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第13話 「別人だとしても」

 夢か疑った。

 眼前の景色を現実として捉える事はとても難しかったのだ。

 その結果、オレは無我夢中で走っていた。息が切れるまで、逃げるように。


「ホルンが生きてる?」


 そんなのおかしい。

 シルでホルンは死んだのだ。

 でも、その瞬間を、その現場を見たのか。

 そう見ていない。

 飛び出た根っこに躓き、腕を擦って倒れてしまう。

 いや、分かってるさ。

 あの人は、ホルンじゃない。

 TRが一緒だからとか、顔が似てるからとかそんな理由では流されない。

 あの娘は、ホルンとは違うと脳が告げている。

 第一ホルンならば試験前にオレへ会いに来るだろう。

 それも分かってる。

 だけど、もう一度逢いたいから。信じて見たくなってしまう。

 これじゃ真面に戦えやしない。

 ああ、一番倒せない相手が試験に居る事を身に染みて感じてしまったのだった。




 急ぎ早に目標の北端の村へ移動したのは、試験に集中し動揺する心を鎮めるためだった。

 色々誤算が生じたため、一番乗りではなかったようだが、疎らにしか受験者は見られない。計画に支障はなさそうだな、と一息つく。

 外観は、特に変わった所のないごく普通の村であり、柵で囲まれていない場所が出入り口らしかった。

 模擬の村が七か所あるこの試験で、スタート地点から最も遠い北端の村は、造りも諸々手を抜かれていると思っていたが、その考えは短絡的だった。

 横に出店が並ぶ一本道は、何とも壮観だった。過疎すると分かっていながら、細部まで拘っているのは学校の意地と矜持によるものか、はたまた光翼団の権威を示すものか。

 いらっしゃいと、手招く店員を余所にオレは武器屋を探す。それは、オレの任務によるもの。

 四つ折りにされた紙を広げて見た所、そこには『騎士の剣を手に入れろ』と書いてあった。釈然としない内容に頭を抱えたオレは、村の武器屋に当たってみようとそう考え、村へ立ち寄った訳だ。


「兄ちゃん、何を探してんだ?」


 再度思考に耽るオレに、助けを出してくれたのは髭の生やした中年男性。

 屋台に佇む彼の後ろには、剣やら弓やら様々な武器が並んでいる。


「あ、武器屋だ」

「そうだぜ、何でも売ってるぞ」

「じゃあ『騎士の剣』はありますか?」

「『騎士の剣』? そりゃうちじゃ扱ってねえな」


 なんだよ、と肩を落とすオレを見かねたのか、男は慌てて言葉を繋いだ。


「だがな、鍛冶屋なら要望に応えてくれるぜ」

「ホントですか! どこにあるんでしょうか?」


 頬を人差し指で掻く男は、視線を逸らした。


「あー、残念ながらこの村にはねえな……」

「どこの村なら鍛冶屋があるんですかね」

「南端の村だ」


 なんだよ、とまた肩を落としてしまう。

 いや、最悪だ。よりによって一番遠い場所にあるなんて。

 頑張れよ、と励ましの言葉を貰うオレだったが、返せる余裕はなかった。

 任務は最重要事項だ。遂行しなければ、どれだけ点数を稼いでも意味がない。だが、ここで焦るのも禁物。始まりの地からここまで来るに正午を回らなかった。だとするなら、南端まで最低でも一日。試験は、最大で三日目の日の入りなのだし、そこまで焦る必要もないか。

 考えはまとまった。

 今からは、宝石を集める作業に……いや忘れていた。

 急いで武器屋に戻ったオレは、


「刀はいくらですか?」


 とそう聞くのだった。




 鞘から少し抜いて見せた刀身は、綺麗な灰色を纏っている。予想以上の代物に口角が上がってしまっていたが、叩いた宝石の数で現実に戻される。

 刀の値段は、四つの宝石。最悪を見積もって三つだと考えていたので、痛手の出費となってしまった。

 だが、オレはこの一年間で剣技を中心に鍛え上げた。負けて全宝石奪われるよりマシだろうと、そう何度も頷いて心を保っている。

 腰に差した刀を白き外套で隠したオレは、目の前の光景に嘆息を零す。


「村から出たければ、三つの宝石を払いな」


 それは、一人の男の子が通り抜けようとした時に放たれた言葉。

 自身の刀よりも数段階安っぽい剣を持った受験者が四人、ひ弱な男の子に詰め寄った。入口にたむろする彼らの企みは、蛮行極まりないが同時に感心もする。

 村では戦闘は禁止されている。行えば即失格となるため、受験者が一番恐れる行為だろう。それを彼らは逆手に取っているのだ。村の入り口付近、つまりは村の外に立つ彼らは戦闘が許可されている。しかし、村にいる我らはどうだ。こちらから戦闘は起こせず、不可解な行動を取れば先に失格対象にもなる。これにより、正義や偽善で危険を冒す者は居らず、抵抗の余地もなく宝石を渡す羽目になるのだ。


「宝石は持っていません……先程戦いに負けて奪われた所です! 本当です!」

「そうか、それは可哀そうだ。どうする?」

「頭に何て言われるか分かんねえしな」


 必死に弁解する少年を見定め、彼らは再考した。

 だが、結果は決まってる。


「じゃあ、失格してもらうしかないか」


 あのひ弱な少年は宝石を渡さなかった。当然と言えば当然。


「失格ってどうやって……」

「そりゃ動けないくらいにボコボ――」


 拳を握る男は飛ばされた。


「あ、ごめん」

「てめぇ何しやがる!」


 いや、飛ばしたが正解か。


「邪魔だった」

「ああ⁉」


 激昂する彼らは、倒れた一人以外がオレの前に立ち塞がる。


「なめてんのか?」

「どいてくれ」

「村から出たければ宝石を払えってさっき言ったよなぁ!」

「払ってある、そこ」


 顎を件の場所にしゃくる。目線の先、それは倒された男の胸の上、色とりどりの宝石が散在している。


「これは……」

「この子の分もだ、許してやってくれ」


 宝石の数は六つ。彼らが指定した一人の数は三つであるから、条件は満たしている。

 不満を顔に表した彼らだったが、結局オレ達を見逃してくれた。


「大丈夫か?」

「はい、ありがとうございます!」


 尻餅をつく少年の手を掴み、立ち上がらした。


「覚えておけよ、次会ったら容赦はしねえぞ」

「容赦しなくて結構」


 一歩目を踏み出した時、森の中で爆音と炎が舞い上がる。

 冷や汗が頬を伝い、衝撃によって外套が靡き、熱気によって心が揺らいだ。


「ジロックか……」


 ここを急いで離れた方がいいな。

 ジロック、今お前とは戦う時じゃない。

 お前は、序盤に戦っていい相手じゃないんだ。




 音は潜み、気配も無し。ようやく安堵のつける場所へ辿り着いたらしい。

 少年とは途中で別れたが、それでいいと思っている。試験に馴れ合いは無用、これは自分一人だけの戦いなのだから。

 今は、北端の村と始まりの地との中間地点。あまり進んではいないが、ここで一旦休憩しようとオレは考えた。疲労は十分溜まっているし、まだ一日目だ。無理も焦りも早すぎる。

 移動は静まり返った夜の方が安全であろうと、正午と日の入りの間の太陽を見て思う。

 川のせせらぎが聴こえ、視線を寄越すとやはりお腹は鳴ってしまった。節約のため、村では一切買わなかった食料。現地調達を目標に、キノコや山菜を集めていたのだが、やはり自身の欲に到底敵う事はない。

 川に足を飛び込ませ、魚の数と位置を確認。

 そして、ふと、思った。

 なぜオレは人間の数と位置が分かるのに、魚は分からないのかと。

 というか、なぜオレは人間の数と位置が分かるのか。

 レインには、その能力を誰にも明かすなと釘を刺された。その意図する所は、特別な能力であるから秘匿にしろと、ようはそういう事であろう。

 だが、疑問は深まるばかりだ。

 ぐうぅぅぅぅ。

 思考を巡らすその労力にまたもや腹が鳴ってしまう。

 今はいい、魚を食おう。

 そうと、【風式】を無造作に放ち、魚を陸に上がらせるのだった。


 洞窟の中。陽の光が無明に負けつつある時間、焚火の近くで座るオレは心を鎮める。まずは休息を取る事。魚を齧りながら、これからの作戦を立てた。

 ひとまず、今夜出来る限り南に移動し、二日目が終わる頃には鍛冶屋へ行きたい。何を要求されるか分からないため、宝石を多く略奪しながらの移動になるだろう。移動先には川や池などの水源があり、長時間の移動も可能な算段だ。

 あとは、予想外をどう対応するか。

 やはり、受験者にはこちらから望む場合でしか接触はしたくない。細心の注意を払う必要が常にある。

 気の抜けない試験だな、本当に。

 一言でいえば、サバイバル。

 水も食料も金も自分で確保しろと。

 これくらい団員なら全員こなすぞと、そう言わんばかりの試験。

 これを突破しなければ、光翼団への道をも踏ませてくれないのか。

 しかし、まあ、覚悟はしていた事だ。

 窮地を乗り越えるために、オレは強くなったんだ。

 そうゆっくりと瞼を閉じた。




 ズサァァァァン。

 

「なんだ⁉」

 

 木が薙ぎ倒される轟音と細かい物が当たる騒音が混ざり、オレの眠りを妨げた。

 肩に乗せていた刀を手に取り、頭と視覚で状況を把握する。人の気配は複数、誰か一人に大勢が追われているような配置。

 確実に強者がいる。

 手を着きつつ外の景色を覗いた。

 今は夜、しかしながら空で砂埃いや砂嵐が渦となって見える。

 あれほどの天術、受験者で可能とするはジロックしかいない。だが、奴は火式だ。瞳は土式を捉えている時点で、別人なのは確定。だとするならば、受験者ではない学校側の刺客と考えた方が良さそうだ。

 腰に刀を。

 オレには戦うしか選択はない。

 そうして、オレは地を蹴った。


 向かっている間には、動きがあるのは二人だけとなった。

 これは急がないとな。

 横柄に立ち尽くす砂嵐が目の前に。そして、気配も目前と来た。

 息を吐く。

 手に風を纏う。

 そして胸に置く。

 体全体で風を感じる様に。


「【巡鎧纏】」


 腕を顔の前に出し、砂嵐の中を走り抜く。

 視界が広がる先、黒髪の女性が背を向けて鷹揚と歩いていた。


「あれか」


 一気に距離を詰める。

 長い髪を機敏に動かした女は、驚愕した様子で振り向く。

 だが、もう遅い。

 跳躍したその力を足に集約し、飛び蹴りを行った。

 剣で一瞬防がれるも、出し惜しみせず【風式・改】を使って吹き飛ばす。それには彼女も無抵抗に風へ身を任していた。

 そして、触れた事で情報は頭に流れる。

 それには苦笑せざるを得ない。


「無事か?」


 襲われていた少年に駆け寄ると、尊敬と感謝の眼差しを向けられる。

 見覚えのある顔。


「あの時の少年!」

「に、二度も助けて下さりありがとうございます!」


 即座に頭を下げた彼は、先程村で絡まれていたひ弱な少年だった。


「良いんだよ、名前は?」

「グロードです」

「オレはライ」

「よろしくお願いします」

「それで勝算はあると思うか?」

「ごめんなさい、厳しいと思います」

「そうだよな、でも――」


 足音、気配共に物凄い速度で近づいてくる。

 己の刀と敵の剣が十字に交差した。

 オレは驚く、力量と剣技にではなくて。

 敵の姿に。


「骸骨⁉」

「何だ、こいつ! キモッ!」


 グロードの直接的な表現に笑いそうになるも、まじまじと観察すればそのような感想も出るだろう。

 全身の白い骨に、古い鎧を着た人間の姿をする化け物。言葉も発さず、剣だけを持った冷酷な騎士のような風格だ。


「【宿類(しゅくるい)】だろうな」


 白武と戦復と同じ揺灯付加術の一種。自身の使いを召喚する技。


「マジでだるいんだけど」


 そんな言葉を聞いた瞬間、骸骨は後方に引いた。

 そして、茂みから姿を現すは、黒髪を施した少女。服に付いた葉を払い落とす彼女は、余裕そのものを体現していた。

 空気が変わる。

 やはり先程感じた異様な雰囲気は、間違いじゃなかった。

 あの人、レインとほぼ同格。

 TRは、脅威の四十一。ジロックですら手に負えない領域。


「君、レインとこのだよね」


 鋭い目つきで口の端を吊り上げる。

 オレは刀を構え、警戒態勢を取った。


「まあ……そうですけど」

「飛び蹴りが似てると思った」

「貴方は何者なんですか? 受験者でここまで強い人はいない。学校側の刺客と思って良いんですか?」


 好戦に興味を示していなかったため、疑問を呈する。


「まあそんなところ、てか君強いね」


 回答は濁され、皮肉を口にされる。


「いや、貴方の方が強いでしょ……」

「名前はメディオーサ、私を倒したらあげるよ」


 何を、と問う必要はなかった。


「二人の任務で必要な物をね」


 ああ、なるほど。そのための『騎士の剣』か。てっきり不運かと思っていたが、案外そんな事もなさそうだ。


「グロード、本気を出せよ」

「本気って……」

「お前、TR二十以上あるよな」


 一瞬の間、息を零した彼は土式を発動する。精密なコントロールで作り上げたのは、茶色のナイフ。流石、TR二十五で受験者二位の実力者。


「ああ、分かったよ」

「良いね、面白くなってきたじゃん」


 三人と使いが同時に駆けたのは、強者の証明か。




 メディオーサは土式、風式のオレに分がある。

 だが、それを埋めるほどの実力差があってしまう。

 鍔迫り合いをしつつ、そう痛感した。

 横目でグロードと使いの戦いを眺めた。先程の感覚で言えば、使いですらオレと互角の強さ。この人はどれ程の実力を有しているんだ。


「よそ見しちゃってる」


 頭を狙う蹴りを後方に下がって避ける。続け様に剣を振るわれるが、刀で往なしていく。

 師匠との修行を想起した。


「なんか余裕そう」

「そんな事ないですよっ」


 言い終えた瞬間、【風式・改】を彼女に当てる。

 この一年間で、戦う間に済ませる事が出来るようになった【風式・改】は、使い勝手が増した。今のオレの十八番と言って良いだろう。

 身構えるが、無力にもメディオーサの足は地から離れる。

 宙は人の弱点を尽く晒し上げる。

 そして刀はいつでも準備が出来ていた。

 ならば今、オレの剣技を見せる時。

 巡鎧纏で向上した身体能力に、己の剣技を合わせた斬撃。


「〈()(じゅん)〉」


 高速に前方へ移動したオレは、彼女を切り裂いた。後ろを振り向けば、膝を付いて呼吸を整えている様子のメディオーサ。

 この技はレインにも通用した。受け切れないのも無理はない。


「風式の刀は痛いでしょう?」

「……痛いの無理」


 しかし、言動と行動が乖離しているように感じた。

 しかめるメディオーサは、仰々しく腹を押さえて立ち上がる。


「効いてない……?」

「いや、効いてるよ。ただ……まあ、私が特殊なだけ」


 構えなおせ。

 もう一度、見せてやればいい。


「それが本気?」


 愉悦を垣間見せつつ、傾げる彼女。


「チャンスはそう回ってこないけど」


 天に手を掲げる。天力の塊【揺灯】と【土式】が混ざり合って、砂が吹き荒れる。


「【(げん)(へん)】――【砂塵(さじん)】」

「クッ――!」


 前が全く見えない。

 気配を掴んで状況把握をしろ。


「えいっ!」

 頬に衝撃が走り、倒れた時に遅れて蹴られたのだと分かる。

 急いで起き上がって、【風式】を放つ。砂嵐は晴れたが、肝心のメディオーサの姿が確認できない。

 確かにここにいるはず……。頭がそう言っている。

 視界に影が映った。今は夜、影など現れないが。

 まさか、上。

 空を仰いだ。

 剣を掲げた彼女は、空から下降してきている。

 刀を横にし、頭の前に――頭上に構える。

 火花が散り、尋常のない力が自身に加わる。足が地面にのめり込み、筋肉が弾けそうな程の奮闘を見せるが、体は限界に近い。

 彼女は、どういう原理か、剣と刀を交らせつつ宙に佇む。ただ自身の力で足を地から離れるという人間離れ。

 いや、間に合った。

 【風式・改】が溜まった事で、安堵が零れる。

 しかし、メディオーサも不敵に笑った。

 彼女の手には【揺灯】、それは段々蒼く変色していく。


「おさき」


 それは、彼女の言葉。

 揺らぎが姿を形成していく。

 オレの【風式・改】を放つ前に、出来上がってしまう。

 ダメだ。

 ダメだ。

 ダメだ。

 終わる……。


「【宿類(しゅくるい)】――【骸骨(がいこつ)騎士(きし)】」


 使いは一体しか召喚出来ない。彼女もそれは同じはずだ。

 同じなんだ。

 骸骨騎士はグロードと戦っていたモノ。ただここへ強制移動しただけ。

 だが、それが今のオレにとっては『絶望』だった。

 上にはメディオーサ、前には使いの骸骨騎士。


「【風式・改】」


 死に物狂いで彼女との距離を遠ざけるが、一難去ってまた一難。

 骸骨騎士は、無慈悲に剣を振るう。

 見せろ、修行で習得した完璧なる防御を。

 剣と刀の衝突し、風圧がオレの冷や汗を奪う。

 両者一度離れて、二つの太刀が互角にぶつかり合った。

 しかし、使いに対しては天術を使えるオレの方が強い。


「〈()(じゅん)〉」


 足の【風式・改】を使用するため、踏み込んだ瞬間だった。

 激痛が己を襲い、地面へ縫い付けられたように虚脱した。目を眇めて落とす視線の先には、足の甲に刺さる剣が。


「クッソ!」


 膝から崩れるオレは、原因を炙り出すように瞳を彷徨わせた。

 無明の空、メディオーサが薄く笑う。

 そうか、彼女が剣を投擲したのか。

 骸骨騎士の動きに自然と戦慄した。


「ライ!」


 グロードが全力疾走するが、間に合いそうにない。

 骸骨騎士の空いた眼と見合う。

 静謐で感情のない斬撃がオレの腕を襲いかかる。。

 やはり、レインと肩を並べる者と分かった時点で退避するべきだった。

 諦めかけたその時。


「【源変】――【冷風(れいふう)】」


 笛のような音を奏でながら、薄氷が骸骨騎士の動きを止める。

 件を蹴り上げて砕き割る少女が一人、自身の前へ躍り出た。

 郷愁の声。

 憧憬の技。

 同じ実力。

 酷似した姿。

 理解が追い付かなかった。


「困った人を助けるのが英雄」


 可憐な微笑みを浮かべて、振り返る。


「今、そんな風に見えてるかな?」


 ああ、見えてるさ。

 立派な英雄だよ。

 それがたとえホルンとは――、

 別人だとしても。


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