表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『デジタルデトックス・オンライン 〜SNS依存の皆様、強制的に「土」へ還っていただきます〜』  作者: 比呂石 凪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/18

第7話:オーバークロック・サバイバル

「いやぁあああ! 離して、これ、冷たいっ、キモいっ!!」


 地下室に響くリリカの悲鳴。  壁の隙間から噴出した無数の「銀色の蔦」が、彼女の足首を絡め取り、そのまま発電機の方へと引きずり込んでいく。蔦はただの植物ではない。断面からは光ファイバーの束が覗き、リリカの肌に触れた部分から、微弱な電気信号パルスを流し込んでいる。


「リリカッ!!」


 理久は手にしたハンダごてを最大出力で振り下ろした。  熱された先端が蔦を焼き切る。ジュッという嫌な音と共に、植物がのたうち回るように縮んだ。  だが、多勢に無勢だ。リリカのスマホを苗床にした侵食は、地下室のメイン配電盤にまで到達していた。


『……同期……完了。……システムを……最適化……します……』


 リリカのスマホから、タカシの声がノイズ混じりに聞こえてくる。  電源を切っているはずの端末が、スピーカーを強制駆動させているのだ。


「タカシ……! テメエ、物理的に回路パスを繋げやがったな!」


「理久くん……無駄だよ。その地下室にある『おもちゃ』は、我々がいただく。君のような古いエンジニアには、過ぎた力だ……」


 配電盤から火花が飛び、地下室の照明が激しく明滅する。  植物の根が、理久が心血を注いだ『EMP放射器』の回路に潜り込もうとしていた。  奴らの狙いは破壊ではない。この兵器を自分たちのネットワークに取り込み、広域攻撃手段としてハックすることだ。


「……させるかよ。リリカ、伏せろ!!」


「えっ、また!? 今度は何!?」


「いいから、舌を噛まないように踏ん張れ!!」


 理久はEMP放射器の操作パネルに飛びついた。  このマシンを動かすための「安定したクロック源」はまだない。  通常なら、水晶発振器の精密な信号が必要だ。  だが、理久には予備のパーツがあった。


「……やるしかねえ。アナログの極致、**『強制短絡ショート』**だ!!」


 理久は自身の改造ガラケーを、EMP放射器の制御ポートに強引に突き刺した。  さらに、リリカから預かったソーラーバッテリーを直列で繋ぎ、回路をバイパスさせる。


 科学講座:オーバークロック。  定格以上の電圧をかけ、限界以上の速度で演算(動作)させる禁じ手。  当然、ハードウェアは熱で焼き切れる。


「ガラケー……お前の最後の仕事だ。一秒だけでいい、俺に磁気嵐を貸せ!!」


 理久がメインレバーを叩き落とした。


 ドォオオオオオオオオン!!!


 地下室が、目も開けられないほどの真っ白な光に包まれた。  爆発音ではない。空気が一瞬にしてイオン化し、周囲の金属製品が「キィィィィン」と高周波の悲鳴を上げる音だ。  強烈な磁気嵐(EMP)が、地下室という閉鎖空間の中で全方位に放射される。


 リリカのスマホが、火花を散らして爆発した。  壁を這っていた銀色の蔦が、内側から電子回路を焼かれ、ボロボロの灰となって崩れ落ちていく。  タカシの通信も、物理的な回路破壊によって完全に遮断された。


 静寂。  焦げたシリコンの臭いだけが漂う。


「……はぁ、はぁ、はぁ……」


 理久は膝をついた。  操作パネルからは黒煙が昇り、繋いでいた改造ガラケーは、飴細工のように溶けて固まっている。


「り、りくさん……? 生きてる?」


 リリカがアルミホイルの残骸から顔を出した。髪は静電気で逆立っているが、怪我はないようだ。


「……ああ。なんとか、な。だが、高くついたぜ」


 理久は溶けたガラケーを拾い上げた。  十年以上、自分の相棒だった唯一の通信手段。  これを失ったことは、この世界で完全に「孤立」したことを意味する。


 だが、悲しんでいる暇はなかった。  地下室の入り口、地上階へと続く扉が、外から激しく叩かれる音が響く。


 ドンドンドンドンドンドン!!!


「……理久くん。開けてくれ。今の光は何かな?」


 タカシの声だ。  しかも、スマホ越しではない。  すぐそこに、「本人が来ている」。


「あの野郎……もう追いついてきやがったか。植物の演算速度スピードを舐めてたな……」


 理久は歯を食いしばり、まだ熱いEMP放射器の残骸を睨んだ。  兵器は死んだ。相棒も失った。  だが、理久の目にはまだ、エンジニアとしての冷徹な光が消えていなかった。


「リリカ、裏口のダクトへ。アキバの地下は迷路だ。逃げるぞ」


「でも、りくさんの店は!?」


「店なんて、また建て直せばいい。……今は、生きて『デバッグ』を続けるのが先だ」


 理久は店内に残っていた予備の工具カバンを掴み、リリカと共に闇の中へ駆け出した。  扉が破られる音が、背後で響いた。


(第7話 完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ