優秀だと言われる俺の苦悩を理解してくれたのは幼馴染の彼女だけだった
俺は自分で言うのもなんだが幼い頃から「優秀」と言われていた。
小学生の時に書いた絵が県のコンクールで優秀賞を取り表彰された。
作文を書けば企業主催の作文コンクールで入選することもあった。
運動もそれなりにできて入った部活ではレギュラーとしてみんなから頼りにされた。
勉強も県内の有名校に優秀な成績で入学した。
親や大人たちは俺を「優秀な子」と評価する。
だがそれは俺にとって呪いの言葉だ。
なぜなら俺は「優秀」であっても「最優秀」ではないからだ。
常の俺の上にいる奴らがいる。
絵のコンクールでは最優秀賞を取る奴が、作文コンクールでも大賞を取る奴が、部活でも俺より技能を持ったリーダーが、勉強も首席を取る奴が。
俺は常に二番手だ。
その苦しみを分かってくれたのは俺の幼馴染のなつみだけだった。
その日も俺はなつみに愚痴を零す。
「また試験の結果は二位だったよ。どうしても俺はトップに、一番になれないんだ、なっちゃん」
「二位でもすごいと思うけどトシくんは一番になりたいんだもんね。大丈夫だよ、トシくん。頑張っていればトシくんも一番になれる時が来るよ」
「そんな日が来るかなあ。なんかもう疲れてきたよ、俺」
「弱気になっちゃダメよ。トシくんには一流の建築士になる夢があるんでしょ?」
「え? うん、そうだけどさ」
俺は幼い頃からいろんな美しい建築物を見ていて将来はそれを設計する建築士になりたいと思っていた。
だから大学もそっち方面の大学に入学するつもりだ。
「トシくんは建築物の中では橋が好きなんだっけ?」
「そうだよ。いつか後世に残るような橋を設計してみたいな」
「その日を楽しみにしてるから頑張って」
「うん」
なつみに愚痴を聞いてもらって俺はまた気持ちを新たにして勉強を頑張った。
そして俺はなつみとは違う大学に進学し建築の勉強を続ける。
大学生の時にプロアマ合同の橋梁デザインコンクールに応募したことがあるがここでも俺は「優秀賞」はもらえたが「最優秀賞」ではなかった。
その時もなつみが「次があるから大丈夫」って励ましてくれた。
いつも俺を気遣ってくれるなつみがいつしか俺には誰よりも大切な存在になっていた。
そして俺はなんとか二級建築士になることができた。
「トシくん。二級建築士になれて良かったね。おめでとう」
「うん。あ、あの、二級建築士になれたら言おうと思ってたんだけど……なっちゃん……いや、なつみ。俺と付き合ってくれないか?」
「え? トシくんと?」
「なつみにはこれからも俺のそばにいて欲しいから」
するとなつみが少し困ったような表情になった。
「私もトシくんのこと好きだけどうちのお父さんが許してくれるかどうか……」
「え?」
「うちのお父さんって娘と付き合う男は「一番の男」じゃないとダメだって言っていて……」
その言葉に俺は胸がドキリとする。
一番……俺がまだ一度もなったことのないモノだ……
「とりあえずなつみのお父さんに会わせてくれ」
「う、うん」
後日、俺はなつみの自宅に行ってなつみの父親と会った。
俺はなつみとの交際を許可して欲しいと頼んでみた。
「利行くんのことは昔から知っているがそれだけではなつみとの交際は許可できない。君は優秀な男だと聞いているが「一番」になったことのない男だろう?」
その言葉に俺は返す言葉がない。
それでもなつみのことが諦められない俺は腹をくくりなつみの父親に向かって言った。
「それならどうすれば俺たちの仲を認めてくれますか?」
「君が一級建築士に合格して何か国の歴史に残る「一番」のモノを造ってみろ。そしたらなつみと交際も結婚もしてかまわない」
一級建築士……その門は狭い。
さらに一級建築士になって国の歴史に残る一番の建築物を設計して造るとなれば生涯をかけてもできるか分からない。
だが俺はその条件を呑んだ。
「分かりました。その条件を達成したらなつみさんと結婚します。なつみ、悪いが少し待っていてくれ」
「うん。トシくんのこと信じて待ってるから」
「フンッ、なつみが35歳になるまでにできなかったらなつみには私が相応しい男を見つけるからな!」
なつみの父親は俺となつみの仲を認める気がないかのような態度だ。
親父さんには悪いがなつみは必ず俺が嫁にするからな。
俺の本気を見てやがれ!
『蛇塚さん。今日のこの橋の完成は我が国の歴史に刻まれます。あなたの設計した橋は見事です』
『ありがとうございます。大統領』
俺は現地の言葉でその国の大統領にお礼を言う。
今日はこの国で最大の橋の完成式典だ。
なつみの父親と約束してから俺は一級建築士になるべく勉強と実績を積んだ。
そして一級建築士の試験に合格し企業に就職してさらに実績を重ねる。
なつみが35歳になるまでに国で一番の建築物を造れとのことだったので俺はその舞台に外国の小国を選んだ。
この国は国内で最大となる橋を造るのに外国の企業を誘致していたのだ。
あの時、なつみの父親は「日本で一番」の建築物とは言わなかった。
「国で一番」というなら今日完成する俺が設計した橋はこの国で一番大きな橋なので約束を果たしたことになる。
そして今日はなつみの34歳の誕生日でもある。
完成式典にはなつみとその父親も招待していた。
「トシくん! おめでとう! トシくんの橋がこの国で一番の橋になったね!」
なつみが俺に抱き付いてくる。
「なつみ! 待たせてごめんな!」
「ううん、トシくんを信じてたから大丈夫! ほら、お父さんもお祝いの言葉をトシくんに言ってよ」
なつみの後ろにいたなつみの父親が渋面を作りながら俺に声をかけてくる。
「正直、利行くんがここまでやるとは思わなかったよ。確かに君は「国で一番」のモノを造ったみたいだな。なつみとの結婚を許そう」
「ありがとうございます。お義父さん」
俺はなつみの父親の許可をもらったのでなつみにプロポーズをする。
「なつみ。俺と結婚してくれ」
「はい」
なつみは瞳に涙を滲ませながら返事をして微笑んだ。
俺はなつみに誓いのキスをする。
この橋よりもなつみの方が俺の中の「一番」だ。
ようやく俺は一番欲しかった「一番の伴侶」を手に入れられた。
なつみ、この世の誰よりも一番愛してる。




