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6. 部屋の外

わたしは大きく息を吸って、歩き出した。

恐る恐るだった歩みが、だんだん早くなっていく。

黒いのもだんだん増えてくる。

周りの黒いのを気にして歩いていたから、床板に引っかかって転んでしまった。

ドタッと大きな音がホールに響く。

周りの黒いのの動きがぴたっと止まり、一斉に視線がわたしの方に向いたような気がする。

突き刺さる視線にわたしが動けないでいると、黒いののひとつがわたしに近づいて来た。

それにつられるようにいくつかの黒いのもそろそろと動き出した。

じわじわ近づいてくる黒いのは、本で読んだ魔の森のよう。

人を食べる木で出来た森では、森迷い込んだ人を木の影が捕まえて飲み込んでしまうって書いてあったわ。

ゆらゆら動く黒いのたちは、わたしを捕まえようと手のようなものをわたしに向けてきた。

指の先からさぁっとつめたくなり、心臓がばくばくしてきた。

ふらふらよろけながら、なるべくいそいで立ち上がった。

黒いのに捕まりたくない。

わたしは駆け出していた。

前なんかみていない。

目をぎゅっとつむり、ただあそこから離れたいだけだった。

一歩でも遠く、少しでも遠くにっ…

何かにぶつかったような気がした。

何かをすり抜けたような気がした。

そのとき、なにかが外れたような気もした。


暖かいものが走るわたしを包み込んでいる。

足の下の触感が変わっている。

すりむいたひざもじんじんとしている。

脇腹が締め付けるようにいたく、のどもひゅうひゅういっている。

わたしは立ち止まり、息を整えながらこわごわと目を開けた。

ここは町の中だった。

本の中でしか知らない世界、窓から眺めているだけだった風景。

大小さまざまな大きさの石が敷き詰められた広い道。

くすんだ白い壁でできた建物。

その窓のそばに赤い花が植えてあった。

どこかの建物からはさかなの焼ける、おいしそうなにおいがした。

ここは表通りというところなのか、たくさんのお店があった。

野菜や果物のお店があった。

食器やキラキラ光るアクセサリーが置いてあるお店もあった。

読んでいた本と違うのは、本来賑やかな通りのはずのここにも、だれもいないということ。

石畳と建物と日差し、そして図書館の中より少しちいさくなった黒いの。

その真ん中にわたしは一人立っていた。

黒いのは日差しを嫌うのかしら。

じりじり注ぐ日差しをさけるように、黒いのは露店の影から影伝いで移動しているようで、道の真ん中を通るのは少なかった。

ほほをなでるつめたい風と聞き取れないざわざわした音。

町に飲み込まれていたわたしは、鐘の音ではっとして、大変なことに気がついた。


どこに行けばいいかわからない。

とにかく外にいこう、外にいけばヴァリパラに会えると、そう思っていたから。

こういうのを考えなしっていうのかしら。

振り返ると、道の先に一際古い建物。

赤茶色の煉瓦でできた塀に囲まれた、黒い屋根に壁に這った蔦。

建物の後ろには、ピンと伸びてる杉林。

あれがきっと図書館よね。

とりあえず、帰り道はわかったわ。


カーン、カァーンと鐘の音が鳴り響いている。

屋根に十字架がついているから、あそこは教会っていうところなのかしら。

本で読んだお話では、教会で愛し合う二人が結婚式をあげていたわね。

ということは、もしかして、あそこに行ったらウエディングドレスがみられるかしら。

本でしか読んだことのない、特別なドレス。

そのドレスを着た女の人ははなよめさんで、とってもきれいできらきらで、うっとりするらしい。

帰り道もわかってほっとして、大胆になったみたい。

ヴァリパラがどこにいるかはわからない。

それはどこに行っても変わらないわ。

だから、わたしはちょっとだけのぞいてみようと教会へ向かった。


読んでくださりありがとうございます。

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