あいしょくしましょう
「中條さん好きです付き合ってください!!」
退屈だ。色がない、灰色で、意識は上の空、そんな何もない人生を歩んできたからビビっときた、この人は愛してくれる、欲しいものをくれるって。
その言葉をうけて私の視界は鮮やかに光るような、そんな感じがした。比喩なんかじゃない、本当にそんな気がしたんだ。
「木村さん私で良いの?」
嬉しい、そう感じた。相手のことは、知り合い程度だったはずなのに、好きじゃないはずなのに嬉しい。
「うん中条さんじゃないとダメ……私、中条さんのことずっと前から好きだったの!」
「ありがとう、うん、良いよ付き合おう」
そう言うと木村さんは、今までに見たことのない満面の笑みになった。
「ありがとう大好き」
「うお!?」
そのまま幸せそうな、木村さんが抱きついてきた。
「私今すっごく幸せ、中条さん大好き!!」
「うん私も」
口が勝手に動いてしまった、嘘になるのかなこれ?でも木村さんが嬉しそうだし良いか。
「木村さんのこと名前で呼んで良い?」
「良いよ」
「やったー!!︎︎それじゃあ心愛ちゃんも私のこと名前で呼んで」
「…良いよ美月」
「うっ//」
私がそう言うと自分から言わせたのに、美月は顔を赤らめていた。前から分かってたけど、ほんとに良く顔を変える子だな。
「これからよろしくね心優ちゃん」
「あーん♡」
「ん、おいしいよ」
付き合って1ヶ月、最近は美月とばっかり一緒にいる。前までは一人がよかったはずなのに。今も美月の女の子らしいメルヘンな部屋で二人きりだ。
「心優ちゃんもしてくれる?」
「わかった」
「じゃ、して」
美月はそう言うと無防備に大きく口を開ける。
「はい、あーん」
「ん」
美月が食べる姿はまるでハムスター見たいで、庇護欲を掻き立てられる。
「おいしいよ心優ちゃんパワーだね!!」
なぜだか美月はこうして、いっつも私をおだててくる。恥ずかしい反面やはり、そこには嬉しさが確かに存在した。最近は自分でも分かるほど美月に惹かれてしまっている。
「そんなことないよ」
気恥ずかしく、いつも否定してしまう。でもそうすると美月はいつも、怖いほどに私を褒めてくれる。それが心地良い。
「そんなことあるよ私にとって心優ちゃんは神より、有り難くて、大好きで、大事な、そんな存在なんだよ!!」
「私そんなすごくないよ」
「凄いから。そんな心優ちゃんのことが好きなんだよ」
このまま反論してもループしそうだな。
「……ありがとう。それとさ前から気になってたんだけどどうして私のことを好いてくれたの?」
これは前から気になっていた疑問だ。美月とは確かに付き合う前から、よくしゃべったりしていたが、そんな気はなかったように見えていた。それに私はだいぶ無愛想だったと思う。それなのに好きになってくれたのはなぜか、気にならないほうがおかしい。
「うーん、なんか改めて言うのは少し恥ずかしいね」
「いや言いたくないなら言わなくて良いんだけどさ」
「ううん私は心優ちゃんに好きを伝えたいの、だから忘れてることを思い出してあの時を」
「あの時?」
「私と心優ちゃんが、離ればなれになった日、その日私は心優ちゃんのことが好きだって気づいたの」
――――――
︎︎心愛ちゃん、私はね幼稚園の頃は知らない周りに人に話しかけるのは無理で、なかなか周りに馴染めなかったの。そしてそんな私に、諦めが悪いのかしつこく話しかけてくれたのが心優ちゃんなんだよ。
「ねえ何やってるの?」
「え、えーと…熊さん書いてるの」
「へー可愛いねこの熊さん」
「あ、あり……がとう」
そんな会話が私と心優ちゃんの出会いだったの。それから心優ちゃんは、なぜか私に話続けてくれた。そして心優ちゃんは今と違って明るくて、そんな心優ちゃんにつられて私まで明るくてなっていったんだ。
そして仲良くなっていたある日、別れはやって来たんだよ。どうやら心優ちゃんは引っ越しをして、それに合わせて別の幼稚園に行くらしかった。そしてそれを知る一ヶ月前くらいから心優ちゃんはやけに暗くなっていた。
「心優ちゃん居なくなっちゃうの?」
「うん」
「どうしていなくなっちゃうの?」
「親戚の人のお家で暮らすことになったの」
「そうなんだ」
そしてそれからは、暗くなっていた心優ちゃんに一方的に話しかけていた気がする。
そしてその翌日に心優ちゃんは居なくなった。昨日までは気づかなかった心の底からの悲しみ、嘆き、そんな感情が徐々に沸いてきたの。それで気づいたんだ私って心優ちゃんのことが好きだって。
だから嬉しかった高校で心優ちゃんが居たことが。でも私のことは忘れてるし、何なら暗いまんまだし、でもそれでも心優ちゃんのことが好きで好きでたまらなかった。
でも私に振り向いてくれなくて、もう自暴自棄になってたのかな、ダメ元で告白したら上手くいったの。
私が心優ちゃんのことが好きになって、告白した経緯はこんな感じかな?
――――――
「思い出してくれた?」
「ご、ごめん……全然というか幼稚園のことは全然覚えてなくて」
私は昔の記憶が曖昧だ。多分だけど昔にお母さんとお父さんを亡くしたのが引き金だと思う。それでも美月にとって大切な思い出を、忘れるのは申し訳ないな。
「まあ、そうだよね、こんな前のこと覚えてるわけないよね」
「覚えてなくてごめんね」
「それはもう良いよ、今度はさ心優ちゃんに聞きたいんだけどさどうして付き合ってくれたの?そんな気はないと思ってたんだけどさ」
何て言えば良いんだろうか。
「告白が嬉しかった…それだけなんだけど」
「ふーん私のことが好きとかじゃなかったんだ」
「ごめん自分で言ってても思う、不誠実だって」
「まあ良いよ心優ちゃんを惚れさせる機会は沢山あるんだし
、絶対私のこと好きにさせるから」
悲しいはずなのに憂いのない、太陽のような笑顔で告げる彼女の姿は輝いていた。
「悲しくないの?」
「何が?」
美月は本当に分かっていないように、ポカンとしていた。
「えっと、何もないなら良いんだけど……」
「ただいま……」
家に帰っても誰もいない、でも何故かただいまは言いたくなる。帰ってもやることはない、でも最近は美月と通話をよくしている。最近は美月が近くにいる生活が当たり前になってきた。その当たり前が心地良い、そう感じている。これが好きってことなのかよく分からないけど。美月のこと好きになりたい、そんな心になってきた。
「みーゆーちゃーん好きー」
そう言いながら美月が抱きついてくる。最近の美月は積極的だ、多分意識させようとしているのだろう。そんな姿が愛らしく感じる。
「美月ここ学校だよ?」
さすがに学校では、普段あんまりいちゃついてはいない。
「関係ある?心優ちゃんパワーが足りてないんだよ」
「うーんまあ良いけど」
美月に触れられると少なからず、ドキドキする自分がいる。
「今日も一緒に帰ろ」
そう美月からの提案があった。最近は美月の部活がない日は、一緒に帰っている。
「良いよ」
「やったー!!じゃあ下駄箱集合ね」
そう私が言うといつもどうり喜ぶその姿を見ていると、初めて了承したかのように錯覚してしまう。
「分かった」
放課後になり、下駄箱に行くと既に美月はいた。
「心優ちゃんその、ごめん急用が出来て少し待ってくれる?」
美月からそんなことを言われるのは初めてだった。
「別に良いよ」
「ごめんねそれじゃ少ししたら帰ってくるから」
その後ろ姿を見ていたら、足が動き出してしまった。なにか嫌な予感がする、気になる、ただそれだけだ。人をつける理由としては不十分だろうか?でも私はそれだけで十分理由になると思う。
美月は急ぎ足で屋上に入っていった。私は扉の隙間から覗き見をする。
「渚ちゃん大事な話ってなに?」
「その、私木村先輩のこと好きで、だから、付き合ってください」
私が見たものは告白だった。……なんだろうこのモヤモヤ。嫌だって、人に盗られたくない、そういった欲。独占欲?らしいものが沸いてくる、どんどん心を侵食していく感情。その時私は気づいた、美月のことがとっくに好きになってたんだって。そうじゃないとこの気持ちは説明がつかない。
私はいてもたってもいられなくなり、その場から逃げ出した。
私は、モヤモヤして、初めてでよく分からない独占欲らしき気持ちを抱て、美月を下駄箱で待っていた。
「心優ちゃん少し待たせたかな」
「……いやそれは良いけど、今日さ美月の家行って良い?」
無意識にそんなことを聞いていた。
「え、良いけど心優ちゃんからそんなこと言ってくれるの嬉しいな!!」
それから他愛のない話をしながら心優ちゃんの家にいった。その最中も、隠してはいたがずっとモヤモヤが残り続けていた。
美月の女の子らしい部屋に入ったときに、私は爆発した。
「え心優ちゃんちょまっ、んん//」
私は美月を押し倒し、可愛らしい唇に、私の唇を重ねた。
「ん、ごめん美月私気付いたの自分の気持ちに」
私はとっくの昔に美月のことを好きだった。ただその事に気付いてなかっただけ。気付いた今は、自分だけを見て、好きを伝えたい、もっと相手を知りたい、自分を知ってほしい、そんな欲求にまみれている。
「そ、それって」
美月は不安半分、喜び半部といったような顔をしている。
「私美月のこと好き」
そう言いながら私たちは更に唇を重ねた。
それから唇を重ねたり、抱き合ったりして、私たちは愛し合った。
「心優ちゃん大好き」
色々落ち着き、美月からの嬉しい言葉が耳に投げ掛けられた。
「私も、美月が大好き」
最初の1回以降は返せなかった、いや返さなかった言葉を、美月に返す。そうすると美月は、私が好きな太陽のような笑顔を浮かべた。
「えへへ、その言葉ずっと欲しかったありがとう」
こんなに言葉を伝えても、言葉もらったりしても、私の憂いはなくならい。嬉しいし、悲しい、そんなチグハグな心に私はなっていた。
……確かめたい本当に、私のこと愛してるのか。好きなのは分かってる。でも私を一生愛してくれるのかそれが知りたい。そんな欲望を晴らすために、喜んでいる美月に私は聞く。
「美月は私のことすてない?」
美月はよく分からないといった顔をしていた。聞き方を間違えたかもしれない。
「えーと、心菜ちゃんの言ってる意味が分からないというかなんというか」
「私を一生愛してくれるのかそう私は聞いてるの」
「今は心優ちゃんのこと一生愛したいと思ってる」
それだけじゃ、それだけじゃ足りない。もっと何か私から離れない証拠がほしい。
「何か言葉だけじゃなくて形で何かほしいよ」
「キスとかじゃダメ?」
ダメだ、それじゃ私に縛り付けれない。
「ダメ、例えば他の女の連絡先消すとか覚悟を感じたいの」
我ながら少し重いだろうか、でももうこの言葉は取り消せない。
「ちょっと、それは少し無理があるというか」
「私のこと安心させる何かがほしいの美月が可愛いから誰かにとられるんじゃって気が気じゃないの」
「じ、じゃあ位置情報共有するとかじゃダメ、かな?」
「……分かった今はそれで我慢する」
これ以上言っても嫌われるような気がする。まあもう遅い気もしないが。今は位置情報だけで我慢しよう。そうすれば何処にいるのか、何してるのかがある程度わかるだろう。
「それと不安にさせてごめん、もっと愛伝わるようにするから」
「その、私もごめん不安で不安で暴走してめんどくさかったよね」
ああ、こんなこと聞くところも面倒くさい。でも分かってても口に出る。
「美月!?」
美月が突然キスをしてくる。
「そんなことないから、不安になったら言ってね!!︎︎私が受け止めるから」
そんなこと言わないでほしい。もっともっと欲が、醜いものが強くなる。
そしてまた私と美月は愛を確かめあった。
それから私の独占欲はどんどん強くなる一方だった。ある時には、他の女と話すな。そしてある時には、もっと早く電話に出て。自分でも面倒だと思う。でもそう思っても止められない、美月に甘えてしまう、ほんとに全てを美月は受け止めてくれた。だからもっともっともっと欲は強くなる。
そんなときだった美月から、大事な話があると放課後に呼び出されたのだ。何があるのか、私は別れ話という可能性が頭をよぎって、気が気じゃなかった。そして放課後という来ないでほしい答え合わせの時間がやって来た。
「心優ちゃん」
屋上に行くと既に美月はそこにいた。
「美月大事な話ってなに?」
「その最近の心優ちゃんは少し度が過ぎると思うの」
ああ、やっぱりだ、その先を言わないで欲しい。
「だから一旦別れてさ頭を冷やしてほしいの」
危惧していたことがやっぱり起こった。
「どうして、ねぇどうして!!私のこと嫌いになったの?やっぱり面倒だったんだね」
「落ち着いて、心優ちゃんのことはまだ好き、嫌いになれない」
どうして……どうして……どうして、どうして、どうして!!どうして!!どうして!!どうして!!どうして!!どうして!!どうして!!どうして!!どうして!!どうして!!どうして!!どうして!!どうして!!どうして……どうして………………
「だったら別れるなんて言わないでよ!!」
私がそう怒鳴ったら、少し美月は怯えてしまった。そんなに怯えさせるつもりはなかったのに。こういうところだろうか、頭を冷やせと言うのは。
「だって、昨日なんて連絡先全部消して聞かないなら私を殺して自分も死ぬだなんて、落ち着かせることは出来たけど怖いんだよ心優ちゃんを犯罪者にするのが」
過去の自分を殴りたい。別れたくないと暴れたい気分を押さえ、私は一つのことを考える。私がまだ好きなら使える、その作戦を。
「分かった美月がそういうなら別れるよ」
そう言い私は屋上を去る。
「え、やけに心優ちゃん素直だな」
それから、数日私は美月に避けられ続ける地獄を日々を過ごしていた。最初と、美月と付き合う前と何ら変わらない。だけど何かが絶望的に足りない。そんな生活をしていた。もう我慢しないでいいよね、少し時間を空けようと思ったけど。私にはこんな餓死しそうな、私が私じゃ無くなりそうな日々は耐えられないや。
私は美月の下駄箱に【放課後屋上に来てください】そう書いた手紙をいれた。美月は多分こういった類いのものを、無視するのが無理な人種だ。
屋上で待っていると美月が入ってきた。入ってきて早々、心底驚いただろう。私がいたことにも、私がいる場所にも。このフェンスを乗り越えた先の、あと一歩進めば取り返しのつかない事になる場所に。
「心優ちゃん何してるの!!」
ああ、私を見てくれる、心配してくれる。それだけで心地いい、飢えが満たされる。
「何をしてるか?簡単だよ死ぬ現場を美月に見てほしいの。そしてずっと私に囚われてほしいの」
私は笑顔でそう告げる。
「やめて死なないで別れ話のことなら謝るから、また付き合うからそんなことしないで」
美月の顔には涙が浮かんでいた。ああ、幸せだ、でもまだ足りたない満たされない。
「それだけじゃ足りないよそのぐらいじゃまた別れるとか言い出すでしょ美月」
そう言いながら、足を進めようとする。
「連絡先全部消す心優ちゃんの言うこと全部聞くだからやめて死なないで」
そう泣きじゃくりながら、でもしっかり言葉を紡ぎ私に伝えてくる美月は、とても惨めだ。でも始めてみる姿、本当に美月はよく顔を変える子だな、そういう所が良い。
「本当?」
私は少し嬉しそうな顔を浮かべる。これはもちろんふりだ。
「うんだから生きて、私に心優ちゃんを殺させないで」
とっても高揚する言葉。ああ、これでもう完全に私に依存した。
「分かった、ごめんね。こんなことしようとしても、私をそんなに想ってくれてありがとう、美月大好きだよ」
そう言いながら惨めな、美月に歩いて近づき。キスとハグをした。
「もう捨てないからこんなことしないで」
あのときと真逆だ。美月が惨めに私にすがる。
「分かった美月がほんとにそうしてくれるなら私もこんなこともうしない」
「うん」
そう言う美月に、更にキスをした。もうこれで私への愛は、私の欲しいものは、食料は満たされた。満腹だよ、ありがとう、美月。
これからも一緒だよ。いつまでも、死ぬまでも。