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9/15

第九局 月曜日

 4/15(月)

 時刻は午後6時。悠は翼から渡された問題集の山が入ったリュックを下ろす。翼から1日50局の課題が課せられたが、「初日は20局でいい」、という寛大(?)なメールが下校中に届き、安堵した。


 「丈ちゃん、上がって上がって」

 「お邪魔しまーす」


 丈が永澤家の敷居をまたぎ、靴を脱ぐ。今日から一週間、下校後に対局してもらう約束をした。1日50局課題は永遠に続きそうなので、できれば今後も毎日来て欲しいところだが、「流石にずっとは無理。日向さんと放課後デートする夢があるから」と断られた。前向き思考は大変よろしい。


 母はここのところ繁忙期だからか会社に泊まり込みの日も多い。少なくとも夜9時までは帰ってこないので、悠が小学生の時は、丈と室内で遊ぶときは自ずと丈の家で遊ぶことが多かった。


 だから丈が悠の家に来るのは実は今回が初めてだ。会社にいる母には電話で連絡しておいたが、「あっ、丈ちゃんなら好きなだけ家に来ていいのよー。お茶くらいは出しなさいねー」と快く了承してくれた。


 「別に今まで通り俺の家でもよかったけど」

 「いいんだよ。僕が付き合ってもらってる側だし、新しく買ってもらったチェスセットも見て欲しいから」


 「へー、悠んちって内装もすげーんだなー」

 「おじいちゃんの頃からだから古いけど、何年か前に中だけ綺麗にリフォームしたんだ」


 悠の家は典型的な日本建築だが、この辺りでは一番大きい家だ。家、というより屋敷に近い。ガワは寺院みたいな見た目だが、数年前のリフォームで和洋折衷の内装になった。


 「昔から思ってたけど、悠って、金持ちの割には服とが地味だよな」

 「それは、僕のファッションセンスがないだけ。無地の服なら失敗はしないから・・・・・・」


 「俺がファッションを教えてやろうか?」

 「遠慮しときますー。僕のファッションも丈ちゃんがよく着てるドラゴンTシャツよりましですよー」


 「悠にはあれの素晴らしさがわかんないのか!?」

 丈が信じられない、という表情をしている。

 「自分が街中で注目浴びてる自覚なかったの?あれ一緒に歩いてると恥ずかしいんですけど」


 そんなこんなで廊下の奥の悠の部屋につく。悠はいそいそとガラス張りの戸棚から、半月前に買ってもらったばかりのチェスセットを取り出した。


 「じゃじゃーん!」

 「うわっ。なんだこれ!どう見てもアンティークじゃねえか。中学生が持っていい代物じゃねえだろ」


 「そお?母さんが買ってきたからよくわかんないけど」

 「じゃあ、自分と同じようなチェスセット見たことあるか?」


 「それは・・・・・・ないけど」

 「これは壊したらやばいやつだと思う。他のはない?」


 「そう、もう一個買ってもらってたんだ!」

 悠は押入れの中をガサゴソと漁る。悠が取り出したのは手のひらサイズのチェスセットだった。


 「ちっさ!何から何まで極端だな!移動用じゃん!」

 「ええー。これもダメー?」


 「ダメに決まってんだろ!流石にこんなちっこいのじゃやりずらいったらありゃしない。しょうがないからさっきのアンティーク使うぞ!」

 「別にいいけど・・・・・・」


 じゃあ最初っからそれにしておけばよかったのに、ぶつぶつと文句を垂れながらもう一度チェスセットを取り出す。


 「よし、時間ないから早速始めるか」

 「チェスクロックは?スイス式?ビュレット?」


 「いらないだろ。なんとなーくでいいんじゃね」

 「わかった」


 悠と丈は椅子に向かい合って座る。どんどん試合をして、勝っていかなきゃ・・・・・・!

 

 試合ごとに棋譜を書いていき、反省点を一言ずつノートにまとめるのを繰り返す。一試合は短くて4分、長くて20分かかる。時刻が午後八時になったと同時に、今日の全二十局が終わった。


 悠と丈は一緒に伸びをする。

 「ふー」

 「ふぃー」


 「やっと終わったな」

 「流石に疲れた・・・・・・」


 「僕は、三勝五分四十二敗・・・・・・」

 「始めたばかりだからしょうがないだろ。これからどんどん実力は伸びてくさ。特にさっきの試合はすごかったよ!あそこでのBf4!くううー。痺れるねー」


 「ほんと!いつか丈ちゃんを追い越しちゃうかもなー」

 「百年早いな」


 「そうだ、夜ご飯食べていくよね?」

 「お!いいの?」


 「もちろん!なんか作ってあげるよ。何がいい?」

 「ステーキ!」

 「それは無理」


 「じゃあハンバーグ!」

 「ちょうどひき肉あるし、それならいいよ」


 「まじか!やった!」

 丈は小学生のように「ハンバーグ!ハンバーグ!」と言いながらスキップする。悠は軽く微笑むと、冷蔵庫を漁り、材料を取り出していく。


 三十分後・・・・・・・

 「よし!完成!」

 「おお!うまそー」


 丈がよだれを垂らす。


 「いただきます!」

 二人で合掌し、食べ進める。丈はガツガツとくらいつき、口をハフハフさせながら「これうまいな!」と幸せそうな顔で言ってくる。悠も、幸せだ。


 しかし、二人は知らなかった。今日が、悠を苦しめる地獄の一週間の幕開けであることを・・・・・・


 


 


 

 




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