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第三局 悠、衝撃を受ける

 「えー。皆さんには、えー。学業以外にも、えー。友人関係や、えー。部活にも、えー。力を入れて欲しいと、えー、思っております」


 眠い••••••。ご多分に洩れず話の長い校長の話を、「えー」の数を数えながら聞き流す。悠はあくびを噛み締めながら瞼を擦っていると、通算八十六回の「えー」の後、校長の話は終わった。

 

 「えー、続いて、えー、新一年生の、えー、担任の先生方を、えー、ご紹介します」


 「うわ、あの校長、絶対ズラじゃん。話長いし」

 「それなー」


 怖い怖い。なかなか辛辣な会話が聞こえてきた。女子って、初対面同士でもこんなに本性を表して喋るものなのだろか。


 「一組から順に、岡部先生、田畑先生、早鳥先生、五十嵐先生、神田先生、山崎先生、伊集院先生です」


 担任多い!そういえばこの学校は一学年七クラスあるんだった。23区内だが一学年に児童が十五人しかいない小規模小学校出身の悠からしたら、小さな池の金魚がいきなり琵琶湖に放り出されたみたいだ。体育館に並ぶ生徒用の数百の折りたたみ椅子は、無限に続いているように見えた。


 丈ちゃんと同じクラスになれてよかったな。


 校舎に入ってすぐのクラス分け貼り紙に、悠と丈の名前が同じ列に書かれてたのを見て、二人して飛び上がって喜んだ。これから相棒とはまた一緒に学校生活を送れる。新しい環境に期待しながらも、一抹の不安があったが、彼がいるなら安心だろう。


 「ねえ、うちらの先生まじ当たりじゃん!イケメンなんですけどー」

 「ね!さいこー」


 そんなにイケメンなのか。どれどれ••••••と思ったが見えない。近眼だが意地を張ってメガネを使わない悠には、担任の顔はよくわからなかったが、その隣の先生がはげているのははっきりわかった。


 教室に案内されて席に着く。ガラガラっと音がした扉の方を見た瞬間、悠は大きく目も見開いた。


 早鳥翼••••••!?なんで早鳥翼がここにいるんだ!?

 

 悠が驚いていると、目の前の美青年は高らかに声を上げた。

 「皆さん、初めまして。私の名前は早鳥翼です。今日から中学一年三組の担任を務めます。よろしくお願いします」


 早鳥翼。日本ランキング3位でFIDEマスター。彼が担任なのか?一瞬同姓同名かと思ったが、彼の類まれな美しさがそれを否定した。斜め前に座る丈に目をやると、酸欠の金魚のように口をパクパクと動かしている。


 「教科は古典。チェス部の顧問をしています」

 この学校にチェス部なんてあったか?受験の時に配られたパンフレットにはのっていなかったはずだ。


 「チェス部は今年の秋にできたばかりの新しい部活です。初心者大歓迎なので、ぜひ体験に来てください」


 「せんせー彼女いますかー?」

 女子生徒がいう。また不躾な質問を。

 「ごめんなさい、そう言った質問にはお答えできません」


 情報を得ることはできなかったようだが、彼のスマイルに、質問をした女子生徒は顔を赤らめる。顔がいいって羨ましい。


 その後は時間割と教科書の配布、軽いオリエンテーションが続いた。


 「さて、皆さんはこの後、部活紹介があります。体育館にそれぞれの部活のブースがありますから、気になる部活のブースには積極的に訪れて見てくださいね。うちは将棋の強豪なので将棋部に入る人が多いと思いますが、他の部活も見ておいて損はありませんよ」


 「おい、悠、うちの担任••••••」

 みんなが体育館に向かう中、相棒が悠のところに駆けてきた。

 「うん。早鳥翼だよね」


 「おん。見間違いかと思ったけど、絶対そうだよな。周りの奴は気づいてないみたいだけど」

 「僕まだびっくりしてる」


 「てか、早鳥翼が担任って普通にすごくないか?しかもチェス部の顧問だって」

 「チェス部なんてあったんだね」


 「チェス部のブースは絶対見ておかないとな」


 その後、サッカー部、野球部など、一通り人気の部活を見て回った。すると、一際大きいブースにたくさんの人が群がっているのが見える。


 「すんごいな、将棋部の人気」

 「うん。さすが強豪だね」

 自分もあの中の一人になるはずだったのだろう。もう訪れない未来に、未練はなかった。


 「あれっもう終わりだよな?チェス部のブースあったか?」

 「え?」


 悠と丈はもう一度体育館を見渡す。


 「丈ちゃん、あそこ!」

 体育館の壁際に、ひっそりと、「チェス部」と書かれたブースがあった。


 「いくっきゃねえな!」

 「うん」


 チェス部のブースに着くと、一人の少女が出迎えてくれた。

 「いらっしゃーい」


 その少女には見覚えがあった。今日の朝悠たちがストーカー(?)行為をしてしまった藤野先輩だ。彼女はチェス部員だったのか。そういえば、朝チラリと見えた彼女のスマホには、チェスの盤面が映っていた。きっとオンラインチェスゲームか何かだったのだろう。気になっていたが合点がいった。


 「あれ?君たち今朝の••••••」

 「今朝はすいませんでした」

 シュバっと音をたて、悠と丈は90度礼をする。


 「いいんだよ、二度も謝らなくて。あっもしや、私の輝かしいオーラに気づいてきちゃったの?気を使わなくていいのにー!」


 「あはは」

 丈が苦笑いする。


 「あの、僕たち、チェスをやりたいんです!」

 すると、先輩の目が少し見開かれた。


 「塚原くーん!有望株きた!」

 先輩が呼びかけると、他の先輩が反応した。

 「マジで!」


 「そう、この子たち、ちゃんとチェスに興味持ってくれたんですよー」

 塚原くん、と呼ばれた先輩は純朴な雰囲気の草食系男子、と言った感じの人だったが、彼は悠たちを見るなり目をキラキラと少年のように輝かせた。


 「もう、うちに入りたい子なんて、翼っち目当てばっかですぐ辞めちゃいそうだし、今年は入部者ゼロかと思ってたよー」


 FIDEマスターを、翼っちなんて呼んでいいの••••••?


 「じゃあとりあえず君たちは、体験に来るように!明日、放課後多目的室Aで待ってるよー」

 「「ありがとうございます!」」


 チェス部に入れば、もっと強くなれる。きっと、中学生活は輝かしいものになるはずだ!


 


 


 


 

 


 



 


 

 

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