無題
運を操作する力。
そんな力を持って生まれた、だけ、の僕のお話。
運を操作する。
すごい力に聞こえるかもしれない。
でも、運の総量は変えられない。
そして、自分の運を他人に分け与える。
それしか出来ない能力。
自分の幸運を他人へ。
与えられたその人は幸運に。
与えた僕は不幸に。
そんな能力。
その能力を自覚した時から、僕は影になった。
幼馴染の女の子。
そんな彼女が僕の前で泣いている。
自分の運を周りの人たちに分けてるの、ばれちゃったか。
でも、なんでそんなに泣いてるんだろ?
なんて、考えながら君の前で待ってる僕。
そんな僕に君は目を真っ赤にしながら
「どうして、どうして、そんなに…」
なんて尋ねる。
どうして、か…
よく考えた事、なかったなあ。
でも、しいてあげるなら。
「自分に自信がないから、かな。」
その答えすらも自信なさげに言った僕。
そんな答えに納得してなさそうな、君。
確かに、それだけじゃ言葉足りないよなあ、なんて一人心の中で苦笑い。
だから、付け足す。
「とにかく自分に自信がないから。自分がダメな人間だな、なんて思ってるから。
そんな僕でも手助け出来る人がいるなら、その人の為になにかしてあげたいな、なんて。
能力を自覚するまでは、その人と一緒に倒れたりする事しか出来なかった。
でも今は、こんな能力がある。一緒に倒れる必要がなくなったんだ。
僕だけが倒れるだけで、その人を立たせてあげる事が出来るんだ。
ならそれでいいでしょ?」
なんて微笑んでみる。
決して僕が支えるなんて言わない。
僕が立ち直らせるなんて言わない。
ただ、
「僕はこんな僕の、こんな力で誰かが起き上がってくれるならすっごい嬉しいな、って思うんだ。」
これが僕の本心。
だから君が気にする事じゃないのに。
それでも君は悲しそうに、泣きながら呟く。
「それじゃ、あなたはどうなるの?
あなたは誰と、どうやって起き上がるの?」
…僕、か。
「僕はいいや。
僕の為に、僕のせいで、人の負担になりたくないから。
僕は周りの皆が幸せだって思わせるのは無理だと、思う。
でも、不幸だ、って思わないで過ごせるぐらいは出来る。それだけで充分なんだ。
それだけで僕は倒れないでいけるんだ。」
だからさ、君には悲しそうに泣いて欲しくないんだ。
「君は前だけ向いて笑っててよ。悲しい事や辛い事は僕が受け持つから。
前を向いて思いっきり進んでよ。ほんのたまにあんなやつがいたなあ、なんて思い出してくれればそれでいいからさ。」
他の人の負担に出来るだけならない。
他人が後ろを振り返らずに進めるように。
笑って過ごせる人生を。
そうやって気付かれずに他人を助けて過ごせたら、なんて。
それが、僕のちっぽけなちっぽけな自尊心なんだから。