば!」

「きゃっ」

 力任せにミゼルを寝台側に引き倒して俺は魔の手から逃れた。すごく可愛い悲鳴が聞こえたけど、気のせいだろう。

 彼らも罰則は嫌なのか(あとミゼルにばれたくないのか。ばれてるけど)わざわざ顔を避けて、服の上からは分からない部分を殴ってくる。俺が辛そうにしていなければ誰も気づかないし、武官としての訓練だって“ツァイト家の出来損ないの弟”が今さらサボったところで日常の風景だ。

「そんなことより、君から彼らにもっと手加減してくれるようにお願いしてよ」

「そんなの格好悪いわ」

 寝台に寝転がったままミゼルは俺を見上げてきた。きらきらした瞳で物言いたげにじっと見つめてくる。

 ……うん、分かる。彼らが俺をボコりたくなる気持ち、分かる。変な気分になりそうなので視線をそらす。

「……そもそも誰からも格好良いなんて思われてないから、どうでも良いよ」

 俺は過去に一度、賊に襲われる彼女を守っているので喧嘩には強いと思われている。だからやり返せば良いのにと、繰り返し言われるのだ。

「ダスト様、見た目が弱そうなんですもの。脱いだらすごいのに」

 童顔だし、ひょろっとしてるし。と、人が気にしていることをずばずばと言ってくる。あと脱いでもすごくない、(仕事上、仕方なく)ちょっと鍛えてるだけだ。やられたら当然むかつくし貴族の坊っちゃん程度を返り討ちにするのは簡単だ。でも相手によっては家同士の問題に発展する場合がある。俺には相手が自分より強いかどうかは判断出来るけど、やっつけて良い相手かどうかは判断出来ないんだ。でもたぶん、俺とミゼルの結婚はツァイト家とハスニカ家が手を組むための取引だから、ノエンナ領の貴族と問題を起こすのは良くない、んだと思う。

「格好悪いのが嫌なら、俺のこと嫌いになっても良いよ」

 今のは自分で言っててちょっと情けない。そもそも好かれているやつが言う台詞だ。

「……ばか」

 夫が怪我をしていても手当てどころか痛がらせて喜ぶ鬼畜な奥さんは、可愛く笑って今夜も俺を馬鹿にする。そして両目を閉じて。

「……疲れちゃった。おやすみなさい」

「えっ、ちょっとまさかここで寝るの!? 自分の部屋に帰ってよ!」

 俺を寝室から追い出して、我が物顔で可愛い寝顔をさらすのだった。

【終】

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