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第二局 悠、中学生になる

 悠は「永澤家之墓」と書かれた墓に線香をあげ、合掌した。

 「お久しぶりです、父さん。今までお墓参りに行ってなくてごめんなさい。中学生になったんで、制服姿お見せしたくて。あんたが勧めてた将棋の強豪校ですよ。ま、将棋はやめましたけど」


 悠の表情が曇る。

 「父さんは生前、僕のことを全く気にかけてくれませんでしたね。僕はこれでも父さんの気を引きたくて、将棋頑張ってたんですよ。努力も虚しかったですけど。ねえ、父さん、僕のこと、どう思ってましたか、なんで僕をみてくれなかったんですか?」


 気づいたら大粒の涙がボロボロ流れてくる。もう、父の死を受け入れられたと思ったのに、それでも、愛してほしかった日々を思い出すと悲しくて、どうして愛してくれなかったのだろうと沸々と怒りが湧いてきて、ぐるぐるとした気持ちを抑えられなかった。


 しばらくして落ち着くと、悠は墓石を撫でながら挑発的に、愛憎に満ちた目で言う。

 

 「僕はあんたが死ぬほど嫌ってたチェスで最強になる。それが僕の復讐だから」


 悠は踵を返し、墓地を歩きながらつぶやく。

 「もし僕が最強になっても、地獄で「俺の息子だ」って触れ回らないでくださいね」



 「うおおおおお!丈ちゃん似合ってるじゃん!」

 中学の制服に身を包んだ丈がくるりと一回転する。

 「おうよ!これで晴れて中学生だな!」


 「受験の時は『落ちた••••••』って言ってたのに受かってたの奇跡だね!」

 「うるせえ!」

 「あいたっ」

 丈が悠にゲンコツを落とす。意外と効くのでなかなか痛い。


 2年前、悠が父の勧めで中高一貫の将棋の強豪校、柊成学園を受験すると相棒こと丈に伝えると、「俺も悠と同じ学校に行く!」と言って猛勉強を始め、二年間で偏差値を十上げた。


 しかし偏差値が十上がったところで柊成学園の偏差値には届かず、チャレンジ受験となったが、奇跡的に合格した。合格がわかると、「これで悠と同じ学校に行けるよおおー」と泣いて喜んでいた。可愛い奴である。


 中学受験から入学までは、父の死、将棋をやめる、卒業式、いろいろあったけど、無事入学できてよかったな。


 「てか、お前、制服ブカブカじゃねえか。萌え袖かよ。プププッー」

 「そ、それは、母さんが、これからもっとデカくなるから大きめにしろって言ったからだよ!」


 「俺と同じMサイズなのになー。おかしいなー」

 「おい、身長のこと言うな!僕は早生まれなんだぞ!」


 そんなこんなでじゃれあっていると駅に着いた。

 「で、ここからどう行くんだ?」

 「わかんない」


 「なんでわかんねえんだよ!俺は悠が行き方知ってると思ってたぞ!」

 「僕も丈ちゃんが分かってるんだと思ってたしー!」


 「あっ!あの女の人の服、僕達と同じ制服じゃないか?」

 「うん?ほんとじゃねえか!あの人についていけば、学校に行けるな!」

 「見失っちゃう前に、追わないと!」


 満員電車がこんなに混んでるなんて聞いてない!満員電車の中で、悠は一人不満を垂れる。は、吐きそう••••••。人混みが苦手な悠はなんとか口を押さえる。


 あの女の人は、悠と丈の二メートルほど先にいた。背中を向けているので顔は見えないが、スマホをいじっているのが分かった。


 こんな混んでる車内で、よくスマホいじれる体力あるな、と思ってなんとなく隣の丈を見ると、寝ていた。逆にこの狭さが相棒をリラックスさせたのかもしれない。


 「次は〜目黒〜目黒でございます〜」というアナウンスが聞こえると女の人がさっと動き出した。この駅で乗り換えるのか?


 「丈ちゃん、起きて起きて」

 「ん、んえ?」

 「そろそろ降りるっぽい」

 

 その時、チラッと彼女のスマホの画面が見えた。白と黒に塗り分けられた盤と、たくさんの特徴的な駒。あれは、チェス?


 気を取られていたら、降りるのを忘れそうになった。まずい!

 「すいません、降ります!すいません!」

 丈と一緒に人をかき分けていると、車内から舌打ちが聞こえた。


 ひええーーーー!!!。満員電車、怖い!え?これから毎日これに乗るの?


 「おい、悠、行くぞ!あの人行っちまう!」

 まずいまずい。悠は慌てて後を追った。


 その後、あの人についていきながらもう一度乗り換え、学校の最寄駅の改札を通過した時だった。あの女の人が振り返る。下ろされたツヤツヤした黒髪から想像はしていたが、すっきりと整った顔立ちをしている。年齢は僕より少し上くらいかな。


 「ねえ、さっきから、私のことつけてきてない?」

 彼女は首を傾げながら僕達をねめつける。しまった!今までの僕達の行為はどう見てもストーカーだ!同じ学校で道順は同じとはいえ、後ろからピッタリくっついてきたので、流石に怪しまれてしまった。


 「す、すみません!俺達、一年生でまだ行き方が分かってなくて、同じ制服の先輩がいたのでついてきてしまって!」

 相棒が弁明してくれた。


 「ああ、そう言うことだったんだー。いやー不審者か私のファンかと思ったよー。一年生かー可愛いなぁ。そうなら言ってくれればよかったのにー。道案内なんていくらでもしますよー。そういえば、どこからついてきてたのー?」


 「実は••••••最寄駅からです••••••」

 悠は罰が悪そうにいう。

 「へー、じゃあご近所さんなんだ!よろしくー。二人とも、学校まで一緒に行こうねー」


 「そういえば、今日は入学式だから先輩は学校行かなくていい日ですよね?」

 学校に向かっている道中で相棒が尋ねる。

 「私は、入学式の後の部活勧誘会に出るから来たんだー」


 「先輩はなんの部活なんですか?」

 「えー、内緒ー!だって、教えちゃったらうちのブースに行かなきゃ、て思っちゃうでしょ?」


 「担任の先生もわかるんでしょ?楽しみだねー」

 「どの先生が人気、とかってありますか?」

 「そうだなー。高橋先生あたりかな。古典の先生だよ。あと、岡部先生っていう現代文の先生は地雷だから注意したほうがいい。」


 「もうついちゃったね。私、藤野麗っていうから!バイバーイ」

 「ありがとうございました!」

 悠と丈が同時に90度の礼をする。


 「よし、これから俺たちの薔薇色の中学生活スタートだ!」

 「おー!」

 


 



 



 

 


 


 

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