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「ナード、ナード?」
私の隣にいる騎士の格好をした男に声をかける。
「はい。リファ様」
私の声掛けにニコリともせず返事をするこの無愛想な男は私の専属騎士。
「どうかしら?」
くるりと回りドレスがひらりと広がる。
落ち着いた深緑に濃い紺のレースをあしらったフリルのドレスだ。
「美しいです。本当にお嬢様は胸以外は完璧でございます。」
そうナードに指摘され私はむくれる。
「なんですってー?!不敬罪よ不敬罪!」
そう言って私は小さな胸に手を当てる。
もっと胸が大きかったらいいのにと思いながら私はこのささやかな胸に少し悲しくなる。
「イルエルみたいに胸が大きかったらなぁ」
私の専属メイドを見て言う。
「そんなことございませんよ。お嬢様はそのままが1番美しいですよ。」
そうイルエルが言い、それに続けてナードが言う。
「そうですね、胸が大きくなったらそれはお嬢様では無くなってしまいます」
私はすぐさま叫ぶ。
「胸が大きくなったら私じゃないってどういうこと?!胸が大きくなっても私でしょ!?」
その会話にイルエルは笑う。
「さぁ、もうお時間ですよ。そろそろ向かわないとですよ」
イルエルが時計を見て言う。
気づけばもう屋敷を出る時間だった。私は急いで真っ黒のレースがかったリボンをイルエルに頼み、リボンを持ってきたイルエルが私の目につける。
「お嬢様大丈夫ですか?光が入ってませんか?」
そう問われ私は頷く。
そして出ようとしたタイミングで扉がコンコンと叩かれ開けられる。
「準備は出来たか?」
この声は父だ。
「ええ。お父様がもう少し早く来てくれたら今日のお姿見られたのに」
残念に思い呟く。
父は私にとってかっこよくて、沢山の人から信頼もされてて、私の憧れであり自慢の父だ。
もうリボンをしてしまった為父の姿が見えず、尚且つもう出る時間なので解いて結び直す時間などない。
私は父の姿を見ることを諦め、手を差し出す。
「一緒に帰って来た時に見れるといいのですけれど」
不貞腐れたように言う私に父はふっと笑って、私が差し出した手を握った。
「私も君がリボンを外した姿も見たいさ」
帰ってきた時に見れるといいんだが、と父も私の顔を見たいらしい。
「でも今日のドレスも素敵でしょう?リボンもドレスに合わせてレースを使ってますの」
そう言って父の方に首を傾げた。
「ああ、よく似合っている。アイリに似てとても美しい」
そう言って微笑む父に、「褒めるのが遅いですわ」と笑いかける。
アイリとは私の母だ。
私の家には母はもういない。
私を産んで少しして亡くなった。
母との思い出は殆どない。
でも、父は毎回母の話をする時に辛そうに、でも幸せそうに話す。
私にとって敬愛する父が愛した母も凄い人なのだろうと思う。
絵の中の母は綺麗で穏やかに笑ってて、まるで妖精みたいだった。
父と母とは違う髪色。最初は親族たちに不義の子ではと驚かれたが、瞳も色素が薄いが父の瞳の色を受け継いだこと、そしてまつ毛や眉毛までもが白いことから私はとても珍しいアルビノだと医者が判断した。
そして、外への外出は制限され、どこへ行くにも露出は許されない。そして目は特に気をつけなければいけなかった。
眩いパーティーには必ずリボンをつけて光を閉ざすこと、ドレスも袖があり、首元まで隠すもの。
沢山の制限があった。
唯一たまに自分が着たい、肩が露出する美しいマーメイドドレスは、少しの時間、家での着用のみで、それを着てどこかへ出かけるなんて許されなかった。
エスコートされながらそんなことを思っていたら、馬車の前に着いたらしく、ナードが私に声をかける。
「失礼致します」
そう言われると父の手が離れ、代わりにナードが私の手を握った。
そして父が先に馬車に乗り、そしてまた私の手をナードから父は受け取る。
そして私はゆっくり支えられながら馬車に乗り込んだ。
そしてあっという間に馬車が会場に着いたらしく、止まると父は私の手を握り、馬車を降りる。
そして私も馬車を降り、そのまま2人で会場に入った。
「カーリクス伯爵と、カーリクスご令嬢のご入場です」
入り口の門番が声をあげる。
そしてその声の後私たちは入場した。
「リファ、気をつけなさい。階段だ」
そう言って父は私の腕を取り、ゆっくりと降りてくれる。
そして降りきったところですぐ沢山の声がかけられる。そして暫く挨拶が続いた。
「カーリクス伯爵、リファ嬢こんばんは」
そう言うこの声はノロウェイ公爵の声だ。
「こんばんは、ノロウェイ公爵様」
そう言ってカーテシーをして挨拶をして、告げる。
「少し失礼致します。」
そう言って、私はナードを呼ぶ。
そして私は手を差し出したら添えられた手にびっくりする。
「え?!」
ナードの手だと思ったが違う人の手の感触で、私は咄嗟に手を引っ込めた。
「失礼。やはりバレますか。こんばんは、僕はハリー.ノロウェイ。もしよろしければ僕にエスコートをさせていただけませんか?」
そう言われて私は一瞬戸惑うも、近くにいる父が何も言わないことから、父も私とこの人が一緒に行くことを望んでいるのだ。そして父が何も言わないということはきっとついて行って大丈夫なのだろう。
「えぇ、と、私はリファ.カーリクスと申します。エスコートをお願いするわ」
そう言って再度手を差し出すと、先ほどの手が私の手を握った。
そしてそのまま手を引かれながら歩く。
「どちらに行かれますか?」
そう問われ私は壁の方へ連れてってとお願いをした。
足音を聞く限り、エスコートはハリー様がしてくれているが、もう一つの足音が近くにしており、この足音を私が間違えるはずがない。
きっとナードも付いてきてくれているのだろう。
「ハリー様はノロウェイ公爵様から色々と聞いていましたが隣国に行かれているのではありませんか?」
そう声をかけると、
「隣国にいたのですが訳あって帰国したのです」
そう言われ、私は首を傾げた。
「自国にずっと帰ってこなかったあなたが帰国するなんてよっぽどのことなのですね」
そう言うと、彼はふっと笑い、私に言う。
「あなたの婚約者になるために帰国しました」
そう言われて私は耳を疑った。
彼は幼少期より魔法に夢中で、自国より隣国の方が魔法に詳しく、発展しているため、隣国へ留学したっきり居着いて帰ってこないと公爵様が言っていたのだが。
「....私は隣国に行くつもりもなければ、婚約者なんてまだ考えておりませんわ」
やんわりお断りをするが
「いえ、もう隣国には戻りません。知りたいことは知れましたし、隣国で学んだ知識を今度は自国のために、というかあなたのために使います。」
そう言われて私は戸惑う。
「なに、言って....」
私は確かにもうそろそろ結婚をしてもおかしくない年になる。
というか婚約者がいてもおかしくない年齢だ。
それでもいないのは私の心の問題と、父に甘えているからだ。
「父にはこの話を...?」
そう聞くとハリーは頷いて、
「一番初めに直談判させていただきました」
それを聞き私は驚く。
ここにきて父から話されていない、私に教えてくれていない話をされて私は戸惑う。
「父はなんで言っていましたか...?」
信じられないけれど、今日の父の行動で私はなんとなく気づいていた。
「貴方が承諾するならと」
そう言われて私は信じられないと目を見開く。
今までの縁談は父は問答無用に押し返して、一度も婚約の話なんてなかったのに。
「そう....ですか」
父はこの人のエスコートに口出ししなかったどころか、縁談の話を初めて娘に託した。それは父は私がこの人と婚約して欲しいと思ってるからってこと?
「返事はすぐとは言いません。考えていただけたらと思います。」
エスコートさせていただき光栄でした。
そう言って彼は会場へと戻って行った。




